第752話 ボアの王

――フゴォオオオッ!!



「あれは……ボア?」

「なっ!?いかん、すぐに岩山の上に避難しろ!!」

「あれは……ボアではありません、キングボアです!!」

「キング?」



接近する巨大猪の姿を見てエルフ達は焦った様子で岩山の頂上へと駆け上ろうとしたが、一方でルイ達も迫りくる巨大猪を見て戦闘態勢へ入る。イルミナ曰く、迫りくる巨大なボアは普通のボアではなく、キングボアと呼ばれる魔獣だと判明した。



「奴はただのボアではありません、恐らくは突然変異で異常な成長を果たしたボアです!!その戦闘力はボアの比ではありません!!」

「ゴブリンキングみたいな存在ですか!?」

「いえ、ゴブリンキングはあくまでも通常種のゴブリンが進化を遂げた個体です。キングボアの場合はボアの亜種に近いと聞いていますが……」

『こいつは面白いな、久々に骨のありそうな相手だぜ!!』

「お、おい!?何をしているんだ、早く縄を解いてくれ!!このままだと死ぬだろうが!!」



縄で縛られた状態のアランはレナ達に対して早くに自分の縄を解くように伝えるが、カツの方は迫りくるキングボアに対して戦斧を振りかざし、イルミナも砲撃魔法の準備を行う。レナも引く気はなく、戦闘態勢に入った。


武器を構えたレナ達を見て避難を開始しようとしたエルフ達は驚愕の表情を浮かべ、まさかキングボアと戦うつもりなのかと動揺する。そんな彼等にグランは慌てて注意する。



「止めろ、奴はただのボアではない!!お前等人間が勝てる相手ではない!!」

『うるせえ!!怖いなら下がってろ、こっちはずっと戦えなくてイライラしてたんだ!!』

「仕方がありませんね……援護します、二人とも好きに戦ってください」

「分かりました!!」



レナは闘拳と籠手に付与魔法を発動させ、スケボへと乗り込む。一方でカツの方は既にキングボアに向けて駆け出し、戦斧を振り回しながらも正面から突っ込んだ。



『うおりゃあああっ!!』

「ば、馬鹿な……本当に挑むつもりか!?」

「愚かな……奴に勝てるはずがない!!」

「それはどうですかね、貴方達は黄金級冒険者の力を知らない」

「おう、ごん……?」



イルミナの言葉にエルフ達は唖然とするが、彼等は黄金級冒険者どころか、冒険者という存在すらも知らない様子だった。一方でカツの方はキングボアに接近すると、勢いよく跳躍して空中に繰り出すと身体を一回転させながら戦斧を振り落とす。



『兜砕き!!』

「フゴォッ……!?」



カツの繰り出した戦斧が眉間に叩き込まれた瞬間、キングボアは怯む。その隙を逃さずにスケボに乗り込んだレナもカツの後方に接近すると、戦斧がめり込んだ眉間を見て自分も攻撃を行う。



「飛来拳!!」

「フガァッ!?」

『おしっ!!行くぞ、坊主!!』



レナが発射した闘拳がキングボアの左目に的中すると、完全に眼球を潰して視界の半分を奪う。キングボアは左目を潰されて悲鳴を上げ、その隙にカツは戦斧を引き抜くとキングボアの毛皮を掴み、落とされないように気を付ける。


キングボアにしがみついたカツは戦斧を振りかざし、今度も同じ場所に刃を叩き込む。それを確認したレナはカツの元へ近づき、彼の戦斧の刃の部分に掌を構えた。



「カツさん!!」

『よし、連携攻撃だ!!行くぞっ!!』



戦斧にレナは付与魔法を施すと、カツは戦斧を振りかざし、今度は強い重力も加わった一撃がキングボアの眉間に叩き込まれる。先ほどよりも重さを増した一撃にキングボアは悲鳴を上げて身体を頭を激しく動かす。



「プギャアアアッ!?」

「ば、馬鹿なっ!?あのキングボアが……」

「何て奴等だ!!」

「……今だ、加勢に行くぞ!!奴を倒せる絶好の好機だ!!」

「何ですって!?父上、本気ですか!!」



キングボアを相手に優勢に戦っているレナ達を見てグランは避難を辞め、二人の助勢を促す。そのグランの言葉に他のエルフ達は驚くが、キングボアを討ち取れる絶好の機会を逃すわけにはいかなかった。



「あと少しで奴を倒せる!!そうすれば我々はもうキングボアの脅威に怯えずに済むのだぞ!?」

「そ、それはそうかもしれんが……」

「悩んでいる暇はない、俺は行くぞ。お前達も覚悟出来たならついてこい」

「いえ、その必要はありません……ここは我々だけで十分です」



グランは一人でもレナ達の手助けのために動こうとするが、そんな彼に対してイルミナは制止すると、彼女は杖を上空に構えて自分が誇る最大級の攻撃魔法の準備を整えていた。


サブの弟子であるヘンリーが扱える広域魔法の「サンダーレイン」その魔法の更に上位互換である攻撃魔法をイルミナは習得していた。上空から雷撃を降り注ぐという点は共通しているが、彼女の繰り出そうとしている魔法は一点集中型であり、無数の雷を降り注ぐのではなく、一撃に特化させた雷を放つ。

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