第754話 族長
「初めまして、大陸の冒険者殿……儂が西里の族長を務めるアルフじゃ」
「アルフ、さん?」
「控えろ人間!!この御方をどなただと思っている!?」
「控えるのはお主等じゃ、馬鹿者が!!」
レナの言葉にエルフの一人が反応するが、そのエルフに対してアルフと名乗る老人は睨みつけて黙らせる。その族長の言葉にエルフの男は態度を一変させ、その場で頭を付いて謝罪した。
「も、申し訳ありません!!」
「全く……すまんのう、うちの若い衆はどうも血の気が多くてな。お主等には迷惑を掛けたようじゃな」
『おう、いきなり襲い掛かってきて大変だったぜ』
「そうか、それはすまんかったな……しかし、我々にも事情があるのだ。一応は事前に話は通っているかもしれんが、儂等は現在は東里と南里とは敵対関係に陥っておる」
「話は伺っていましたが、それほどまずい状況なのですか?」
「うむ……その辺の話を詳しく説明する前にまずはお主等を儂の住居へと案内しよう。付いて来てくれ」
族長は使用人の手を掴んで歩き、レナ達もその後に続く。族長は岩山を回り込むように移動すると、ある場所で立ち止まり、岩壁を指差しながらカツに声をかけた。
「そこの若いの、悪いがこの岩を剥がしてくれんかのう」
『え?俺の事か?』
「そうそう、お主は随分と重そうな甲冑を身に付けておるからのう。力にも自信があるのじゃろう?ならばこの岩を退かしてくれんか?」
老人が指示した岩壁はよくよく観察すると岩山の一部ではなく、大きな岩が張り付いている事が判明する。どうやらこの巨岩を引き剥がせば岩山の内部に入れるらしく、カツは困ったように岩の前へ移動した。
『爺さん、持ち上げろって……いくら俺でもこんなでかい岩を持ち上げられねえぞ』
「ほれほれ、弱気な事を言わんで早くせんか」
『たく、人使いの荒い爺だな……ふんぎぎぎっ!!』
カツは巨岩に手を伸ばして持ち上げようとするが、巨岩はびくともせずに岩山から離れる様子はない。しばらくの間はカツも頑張ったが、結局は巨岩を引き剥がすどころか動かす事もできなかった。
その様子を見ていたエルフ達は笑みを浮かべるが、そんな彼に対してレナがカツの代わりに巨岩を動かすことを宣言する。
「カツさん、変わりましょうか?」
『ぜえっ……ぜえっ……くそ、仕方ねえか。気を付けろよ、思ったよりも重いぞこれ』
「大丈夫ですよ、俺には重さは関係ありませんから」
「ほほう、大きく出たのう。しかし、一人で大丈夫か?」
「問題ありませんよ、これぐらいなら平気です」
「ほっほっほっ、それは勇ましいのう」
ルイ達の中で一番小柄な少年が申し出た事にアルフは笑い声をあげるが、先ほどレナの戦闘を見ていた者達は笑う事が出来ず、不安な表情を浮かべた。
巨岩の前に立ったレナは両手を構えると、付与魔法を発動させて巨岩の全体に魔力を流し込む。巨岩に付与魔法を施す事が出来ればどれほどの重量だろうと関係なく、レナは重力を操作して巨岩を引き剥がす。
「よっこいしょっ」
「おおっ……!?」
「し、信じられん!!」
「あの巨岩を軽々と……!?」
「ふふふ、これがうちの冒険者だよ」
巨岩を軽く持ち上げて岩山から引き剥がしたレナを見てエルフの戦士達は呆気に取られ、その様子を見ていたルイは誇らしげな表情を浮かべ、イルミナもカツも満足そうに頷く。
巨岩を岩山の少し離れた場所に置くと、内側から人が通れるほどの大きさの出入口が出現し、それを見届けたアルフは頷く。彼はレナへと振り返ると、思わぬ言葉を掛けた。
「ふむ、やはり其方が地竜と牙竜を屠ったという話は事実であったか」
「えっ!?どうしてその事を……」
「僕が話したんだどうやら彼等もあの時の戦いの様子をこっそりと見ていたらしい」
アルフの言葉にレナは驚くが、ルイによると彼女は事前にアルフたちから事情を聞かれたらしく、実は地竜と牙竜との戦闘の際に西里のエルフ達もレナ達の戦いぶりを見ていた事が発覚した。
――時は少し遡り、レナ達が魔人と協力して牙竜と地竜と激戦を繰り広げていた時、湖の付近では西里のエルフの戦士達も様子を観察していたという。
西里の戦士達は湖に現れた得体の知れない人間達と、まるで人間のように言葉を話す魔人の姿を見て驚き、最初は警戒していた。しかし、彼等が牙竜と地竜を戦わせる光景を確認し、更にはレナが付与魔法の力で地竜と牙竜を天高く飛ばしてから湖に落とした場面も実は見ていたという。
当然ではあるが族長にも彼等の情報は届いていたが、内容が内容だけに簡単には信じ切れず、偵察の兵を送り込んで湖の様子を観察させる。この際に派遣されたグランとアランは実はアルフの息子と孫である事が判明した。
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