第755話 ダンゾウの現状
西の荒野に暮らすエルフ達は無数に存在する岩山の内部を掘って住居を作り出し、そこにエルフ達は暮らしていた。彼等は魔物に襲われないように岩山の内部で暮らす生活を送り、普段は荒野の魔物を狩猟して生活を送っている。
幸いというべきなのか飲み水に関しては荒野の地下に大きな空洞が存在し、そこにある地下水を汲み上げているので水には困らなかった。また、室内でも育てられる野草を栽培し、彼等は自給自足の生活で今まで生き抜いてきたという。
「この荒野は獰猛で危険な魔物は多く、本来は人が住めるような環境ではない。しかし、儂等の先祖はこの場所で生き抜くために岩山の中に住居を作り出し、生活するようになったんじゃ」
レナ達はアルフの部屋へと案内され、彼から事情を聞く。西里の住民は全員が岩山の内部に住居を作り出し、そこで生活する以外に生きる道がなかったらしい。
「は我々の先祖はこの島に移り住んだ時は苦労したそうじゃ。本来は人が住むような場所ではないからな。それでも先祖にとっては大陸に戻るぐらいならばこの環境を受け入れて生き抜くことを選択したようじゃ」
「そうだったんですか……」
「この住居も元々は先祖が作り出した物でな。長い時を掛けて岩壁を削り堀り、人が住める程の大きさにまで掘り進めたと聞いておる。それに荒野に救う魔物は意外と多いからのう、住居さえ手に入れれば生活には困らんかった……だが、ある時にこの西里に他の里の連中が攻め寄せてきたのが悲劇の発端じゃった」
アルフによると西里のエルフ達は平和に暮らしていたのだが、数十年ほど前に牙竜が島に現れてから島に暮らしていた東西南北に存在する里のエルフ達との関係が崩れたという。
牙竜の出現によって島中の魔物達は食い荒らされ、更には東里や南里のエルフ達が育てていた農作物も大きな被害を受けたという。彼等は深刻な食糧危機へと陥り、最初の頃は他の里に食料を支援してもらおうと頼んでいたが、何時の頃から食料を奪い合うようになってしまった。
「牙竜が現れたばかりの頃、儂等の元に東里と西里から食料の支援を要求された。しかし、見ての通りに儂等は自分達の食料を確保するだけでも精いっぱいの状況じゃった。牙竜はこの荒野にも訪れて魔物を狩りつくしていたからのう」
『そこまで酷かったのか?それならどうして牙竜を倒そうと考えなかったんだよ』
「無論、最初の頃は各里で協力して牙竜の討伐隊を編成しようとした事もある。だが、結局は牙竜に返り討ちにされた。奴は神出鬼没で何処から現れるかも分からず、しかも各里の関係は良好だとは言えなかったからのう……結局は討伐に失敗した我々は牙竜を倒す事を諦め、互いの所有する食料を奪い合うために争いが始まってしまった」
最初の頃は各里が協力して牙竜の脅威を取り除こうとしたが、討伐隊は敗れて更には北里が壊滅したという情報が入った時点で森人族たちは牙竜を討ち取る事を断念した。災害の象徴と恐れられる竜種に立ち向かう方が無謀であり、結局は島内のエルフ同士で争い合う。
「儂等は自分達の食料を守るため、自分達の暮らす土地を守るために戦った。今尚もその争いは続いておるし、それどころか争いの終わりが見えぬ……このままでは儂等は全滅するかと思った時、お主等がこの島に訪れて牙竜の脅威を打ち消してくれた。ありがとう、本当に助かった……主等のお陰で我々は救われた」
「いえ、そんな……」
「私達は北里に暮らす長老の願いを引き受けただけです。感謝するのであれば北里の長老に感謝して下さい」
「うむ、まさか北里に生き残りがいたとはのう……もう会えない事が非常に残念じゃ」
北里に生き残りのエルフがいた事はアルフも知らなかったらしく、牙竜によって北里が滅ぼされたと聞いていた時から彼はもう北里に暮らしていたエルフは全員が死んでると考えていた。
仮に生き残りがいたとしても北里の厳しい環境を考えれば山を下りて他の里に助けを求めるか、少なくとも山に残り続けて暮らすなどという選択を行うとは思えなかった。だが、たった一人の生き残りのエルフが実は魔物使いで魔物の力を借りて集落に残って暮らしていたなど誰も想像できるはずがなかった。
『あのよ、爺さん。感謝しているんなら俺達の仲間をさっさと解放してくれないか?ダンゾウの奴がここに捕まっているんだろう?』
「うむ、確かにダンゾウという巨人族はここにおるが……お主等はちょっと勘違いしているようじゃな」
「勘違い?それはどういう意味ですか?」
「確かに儂等はダンゾウという者を匿っておるが、別に捕まえたつもりはない。むしろ儂等は彼を助けたつもりじゃ」
「助けた?それはどういう意味ですか?」
「ふむ、とりあえずは本人に合わせよう。話はそれからでも構わんな?」
事前にグランとアランから聞かされていた話と族長の言葉の食い違いにレナ達は疑問を抱き、そんな彼等を見てアルフはまずはダンゾウがいる場所に案内する。
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