第734話 長老の頼み 

「ルイ殿……其方に頼みがある」

「頼み、とは?」

「どうか、ミノに協力してくだされ」

「えっ……!?」



長老の言葉にルイは驚き、彼はミノの計画を反対していたのではないかと戸惑うが、長老は激しく咳き込みながらも彼女に頼み込む。



「げほげほっ……すまんのう、勝手な事を言っているのは分かっている。しかし、儂には時間がないんじゃ……もう間もなく、儂は死ぬだろう」

「何を弱気な……大丈夫です、私達と共に大陸へ行きましょう。そうすれば貴方を治療する方法も見つかるかもしれません」

「いや、駄目じゃ……どんな良い腕の薬剤師や治癒魔導士だろうと儂の肉体は治せん。儂は病にかかっているのではない、寿命が尽きようとしているだけ……天命には逆らえん」

「…………」



自分の命は長くない事は長老自身がよく知っており、ルイも否定は出来ない。彼女は長老の身体を支えて驚くほどに軽い事に気づき、とりあえずはベッドの上に横にさせる。


ルイの手を借りながらもベッドに身体を休めた長老は虚ろな瞳で彼女を見つめ、自分が死ぬ前に最後に彼は頼み事を行う。



「儂が死ねば契約を交わした魔人たちがどうなるのか分からん。主人である儂が死ねば彼等はもしかしたら魔物へと逆戻りしてしまうかもしれんからな……そうなれば家族同士で殺し合う事態に発展するかもしれん」

「それは……」

「しかし、それが自然の摂理ならば仕方あるまい。本来は争い合う種族同士を儂の都合で勝手に従えていただけに過ぎん。儂を慕う者達も本当は心の内では自分の自由を奪った事を恨む者も……」

「そんな事はありません!!彼等は本当に貴方の事を家族のように想っている!!」

「レナ君!?」



長老の言葉に反応したのはルイではなく、二人の様子を伺いに来たレナだった。彼は扉の前で聞き耳を立てていたが、長老の言葉には聞き捨てならずに声をかける。



「生まれがどうとか、血が繋がっていないとか、種族が違うからとか、そんなのは関係ありません!!ここで暮らす魔人は皆が長老の家族です、そうでもなければ自分の命を投げ出してでも長老や集落を守ろうとするはずがないじゃないですか!?」

「レナ君……?」

「……そうか、そうだな、その通りじゃ」



レナは自分の過去の事を思い返し、赤ん坊の頃に自分を育て上げた老夫婦のカイとミレイの事を思い出す。二人は小髭族でありながらも人間の赤子で血が繋がっていないレナを大切に育てていた。


レナ自身も二人の事を本当の両親のように慕い、どんな境遇であろうと互いに家族だと思い合う心こそが大事だと説く。



「ここに暮らす魔人たちは長老のお陰で幸せに生きているんです!!だから家族を疑うような真似は止めてください、そんな風に思ってしまったら……皆が報われません」

「……お主、過去に何かあったのか?」

「俺の両親も血は繋がっていません。でも、本当の子供のように可愛がってくれました。血の繋がりや境遇なんて関係ありません、魔人たちは貴方の事を父親のように思っています」

「父親か……ははは、確かにその通りじゃ」



長老はレナの言葉を聞いて心のうちに抱えていた不安が消え去り、安心したように頷く。しかし、不安が消えたとしても彼の容態が治るわけではなく、もう直に長老は寿命を終える。それを意識した彼はレナ達に頼みごとを行う。



「レナ殿、ルイ殿……どうか頼む、儂が死ぬ前にミノ達の願いを叶えてくれ。あのの憎き牙竜を……儂の代わりに仇討ちを果たしてくれ」

「……分かりました。その依頼、お引き受けしましょう」

「必ず、倒して見せます。だから、絶対に死なないでください」

「ああ、約束しよう……エルフは何があろうと約束は守るからのう」



二人に願いを託すと長老は意識を失い、慌ててルイは容態を伺うと事切れたわけではなく、眠っただけだと判明して安堵する。



「……ふうっ、大変な依頼を引き受けてしまったな。これではダンゾウとカツとの合流も遅れそうだ」

「すいません……二人も無事かどうか分からないのに」

「君が謝る必要はないさ、私も引き受けた立場だからね。さて、では早速だが牙竜の討伐作戦を見直そうか」



ルイはレナの肩を掴んで微笑み、二人は長老の最後の願いを果たすために行動を開始した――






――集落に暮らす魔人の中でも特に戦闘力が高い者が集められ、作戦会議を行う。作戦の内容自体は事前にミノが計画した通に牙竜を地竜と戦わせて同士討ちさせる事に変わりはない。


竜種に対して竜種をぶつける方法自体は悪くはないが、問題があるとすればどのような手段で牙竜を地竜が生息する地域に誘導するかであった。当初の作戦ではコボルトやファングなどの足の速い魔物が牙竜を誘導し、地竜が住処とする湖に誘導するという作戦だったが、以前にミノ達が試みた時は失敗したという。

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