第756話 和解
族長のアルフの案内の元、レナ達は岩山の地下へと案内される。地下には捕獲した魔物を閉じ込めるための牢が存在し、その中の一つにダンゾウは閉じ込められているという。
「お主等の仲間と思われる巨人族はこの中におる。ほれ、確かめてくれ」
『おい、ダンゾウ!!いるか!?』
「んっ……その声はカツか」
地下牢にカツが声をかけると、奥の方から大きな人影現れ、やがて全身に包帯を巻いたダンゾウが姿を現す。その姿を見てレナ達は驚き、いったい何があったのかを問い質す。
『ダンゾウ!?お前、その怪我はどうしたんだ!!こいつらにやられたのか!?』
「いや、違う。この傷は地上の魔物達にやられてな……ここに暮らすエルフに治療してもらったんだ」
「うむ、うちの若い衆がこの者を見つけた時は既に致命傷を負っていた。だからここへ運び込んだ時に治療もしておいたのだ。最も、儂等も余裕があるわけではないのでな。薬草を磨り潰した粉末と包帯ぐらいしか治療は出来んかったが……」
「その通りだ。カツ、俺はここのエルフに救って貰ったんだ」
『そ、そうか……それは悪い事を言ったな、すまねえっ』
ダンゾウの言葉を聞いてカツは誤解した事を謝罪し、その一方でダンゾウが無事だったことを喜ぶ。怪我は負ってはいるが治療は既に済んでおり、巨人族の回復力ならばしばらく休めば全快すると考えられた。
レナ達はグランとアランから聞いた話では西里のエルフにダンゾウは捕縛されたと思っていたが、事実は地上の魔物との戦闘で負傷していたダンゾウをエルフ達がここまで運び込み、治療を行う。但し、正体不明の相手を簡単には信用できず、檻の中に閉じ込めたという。
「ダンゾウ、君は転移した時はどこにいたんだ?」
「分からない……俺は気づいたときにはこの荒野に存在する最も高い岩山の頂上付近に存在した。転移台らしき乗り物はあったが、どういう事か反応しなかった。転移石は持っていたんだが、お前達を探すために俺は岩山を降りて荒野を彷徨っている時、魔物の群れと遭遇して戦い続けたんだが、流石に数が多すぎた」
「うちの若い衆がダンゾウ殿を発見した時は驚いたそうじゃ。何しろダンゾウ殿はこの荒野に生息するオオツノオークの群れを全滅させ、半死半生の状態で立ち尽くしていたと聞いたときは流石に信じられんかったわ」
「あの時の光景は忘れられません……」
「ああ、確かにな……」
グランとアランはダンゾウと初遭遇した時の事を思い出し、通常種のオークの進化種である「オオツノオーク」は全長は3メートルを超え、その強さは赤毛熊にも匹敵する。そんなオオツノオークの群れを相手にダンゾウは一人で戦い抜き、勝利した。
オオツノオークを全滅させる事には成功したダンゾウではあったが、戦闘後は負傷が激しくて気絶してしまったらしく、そんな彼をエルフ達は里の中に連れてきたという。得体の知れない相手ではあるが、ダンゾウの戦闘力を見込んで彼等は里にまで運び込んだという。
「我々がダンゾウ殿をここまで運んだのは実は頼みたい事があってのう、お主等も知っての通り、我々は他の里のエルフと敵対しておる」
「まさか、ダンゾウを味方にして他の里と争うつもりだったのですか!?」
「うむ、先ほどまでは儂等もその方法を考えていた。しかし、お主等の話が事実だとすれば儂等の争いの元凶であった牙竜は死んだ……ならば、もう儂等が争い合う理由はない」
「え?なら……」
「良い機会かもしれん……同族同士の醜い争いを止める時が来た。儂は西里の代表として和解交渉を南里と東里のエルフに申し込む事を決めた」
「族長!?」
「本気ですか!?」
アルフの言葉に息子と孫のグランとアランは驚くが、族長として里を守るためにアルフは本気で他里の和解を決意した。だが、それは簡単な話しではなく、争いの元凶となった牙竜が死んだ所で各里のエルフの因縁がなくなったわけではない。
「お爺様、私は反対です!!奴等のせいで同胞がどれだけ死んだと思っているのですか!?母上も、お婆様も……奴等に殺されたのですよ!!」
「よせ、アラン!!」
「父上は納得できるのですか!?奴等のせいで母上は……!!」
「分かっておる、しかし……これ以上に無益な戦いを続けてどうなる?儂等がすべきことはこの愚かな戦を止め、もう誰も傷つける必要がない日々を取り戻すだけじゃ」
アランの言葉に対してアルフは首を振り、これ以上に他の里のエルフとの争いを続ける無意味さを語る。今までは牙竜という脅威がいたからこそ島内のエルフ達は争いあっていたが、その元凶がいなくなった今こそが和解の好機だった。
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