第737話 牙竜誘導作戦
「俺は空を飛んで逃げる事が出来るけど、君たちを連れていく事は出来ないんだよ。だから、ここで長老と一緒に留守番してほしいんだけど……」
「ソレハムリ、オレタチモヤクニタチタイ!!」
「オレタチダッテ、イッショニタタカウ!!」
「カナラズヤクダツ!!」
ゴブリン達は必死にレナにしがみつき、そんな彼等にレナは困った表情を浮かべる。気持ちは分かるが彼等を連れていけば牙竜の餌食にされる可能性も高く、第一にゴブリン達では牙竜に太刀打ちは出来ない。
渋るレナに対してゴブリン達は自作のボーガンを取り出し、更には板を取り出す。ボーガンは分かるが、木の板を掲げたゴブリンに対してレナは疑問を抱くと、ゴブリン達は自分達が普段からどうやって雪山を移動しているのかを話す。
「オレタチ、イツモコレデフモトマデオリテル!!」
「コレヲツカエバ、ファングヤコボルトヨリモハヤクウゴケル!!」
「その板で……?」
レナはゴブリンから詳しい話を聞き、雪山に暮らす彼等がどうやって危険な生物の追跡を逃れて生活をしてきたのかを知り、確かに作戦に役立つかもしれないと考えて彼等の同行を認めた――
――それからしばらくの時間が経過すると、レナとゴブリン達は牙竜が生息する洞窟へと辿り着き、様子を伺う。洞窟といってもそれほど奥深いわけではなく、牙竜は出入口の付近でいびきをかきながら眠っていた。
(眠っているな……でも、あんなに痛めつけたのにもう傷が治ってるのか)
牙竜の様子を伺ったレナは先の戦闘で負わせたはずの傷跡が消えている事に気付く。強いだけではなく、桁外れの回復力を誇る牙竜に対してレナは理不尽を覚えながらもゴブリン達に振り返り、指定の場所へ着くように促す。
洞窟の中に踏み込んだレナは魔銃を取り出し、駄目元で牙竜の頭部に向けて銃口を構えた。仮に目覚める前に牙竜の頭部を貫けば作戦を実行する必要もないが、拳銃を発砲する寸前、僅かにレナが放った殺気に反応したのか牙竜は目を見開く。
「ガアアッ!?」
「くそっ!?」
魔獣を撃つ寸前で目を覚ました牙竜に対してレナは引き金を引くが、いち早く動いていた牙竜は頭部への衝突だけは避け、弾丸は頬を掠める。その際に牙竜の頬に血が流れると、牙竜は怒りの咆哮を放つ。
――グガァアアアアッ!!
洞窟が崩れかねないほどの大音量の咆哮が放たれ、それに対してレナは事前に耳栓をしていたお陰で堪える事は出来た。すぐにレナは足元のスケボに乗り込むと洞窟を飛び出し、それを見た牙竜は怒りのままに後を追う。
洞窟の出入口を破壊して牙竜は外へと飛び出すと、雪の上を滑り落ちるように降りていくレナの姿を確認し、真っ先に追いかけようとした。だが、そんな牙竜に対して多方向から矢が放たれる。
『ギギィッ!!』
「ガアッ……!?」
牙竜に攻撃を仕掛けたのは洞窟の周囲に待機していたゴブリン達であり、彼等はボーガンを使用して矢を放つと牙竜の注意を拡散させる。ただの矢では牙竜の身体に損傷を与えられるはずがないが、それでも注意を引く程度の事は出来た。
「グガァッ……!!」
『ギギギィッ!!』
ゴブリンの存在に気付いた牙竜は怒りのままに攻撃を仕掛けようとしたが、ゴブリン達は木の板を取り出し、斜面を掛け降りていく。まるでスノボの如く板を利用して麓の方角に降りていくゴブリン達の姿を見て牙竜は怒りの咆哮を放ちながら追いかけてきた。
器用に雪の上を滑るゴブリン達を見てレナは感心する一方、自分も彼等のように雪の上をスケボを利用して移動すると、牙竜は雪の上を掛けながらも誰を狙うのか躊躇する。やがて一番近くを滑り落ちていたゴブリンを標的に定め、襲い掛かる。
「ガアッ!!」
「ギギッ!?」
「させるか!!」
前脚を振り下ろしてゴブリンを吹き飛ばそうとした牙竜に対し、咄嗟にレナは魔銃を発砲して牙竜の頭を狙う。弾丸は牙竜の耳元に命中し、血が滲む。その結果、牙竜は攻撃を失敗して雪原に転がり込み、耳元から血を流しながらレナを睨みつけた。
「グガァアアアッ!!」
「こっちだ、来いっ!!」
自分を標的に定めた牙竜に対してレナは速度を上昇させ、このまま麓まで一気に駆け降りようとしたが、それに対して牙竜は雪煙を舞い上げながら勢いよく跳躍を行う。突如として空を飛んできた牙竜に対してレナは驚き、咄嗟に反応できずに避けきれなかった。
「アアッ!!」
「くうっ……うわっ!?」
回避しようと試みたレナだったが、牙竜が伸ばした爪の先端部分がスケボへと引っかかり、金具で固定していたスケボから足元から離れて空中に飛んでしまう。それを目撃したゴブリンの1匹が慌ててレナが雪の上に落ちる前に接近し、彼を両手で抱き上げた。
「ギィアッ!!」
「うわっ……あ、ありがとう!!」
「ガアアッ!!」
小柄とはいえ、魔人であるゴブリンも力は強く、そのままお姫様抱っこの形でゴブリンはレナを抱えて雪の上を滑走する。その様子を見た牙竜はスケボを振り払い、後を追う。
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