第736話 地竜誘導作戦
「まずは牙竜の誘導に関してはレナ君に一任する、その一方で僕達の方は別の囮班を作り、湖の地竜を誘導するんだ」
「つまり、囮役を二つに分けて竜種共をおびき寄せるという事か?」
「そういう事だね。地竜の情報を纏めると、この島に救う地竜は湖の中に暮らしている。それは間違いないのかい?」
「おおっ、奴はいつも湖の中に潜んでいるぜ。どうやって生活しているのかは知らないが、あいつは湖を離れた場所なんて見た事がないな」
ミノによると島に生息する地竜は普段は湖の中に身体を沈め、滅多な事で姿を現さないという。だが、レナのように自分の縄張りに踏み込んだ生物を発見した場合、容赦なく襲い掛かる事から湖に近付く生物は皆無だった。
「地竜の情報を纏めると、普段の地竜は湖から離れることはない。だが、刺激を与えれば獲物を始末するために攻撃を開始する。ならば僕達も奴の習性を利用し、岸部から攻撃を行って地竜を引き寄せよう」
「でも、地竜は湖の中から攻撃が出来ますよ?」
レナは最初の頃に地竜に襲われた際、地竜が吐き出した水の砲弾を思い出す。地面を抉り取るほどの凄まじい攻撃のため、仮に生身の人間が受ければ木っ端みじんに砕け散るのは間違いない。
「確かに話を聞く限りでは地竜は遠距離攻撃の手段も持ち合わせている。しかし、レナ君が襲われた時は地竜の標的は君だけだった。だからこそ僕達は数で攻めよう、広範囲に散らばって地竜に対して攻撃を行い、湖から地竜を引き寄せるんだ」
「ですが、岸部から湖の中心までは相当な距離があります。私の砲撃魔法ならば届くかもしれませんが、他の者はどうやって……?」
「そこは僕が補助しよう。補助魔法で皆の身体能力を強化させ、石か何かを投擲させれば地竜の注意を逸らす事は出来るだろう」
「おう、そういう事なら俺達でも出来そうだな!!」
普通の人間よりも高い身体能力を誇る魔人、そんな彼等にルイが補助魔法を施せばより身体能力を強化される。それを利用すれば岸部から石を投げて地竜に当てる事は難しくはない。
問題があるとすれば超巨体の地竜に石を投げるだけでは損傷は与えられず、注意を引けるのかが気になった。だが、試しにルイはミノに補助魔法を施して彼に石を投げて貰うと、ミノタウロスの膂力でしかも補助魔法の効果を受けた事で彼の投げた石は遥か彼方にまで飛んで見えなくなってしまった。
「お、おおっ……すげぇ飛んでいったな。これがルイの姉ちゃんの補助魔法のお陰か?」
「その呼び方は止めてくれないか?コネコちゃんを思い出してしまう……そうだな、僕の事は姐さんと呼んでくれ。イルミナの事はイルちゃんと呼んでもいいよ」
「おう、分かったぜ姐さん、イルちゃんもよろしくな!!」
「イルちゃん!?」
ルイの提案にミノは従い、イルミナは勝手な渾名を名付けられた事に衝撃を受けるが、魔人を補助魔法で強化した場合は驚異的な身体能力が発揮される事が判明した。これならばただの石の投擲でも地竜に刺激を与えるには十分だと判明し、それでも不安があるのならば道具を利用すればいい。
今回の作戦はコボルトとファングの協力も必要不可欠であり、足の速い魔物でなければ地竜が湖から飛び出してきた場合は逃げ切る事が難しい。ファングは人間であるルイとイルミナを背負って移動役を務め、コボルトやミノは投擲で地竜の注意を引く役目を担う。
「作戦の実行は準備が整い次第だ。それと、牙竜の動向も探っておきたい、誰か様子を見てきてくれるか?」
「あ、そういう事なら俺が……」
「いや、身を隠すだけならゴブリン達に任せよう。あいつらは小さいし、雪の中に隠れやすいからな。それに牙竜の住処は実は俺達はもう知っているんだ、そこに向かわせよう」
「分かった。その辺は君たちに任せるよ」
ミノの言葉にルイは頷き、牙竜の様子の観察と地竜を誘き寄せるための作戦の準備に集中する。一方で長老の容態も伺い、牙竜の情報が届き次第に作戦を決行する事が決まった――
――数時間後、食事と仮眠を挟んでレナ達は万全の態勢を整えると、ゴブリン達が引き返してきた。彼等によると現在の牙竜は雪山に存在する洞窟にて身体を休めているらしく、今のところは起きる気配はないという。
牙竜の様子を知ったルイは即座に山を下りて地竜が生息する湖にまで魔人たちと共に向かう。今回の作戦は集落に暮らすコボルトとファング、更にはミノも同行する。また、雪山にて牙竜の注意を引く役目はレナとゴブリン達が担う事になった。
「ギギィッ!!オレタチ、タタカウ!!」
「イッショニ、イカセテ!!」
「カナラズ、ヤクニタツ!!」
「でも、危険過ぎるよ……牙竜が襲われた時、俺は皆を守れないかもしれないよ?」
「ダイジョウブ、オレタチナラヘイキ!!チャント、ニゲルドウグモアル!!」
湖にてルイ達を送り届けた後、レナは集落へ引き返すとゴブリン達が待ち構えていた。彼等は作戦を開始する前にレナに同行を申し出てきた。
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