第750話 島の現状

「き、北里はもう滅びたと俺達は聞かされている……北里を監視していたエルフから報告を受けたんだ」

「監視?どうして監視なんかしてたんですか?それぞれの里は今まで不干渉を貫いてきたんでしょう?」

「不干渉だと?それは北里だけの話だ……東、南、西の里は対立している」

「対立?どういう意味ですか?」



予想外の言葉にレナ達は驚き、北里の長老の話ではもう長い間、各里は自立して連絡を取り合う事もなくなったと聞いていた。しかし、二人のエルフによると現在の北里を除いた里同士は争い合う関係だという。



「現在、西、東、南の3つの里は争い合っている。かつて、我々は勇者に連れられてこの島へと訪れた。だが、元々は別の部族同士の集まりだ。我々の先祖は部族ごとに分かれてこの島に暮らすようになった事は知っているのか?」

「ああ、その辺の話も聞かされている。しかし、どうして今になって各里が荒そう戸とになったんだい?」

「それは……牙竜のせいだ」

「牙竜……」



北里を壊滅させた牙竜の名がまたも出てくるとは思わず、レナ達は顔を見合わせる。そしてエルフ達は話を続けた。



「争いが起きたのは牙竜がこの島に訪れてからだ……そもそも、この島には牙竜など存在はしなかった。奴は島の外部から訪れたんだ」

「外部から訪れた?でも、ここは大陸から相当遠くに離れているんじゃ……」

「奴がどのような経緯で訪れたのかは我々も知らん。だが、数十年ほど前に奴は突如として姿を現し、この島を暴れまわった。我々の里は被害は最小限に抑えられたが、牙竜のせいで育てていた農作物は荒らされ、島内の食料となる魔物達も食い荒らされてしまった」



北里を襲撃した牙竜は元々は島の生物ではなく、数十年前に姿を現したという。言われてみればレナ達は里を襲撃した牙竜以外に他の個体がいるなど聞いていない。つまり、雪山の主であった牙竜は元々は外部から訪れた生物だと判明する。


どうのような経緯で牙竜が島に流れ着いたのかは不明だが、島に現れた牙竜は北里だけではなく、他の里にも大きな被害を与えていたという。その際に農場や食用の魔物も狩りつくされ、各里に暮らすエルフ達は1匹の牙竜のせいで食糧危機の問題を抱えた。



「最初に襲われたのは東里の連中だった。牙竜によって奴等は農作物を荒らされ、高原に生息する魔物達は追い散らされた事で食料が不足し、牙竜が別の地域に移動した後に奴等は我々の里と南里の奴等に食料を分けるように頼んできた。だが、牙竜のせいで我々の里の食料も余裕なかった……それなのに食料の支援を拒否すると、奴等は逆上して我々の里に攻め寄せてきた」

「お互いに食料を求めて3つの里は争い合うようになったが、北里に関しては人口が元々少なく、そもそも生物が暮らすには厳しすぎる環境に暮らしていた事もあって3つの里は北里には手を出さなかった。念のために我々の里だけは監視は行っていたが、その北里も牙竜に滅ぼされたと報告を受けていた」

『そういう事か……たった1匹の牙竜のせいでこの島は無茶苦茶にされたわけか』



災害の象徴とも呼ばれる竜種、その中でも気性が激しい牙竜が島に訪れた時点で災いは免れず、北里は滅ぼされ、残された3つの里も争い合う関係になったという。話を聞いたレナ達は何とも言えない気持ちを抱き、一方でレナはどうしてエルフ達が自分達を襲ったのかを問う。



「どうして俺達を襲ったんですか?俺達はエルフじゃないんですよ?」

「見ればわかる、お前達はこの島の外から来たんだな?どんな経緯でここへ訪れたのかは知らんが、ここは我々の島だ。部外者のお前達を置いておくわけにはいかん」

「こ、殺すつもりはなかったんだ。少し痛めつけた後、あの巨人族のように俺達の差里へ連れていこうとしただけだ」

「あの巨人族のように……まさか、ダンゾウを捕えたのですか!?」

「ダンゾウ?そういえばそんな名前を名乗っていたような……」



エルフ達の言葉にレナ達は驚き、どうやらダンゾウは西里に暮らすエルフ達に捕まっている事が判明した。すぐに彼を助け出すため、カツは二人の首根っこを掴んで居場所を問い質す。



『おい、ダンゾウを何処へやった!?お前達の暮らす里にいるのか!?』

「ぐっ……!?」

「ま、待て!!奴はまだ生きている、他に仲間がいるかどうかを吐かせるために今は拘束して牢に閉じ込めているだけだ……!!」

「なんて事を……すぐに助けに行かないと!!」

「落ち着くんだ!!」



ダンゾウが拘束されていると聞いてレナは助けに行くことを宣言するが、ここでルイが一括してまずは全員を落ち着かせる。彼女はカツが掴んだ二人組を離させると、長老から受け取ったペンダントを手にして二人に告げる。

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