第751話 交渉

「私達は確かに外部から訪れた人間だが、こうして北里のエルフに受け入れられている。君たちが争っていたのはあくまでも南、東の里だけだろう?」

「な、何が言いたい?」

「君たちの上司と交渉がしたい。僕達の仲間を引き渡してくれるというのであればこのまま黙って僕達は島から帰還し、二度と訪れない事を誓う。それでどうだ?」

「「…………」」



エルフ達は顔を見合わせ、ルイが見せつけるペンダントを見て黙り込む。確かに彼等が争っているのはあくまでも西里と南里でしかなく、北里と敵対関係を結んでいたわけではない。そして北里の住民から受け取ったペンダントを手にした人間を前にして二人は悩む。


だが、いくら考えた所で捕まっている自分達には拒否権はなく、ここで彼女の願いを聞き入れなければ何をされるか分からない。やがて年上のエルフが口を開く。



「分かった……俺達の里に案内する。交渉に関しては俺が掛け合う、それでいいか?」

「ああ、構わない」

「……ついてこい」



捕まえたエルフ達の案内の元、レナ達は湖を離れて島の西側の荒野へと踏み入れる。しばらく歩いているとエルフは大きな岩山へと辿り着き、自分の拘束を解除するように伝えた。



「俺の縄を解いてくれ、他の仲間に連絡を伝える」

『……妙な真似はするなよ』

「分かっている、約束は破らん」



カツが男の縄を斬ると、腕を解放された男は指をくわえると、口笛を鳴らす。すると岩山の頂上付近から弓矢を構えたエルフの集団が現れると、警戒した様子で彼等はレナ達の様子を伺う。


案内役の男が降りて来いとばかりに手招きすると、弓を構えたエルフ達は顔を見合わせ、やがて地上へと降りていく。この際にエルフ達は獣人族のような身軽な動作で瞬く間に岩山を駆け降りると、レナ達を取り囲む。



「グラン!!何者だこいつらは!?」

「どうして人間がここにいる!?」

「アランを話せ!!」

「止めろ!!弓を下ろせ、こいつらは外から来た人間だが北里のエルフの関係者だ!!これが証拠だ!!」



グランはルイに振り返ると、彼女はペンダントを取り出して見せつける。それを見てエルフ達は驚き、一方で困惑した表情を浮かべた。



「……北里の関係者である事は分かった。しかし、どうしてこいつらを連れてきた?」

「先日、捉えた巨人族の事は知っているだろう?その男はこいつらの仲間のようだ。こいつらは巨人族を解放して欲しいと言ってる。族長と交渉がしたいそうだ」

「何だと?あの巨人族の男か……」

「……少し待て、族長に話を通す」



話を聞き終えたエルフ達の中から一番年上だと思われる男性のエルフが岩山の裏手の方へと回り、それからしばらくすると彼は数名のエルフを連れて戻ってきた。



「族長がお会いになるそうだ。但し、お会いになられるのは一人だけだ。お前達の誰か一人だけ付いてこい」

『一人だと?おいおい、冗談じゃねえぞ。俺達を捕まえるつもりじゃないだろうな?』

「そんな卑怯な真似はせん!!我々は約束は絶対に破らん!!」

「いいんだ、なら僕が行こう」

「団長!?」



男性の言葉にルイは自ら赴く事を伝えると、イルミナが驚いた表情を浮かべる。だが、そんな彼女を安心させるようにルイは肩を叩き、ここは自分に任せるように促す。


ルイが前に出るとエルフの男性は頷き、自分に付いてくるように促す。数名のエルフに取り囲まれる形でルイはエルフ達の後に続き、岩山の裏手の方へと移動を行う。その様子を見送ったレナ達は彼女の身を心配するが、一方で未だに捕まっているエルフの若者はここで弱々しい声を出した。



「な、なあ……もういいだろう、俺の縄も解いてくれよ?」

『駄目だ、もしも団長が戻ってこなかったらお前も無事で済むと思うなよ』

「ひいっ!?」

「我が同胞に手を出すつもりか!!」

「その手を離せっ!!」

「カツ、脅かすような真似は止めなさい!!」



カツの言葉を聞いてエルフの若者は悲鳴を上げ、取り囲んでいたエルフ達は弓を構えるが、ここで先ほどグランと呼ばれた男性がその場を収める。



「止めろ、弓を下ろせ!!」

「だが、グラン……こいつらはお前の息子を人質にしているのだぞ!?」

『何?あんた、こいつの父親だったのか?』

「ああ、そいつはアランという私の息子だ。アラン、お前も情けない声を上げるな!!それでも戦士か!?」

「そ、そんな……」

「……ちょっと待ってください、何か聞こえませんか?」



カツがエルフ達と言い争っている最中、レナは耳元を澄ませると遠くの方から音が鳴り響いている事に気付き、音の正体が足音だと気付くのにそれほど時間は掛からなかった。その足音を耳にした瞬間、エルフの戦士達は険しい表情を浮かべて音が鳴る方向へと振り返る。


エルフ達が顔を向けた方向にレナ達も視線を向けると、遠方の方から土煙が舞い上がっている事に気付き、よくよく観察すると煙を巻き上げているのが巨大な猪だと判明した。

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