第739話 イルミナの広域魔法
――ウォオオオオッ!!
岸部に地竜は辿り着くと、巨体を湖から抜け出して遂に上陸を果たす。すぐに魔人たちは地竜から逃げるために雪山へと向かい、その後を地竜は追いかける。
地竜が一歩踏み出す度に地震の如き振動が大地を走り、その振動のせいで魔人たちは上手くは知る事も出来ない。しかも予想以上に地竜の陸地の進行速度が速く、徐々に距離を詰められていく。
「姐さん、イルちゃん!!こいつ、思ったよりも早いぞ!?」
「その呼び方は止めてください!!団長、どうしますか!?」
「イルミナ、君の魔法で時間を稼げないのか!?」
「くっ……やってみます!!」
ファングの背中に揺すられながらもイルミナは杖を掲げ、今は亡き師匠の事を思い出しながらも彼女は魔法を発動させる。
「広域魔法、アースフィールド!!」
「この魔法は……!?」
「うおおっ!?すげぇっ!?」
マドウが得意とした「地属性」の広域魔法をイルミナは発動した結果、地竜の足元の地面が盛り上がり、下から突き上げる形で地竜の巨体がひっくり返される。予想外の地面の隆起に地竜は悲鳴を上げ、転倒した。
「オアアッ……!?」
「た、倒れた!!ひっくり返ったぞ!!はは、まるで本物の亀みたいだな!!」
「よくやった、イルミナ……イルミナ!?」
「はあっ、はっ……くっ、やはりまだ私の力量ではこれが限界ですか……!!」
魔法を発動する事には成功したがイルミナは全身から汗を噴き出し、戦闘が開始してから数分しか経過していないにも関わらずに魔力をほぼ使い切ってしまう。しかも事前にルイから魔法強化を受けた上での使用にも関わらず、先ほどの広域魔法だけで魔力を殆ど消耗してしまった。
マドウは年老いても広域魔法を一度発動した程度では魔力を使い切らず、補助魔法の支援を受けたイルミナでさえも彼にはまだ及ばない。改めて自分が目標として定めていた相手がどれほど偉大な存在なのかを再認識させられ、イルミナは苦笑いを浮かべる。
「オアアッ……!!」
「くそ、もう起きやがってきたぞ!?イルちゃん、もう一度出来ないのか!?」
「駄目だ、これ以上に無理をさせればイルミナが死んでしまう!!ここから先は走るしかない!!」
「畜生、お前等全力で走れ!!」
『ウォンッ!!』
ミノの言葉にコボルトとファングは従い、ルイは雪山との距離を測る。当初の予定ではそろそろレナ達が合流してもおかしくはないが、まだ姿は見えない。一方で地竜は起き上がると大きく口を開き、体内に残していた水を一気に放出させる。
「アガァアアアッ!!」
「なっ!?まずい、全員逃げ……うわぁっ!?」
「おおっ!?」
「きゃあっ!?」
『ギャインッ!?』
砲弾のように放つのではなく、広範囲に一気に水を吐き出された事でルイ達の頭上に大量の水が襲い掛かり、全員の足が止まってしまう。滝の様に降り注いだ水によって全員が地面に叩きつけられると、地竜はその間に接近して足で押し潰そうとした。
――オォオオオオッ!!
巨大な前脚を振りかざし、地竜は近くに存在したミノに目掛けて振り下ろす。ミノはどうにか立ち上がろうとしたが足元がぬかるんで上手く動けず、ここまでかと諦めかけた時、全員の耳元に咆哮が響く。
――グガァアアアッ!!
正面の方角から牙竜の方向が鳴り響き、地竜も含めて誰もが視線を前へ向けると、そこには地上をスケボで移動するレナと、その後を追う牙竜の姿が存在した。ゴブリン達は途中で避難を終えており、レナは自分が囮となって牙竜を引き寄せていた。
突如として出現した牙竜とレナに対して地竜は目を細め、即座に少し前に自分に攻撃を仕掛けた人間だと見抜く。地竜は怒りのあまりに全身を震わせ、前脚を戻して方向を放つ。
「オアアアアッ!!」
「グガァッ!?」
「くっ……ぶっ飛べっ!!」
牙竜が地竜の存在に気付いて注意が反れた瞬間、レナは牙竜の懐に潜り込むために耐性を屈めると、スケボを停止させる。その結果、牙竜はレナの身体に覆いかぶさる形となると、レナは両手を突き出して押し出す。
「反発!!」
「ガアアアアッ!?」
「オオッ……!?」
巴投げの要領でレナは牙竜の懐から衝撃を与え、牙竜の身体を地竜の方へと吹き飛ばす。そのままに2頭の竜種は互いに身体を衝突させ、お互いに怯む。互いに地面に倒れ込むと、すぐに希少が荒い牙竜は地竜の首元へと喰らいつく。
「ウガァッ!!」
「オアッ……!?」
唐突に自分の首元に鋭利な牙を突き立ててきた牙竜に対して地竜は戸惑い、即座に振りほどこうとするが、牙竜は牙を食い込ませた状態から離れない。頑丈な地竜の岩石のような鱗も牙竜の牙には削り取られ、徐々に内側から血が噴き出す。
地竜は外見は巨大な岩のような生物に見えるが、実際は生身の生き物である事は間違いなく、身体の内部には血液も通っている。その血液を牙竜は吸い上げ、地竜を仕留めようとするが、今度は地竜が巨体を転がして牙竜の身体を押し潰そうとした。
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