第735話 牙竜誘導作戦

「前回、俺達は雪山の麓まで下りた時に牙竜を発見したんだ。その時にどうにか地竜の住処の湖まで誘導しようと奴を刺激したんだが、結局は失敗して仲間を半分近くも失った……」

「どうして失敗したんだい?」

「アイツ、アシガハヤイ!!ダカラ、ニゲキレナイ……」

「雪山で移動する時は奴も雪で足を奪われて遅いんだが、足元が雪じゃない平地の場合だと奴の速度から逃れられないんだよ。俺達は普段から雪山に暮らしているから雪の上でも走る事にはなれているが、平地の場合だとあいつの足には敵わないんだ」



牙竜の最も厄介な点は「移動速度」らしく、雪山では本気で走る事は出来ないらしいが、平地などの足場がしっかりした場所では牙竜は最高速度を引き出せる。その足の速さは魔物の中でも速い部類のコボルトやファングでも簡単に追いつかれてしまう。


ミノも自分の足には自信はあったが、牙竜の本気の速度にはついていけず、作戦は失敗に終わってしまう。作戦が失敗した時に大多数の魔人が死亡したせいもあって長老は牙竜の討伐作戦に反対するようになり、今の今まで牙竜は放置されていた。だが、そのせいで牙竜は成長し、以前よりも凶悪な存在へと変化を果たす。



「牙竜の奴はこれ以上は放っておけねえ……だけど、より強くなったあいつはもう俺達の手に負える相手じゃねえんだ。きっと、前よりも早く動けるはず……そう考えると奴を湖まで誘導するのは難しいな」

「それでも君は作戦を実行しようと考えているのか?」

「ああ、この集落に暮らす奴等全員を連れていけば牙竜を誘導して湖まで辿り着けるだろう。当然、かなりの数が犠牲になるだろうが他に方法はない。下手をしたら全滅するかもしれないが、長老のためなら俺達はやるぜ?」



ミノの言葉を聞いて他の魔人たちは頷き、中には怯えた表情を浮かべた個体もいるが、それでも文句は口に出さない。彼等にとっては長老こそが全てであり、彼のためならば当に死ぬ覚悟はできていた。


しかし、そんなミノの言葉を聞いてレナは自分を逃すために身代わりとなカイの事を思い出す。あの時のレナは戦う力もない弱い子供だったが、今でもカイを救えなかった事を後悔している。だからこそミノの作戦を認める事は出来ず、覚悟を決めた様に口を挟む。



「囮役は俺がやるよ」

「何だと!?坊主、お前何を言っているのか分かってるのか!?」

「いや、レナ君が最適だと僕も思うよ」

「本気ですか団長!?」



レナの発言にミノは驚き、しかもルイまで賛同したのでイルミナも驚く。囮役を申し出たレナに対して魔人たちは戸惑うが、彼は冷静に自分こそが囮役に相応しい理由を話す。



「皆も知っての通り、俺はこのスケボを使えば飛ぶことが出来るんだ。だから、牙竜が追跡してきたとしても俺のスケボなら逃げ切れると思う」

「それは……そうかもしれないが、でも危険な役目だぞ?」

「空を飛べる俺ならいざという時は上空に避難して牙竜から逃げ切る事も出来る。それに俺なら遠距離攻撃もできるから牙竜を引き寄せて攻撃する事だって出来るよ」

「けどな……」

「大丈夫、俺を信じてよ。一度はあの化物を追い払ったのを見ていたでしょ?」



先の牙竜の襲撃の際はレナの機転で雪崩を引き起こし、牙竜を無事に撃退する事が出来た。実際に彼の実力を目の当たりにしているミノは否定する事も出来ず、囮役の適任者といしてレナ以上に相応しい存在はいない。


しかし、今回の作戦はレナ一人に任せるつもりはなく、魔人たちも協力して牙竜を倒したいと考えていた。彼等にとっては長老の家族の仇だけではなく、これまでに殺された魔人の恨みも晴らしたい。そう考えたミノはレナの提案を素直には受け入れない。



「いや、俺は反対だ!!坊主だけにそんな危険な目に遭わせられるか!!俺も一緒に行くぞ!!」

「けど……」

「行く!!それに坊主たちに全部任せて俺達は何もせずに待っているなんて出来ないからな!!そうだろう、お前等!?」

「ギィイッ!!」

「ウォンッ!!」

「ガウガウッ!!」



ミノの言葉に他の魔人たちも反応し、彼等もレナだけに危険な役目を任せる事に納得は出来なかった。一方でレナとしては一人の方が動きやすいと思っての判断だが、彼等の立場を考えれば断りにくい。


今回の作戦は囮役しかおらず、作戦の要は湖に生息する地竜を牙竜とどう戦わせるかであった。そして話を聞いていたルイは魔人たちの反応を見てある提案を行う。



「残念だが囮役を増やしてもあまり意味はない。無駄に犠牲者を増やすだけだ……だが、君たちに出来る事は他にもある」

「な、何だよ?囮役以外に俺達の出来る事って……」

「簡単な話さ、地竜を湖から引き寄せる役目さ」

「団長!?」



ルイの発言にミノ達は驚愕の表情を浮かべ、イルミナも何を言い出すのかと思ったが、ルイは真面目に作戦の内容変更を伝える。

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