第753話 サンダーボルト

『うおっ!?この気配……やべえ、イルミナの奴あれをやる気だ!!』

「カツさん、離れましょう!!」

『ああ、だがその前に……もう一発食らわせるぞ!!今度は二人同時にだ!!』



カツはキングボアの上空に発生した魔法陣を見てイルミナが魔法の準備を整えた事に気付き、彼はレナに指示して退散する前に最後の攻撃を繰り出す。二人は闘拳と戦斧を振りかざし、同時に攻撃を叩き込む。



「重撃!!」

『喰らえっ……兜砕き!!』

「フガァアアアアッ――!?」



眉間に再び強烈な衝撃が伝わり、レナの闘拳とカツの戦斧を叩き込まれた眉間から凄まじい勢いで血液が噴き出す。どうやら頭蓋骨に罅が入ったらしく、キングボアはたまらずに足を止めてしまう。


キングボアが怯んだ隙にレナはカツの身体を担ぎ上げてスケボで移動を行うと、上空の魔法陣から電流が迸り、次の瞬間には巨大な雷撃がキングボアへと襲い掛かった。



「広域魔法……サンダーボルト!!」

『ッ――!?』



凄まじい雷撃がキングボアの巨体を貫き、あまりの電撃の威力にキングボアの肉体は焼け焦げ、悲鳴を上げる暇もなくキングボアは絶命した。その光景を見たエルフ達はすさまじい魔法の一撃に愕然とした。


黄金級冒険者にして恐らくは帝都の砲撃魔法の使い手の中でトップクラスの実力者であるイルミナ、マドウやサブが亡き今は王都で一番の魔術師は彼女ではないかと噂されている。少なくとも補助魔法専門のルイにはこのような真似は出来ず、当然だがレナも同じことは出来ない。


火力という点では全ての魔法の中でも砲撃魔法こそが最も優れており、魔力の消耗が大きいという弱点はあるが、それを補って余りある力を持つ。その砲撃魔法を極めたのがマドウであり、その弟子のイルミナも彼には及ばずとも、将来的には彼を上回る魔術師になれる可能性は十分にあった。



「ふうっ……ふうっ……流石に魔力を使いすぎましたね」

「ば、馬鹿な……信じられん、何という威力だ」

「あのキングボアを本当に……」

「有り得ん、そんな馬鹿な……」



キングボアが討たれた光景を見てエルフ達は愕然とするが、そんな彼等の元にカツを担いだレナが戻ってくると、改めてエルフ達は警戒態勢を取る。一方でカツの方は膝を崩して汗を流しているイルミナの元に近付き、彼女の肩を叩く。



『たく、無茶しやがって……けど、流石だな。前よりも威力が上がってるんじゃないのか?初めて撃った時は気絶してたのに今回は意識を保ってるな』

「当然、です……この程度、どうという事はありません」

「あの、大丈夫ですか?魔力回復薬とかは……持ち合わせてませんよね」

「ええ、残念ながら……カツ、肩を貸して下さい」

『たく、仕方ねえな……ほらよ』



カツに肩を貸して貰ってイルミナは立ち上がると、改めて他の者達に振り返る。最初の頃は敵意を向けていたエルフ達だったが、今はレナ達に対して明らかに怯えており、身体を震わせていた。


西里のエルフの戦士にとってキングボアは彼等の手には負えない相手だった。そんなキングボアをたったの3人で打ち取ったレナ達に対して彼等は得体の知れない相手だと判断し、危機感を抱くのは仕方ない。だが、戦士の維持としてグランはレナ達に情けない姿を見せられないと判断して声をかける。



「れ、礼を言う……あのキングボアは我々も頭を悩ませた存在だ。討ち取ってくれた事は感謝する。しかし、ここは我々が管理する地だ。もう余計な真似は止めてくれ」

『何だと?冒険者が魔物を倒して何が悪いってんだ?』

「カツ、止めなさい……申し訳ありません、余計な真似をしました」

「すいませんでした」



グランの言い分にカツは気に入らなそうな声を上げるが、すぐにイルミナとレナも謝罪する。その様子を見てグランは内心で彼等の機嫌を損ねなかった事に安堵し、一方で自分達も態度を改めるべきだと彼は他のエルフに促す。



「お前達も礼ぐらいは言ったらどうだ?」

「あ、ああ……すまない、キングボアを討ち取ってくれてありがとう」

「正直、本当に助かったよ……」

「感謝する」

『……まあ、いいって事よ。その代わりと言ってはなんだがダンゾウの奴が何処にいるのか先に教えてくれるか?あいつは俺の相棒なんでな、酷い扱いをしてないだろうな?』

「いや、それは……」

「それは儂が話そう」



カツの言葉に答えたのはグランたちではなく、岩山の裏手からルイと共に姿を現した老人のエルフだった。その老人の姿を見たエルフ達は驚き、その場に膝を付く。



「ぞ、族長!!」

「外に出られても大丈夫なのですか?」

『族長?この爺さんが一番偉い奴か?』

「カツ、失礼な事を言うんじゃない」

「団長!?戻ってこられたのですね!!」



老人の後ろにはルイが現れ、彼女の他にも数名の女性のエルフが姿を現す。そのエルフ達はグランたちとは格好が違い、戦士というよりも召使のような服装だった。

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