第759話 魔力の制御

「どうだいレナ君?」

「うん、確かに魔力を吸われている感じはありませんね」

「なら、今度は防具として使ってみてくれ。君ならカツのようにすぐに倒れる事はないだろう」

「あ、はい。じゃあ、ちょっとだけ……」



レナは盾をとりあえずは左手に装着すると、腕を構えて盾の力を引き出そうとした。この時、盾の水晶玉が紅色の光を発生させると、盾の全面が紅色の魔力を纏う。それを見たアルフは驚きの声を上げた。



「こ、これは……何という魔力!?いかん、すぐに手放すのじゃ!!その調子で魔力を放出すれば倒れてしまうぞ?」

「なっ!?レナ、すぐに手放しなさい?」

「え?いや、平気ですよ。これぐらいなら……」

「ほ、本当に大丈夫なのかい?」



アルフは心配した声を上げたのでイルミナはレナの身を案じて慌てて手放すように指示を出すが、当のレナ本人は特に疲れた様子もなく、カツの様に倒れる様子はない。常時魔力を吸い上げられる感覚を味わいながらもレナは特に問題ない事を悟る。


確かに装備した状態で盾を使用したいと考えるだけで魔力を吸い上げるようだが、この時にレナは吸い上げられる魔力を奪われないようにする事は出来ないのかを試す。



「ていっ」

「あ、盾の光が消えた。使用するのを止めたのかい?」

「いえ?今も使用していると思いますよ。だけど、吸収されそうになる魔力を留めているんです」

「そんな馬鹿な……!?」



レナの言葉にアルフは驚き、そんな方法が出来るはずがないと彼は焦る。だが、普段から付与魔術師であるレナは物体に魔力を付与させる方法を身に付けており、言って見れば彼は普段から魔力を扱い方を身に付けていた。レナは自分から魔力を吸収しようとする盾から抗い、逆に送り込む魔力を調整して盾の効果を制御する事も出来た。



「なるほど、この盾は送り込む魔力の量に比例して効果が上がるみたいですね。でも、今のところはどういう効果があるのか分かりませんね」

「ふむ、見た所ではレナ君が盾に付与魔法を施したようにしか見えないな……だが、盾というからにはこの状態で攻撃を受けたら効果が分かるかもしれない。長老、試しに外に出て使ってみても構いませんか?」

「あ、ああ……それは構わんが、本当に大丈夫なのか?」

「平気ですって、じゃあ行きましょうか」

『くそうっ……俺には扱えないのか』



盾の効果を試すためにレナ達は外へ出向く事を提案すると、アルフもレナが本当に勇者の盾を扱いこなせるのか気にかかり、供を連れて岩山の外へと抜け出す――






――勇者の盾を扱える者が現れたという話を聞き、族長のアルフが暮らす岩山だけではなく、他の岩山に隠れ住んでいたエルフの戦士達も集まり、中には戦士ではない女子供も興味本位でレナが勇者の盾を扱う場面を見学しようと押し寄せてきた。


普段は岩山に隠れ暮らすエルフ達ではあるが、かつて誰一人として完璧に扱いこなせなかった盾を扱う人間が現れたと聞いては黙ってはいられず、数十人のエルフが集まってレナが盾を使用する場面を確認しようとする。



『よし、じゃあ行くぞ!!準備は出来たか!?』

「はい、大丈夫です!!」

「カツ、本気でやっては駄目ですよ!!」

「レナ君を怪我させるんじゃないぞ。もう回復薬も残っていないんだからな」



盾として扱うため、レナの対戦相手として戦斧を手にしたカツが相手をする事になった。盾を手にしたレナにカツが戦斧を叩きつけ、どんな結果になるのかを確かめる事がが決まった。


レナが装備した盾は今のところは付与魔法を施した防具のように紅色の魔力を宿っているようにしかみえないが、魔力は盾の前面にしか集まっていなかった。通常、付与魔法で物体に魔力を施す場合は物体全体に魔力が宿る。しかし、勇者の盾の場合はレナが送り込む魔力は自然と前面に集まり、全体を覆い込む様子はない。


恐らくは盾の中央部に取り付けられている水晶玉を通して魔力が流れ込まれているらしく、裏面には魔力が届かない仕組みになっていると考えられた。また、試しにレナは盾に付与魔法を施そうとしても上手くいかず、送り込んだ魔力は勝手に水晶玉に吸収されてしまう。



『よ~し、練習とはいえ実戦で使えるかを試す必要もあるからな!!気を抜くなよレナ!!』

「分かりました!!」

「カツ!?人の話を聞いていましたか!?」

「いいかい、くれぐれも怪我をさせないように手加減するんだぞ」

「本当に大丈夫かのう……」



カツの発言にイルミナとルイは注意するが、その様子を見ているアルフは不安な表情を抱く。今までに勇者の盾を装備しようとしたエルフの戦士は何人も見てきたが、誰一人として成功した事はない。つまり勇者の盾を実際に使用した者はいなかった。


アルフは魔力を持たないに人間でも勇者の盾を使用すれば魔法の力を使えるとはいったが、それはあくまでも伝承として伝わっているだけで勇者以外の存在が勇者の盾を扱えるとは思っていなかった。だからこそレナが勇者の盾を扱える事自体に彼にとっては信じられない出来事だった。




※今回の投稿の5秒前


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カタナヅキ「ああっ!?また勝手に押された!?」(;´・ω・)

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