第732話 イルミナの目覚め

――ミノの話を聞いた後、レナとルイはイルミナが眠っている部屋と尋ねる。すると、既に彼女は目を覚ましていたらしく、長老も傍に居た。彼女は長老から渡された粉薬を飲んだ後らしく、部屋に入ってきたレナとルイを見て驚く。



「団長!?それにレナも……ご無事だったのですね!!」

「ああ、何とかね。イルミナも無事そうで良かったよ」

「本当に良かった……もう大丈夫なんですか?」

「ふむ、多少熱はあるが身体の方は問題ないじゃろう。だが、念のためにもうしばらくの間は安静にするがいい」

「あ、ありがとうございます……」



長老はイルミナを横にさせると、後はレナとルイに任せて部屋を退室する。その様子を見送ったイルミナは彼が何者なのか、自分の身に何が起きたのかを尋ねた。



「団長、あのご老人は……」

「ああ、まずはそこから説明する必要があるか。彼はこの島の住民だよ」

「住民……大迷宮に人が暮らしているのですか!?」

「いや、ここは厳密に言えば大迷宮じゃないんだ。信じられない話かもしれないが……」



混乱するイルミナにルイは一から説明してやり、現在自分達が存在する場所は大陸から離れた場所に存在する孤島である事、勇者が存在した時代に住処を失ったエルフ達が住み着いた事、長老は勇者が送り込んだエルフの子孫である事を話す。


勇者がこの島に転移魔法陣で移動できるようにしたのは次世代の勇者の育成環境の場を整えるためであり、この島に送り込まれたエルフ達は勇者に協力する事を条件に住む事を許された存在だと語る。



「この島では転移石が使えないのはここが大迷宮ではなく、僕達が存在した「外の世界」だからだ。転移石が使用できるのはあくまでも大迷宮の内部だけだからね、外の世界では転移石は使う事はできないのは二人も知っているだろう」

「あ、なるほど……」

「そいう事でしたか……確かに納得しました」



二人は手持ちの転移石に視線を向け、今まで転移石が使用できない理由を知った。転移石はあくまでも大迷宮から元の世界に脱出するための魔石であるため、既に元の世界にいる状態では転移石が使用できるはずもない。


しかし、ここで問題なのは転移石が使用できなければどうやってレナ達は王都へ引きかえすかであり、このままでは何時までも戻ってこないレナ達を心配して捜索隊が派遣される可能性もあった。そんな事態に陥れば今度は捜索隊の身が危険に晒されて面倒な事になる。



「転移石が使えない以上、我々に戻る手段はないのでしょうか?」

「いや、そんなはずはない。勇者はここを次世代の勇者の育成に利用するために用意したといっている。転移魔法陣でわざわざこんな場所に移動して、帰還の方法が船で大陸に戻るとは考えにくい。この島はレナ君が確認した限りでは周囲は岩山に取り囲まれ、船で移動するのも困難な場所だ。つまり、ここへ訪れた勇者も船以外の別の方法での帰還を用意したはずだ」

「別の方法……?」

「船で移動するといっても過去に送り込まれた森人族は相当な人数だったのは間違いない。それをわざわざ船だけで運び出すとは考えにくい。周囲を岩山に取り囲まれ、危険な魔物が巣食う場所だよ?きっと、勇者は事前に島に入って安全な場所を確保してからエルフを引き寄せたに違いない。そして考えられる安全な移動法は……僕達が使用した転移魔法陣だ」

「転移魔法陣?」



レナ達は王都に存在する転移魔法陣からこの島へ転移したが、あの転移魔法陣は同じ陣内に乗っていたレナ達を別々の場所へと飛ばしてしまう。しかし、ルイの推理だとかつての勇者は転移魔法陣を使用してエルフ達をこの島に送り込み、自分も帰還する方法を確保していたと考えていた。



「恐らくだが、僕達が最初に転移した時に足元に転移魔法陣が刻まれていただろう?僕が居たのはこの雪山の頂上付近にある遺跡だが、そこで僕は転移魔法陣が刻まれたた台座の上に乗っていた」

「あ、そういえば私も……確かに台座のような場所に立っていました」

「という事は……元の世界に戻る手がかりはその台座が関わっているんですか?」



レナ達はこの島に転移した時の事を思い出し、3人とも転移魔法陣が刻まれた台座に居合わせていた。冷静に考えれば台座の形をよく思い出すと、大迷宮に存在する転移の台座と酷似していた。


ルイの読みではきっと台座に元の場所へ戻る手がかりがあると判断し、彼女は再び自分達が最初に召喚された台座に戻る必要があると考えていた。だが、その前にミノの頼み事と未だに合流する気配がない他の二人の仲間を探し出す必要がある。



「まあ、帰還方法は後で話し合おう。それより、ダンゾウとカツの身も心配だ。僕達がここへ転移してから結構な時間が経過している」

「あ、そうだった!!二人は無事なんでしょうか?」

「落ち着いてくれ、まずは状況を整理しよう。僕が最初に転移した場所はこの雪山、レナ君は密林、そしてイルミナは……」

「私の場合は湖の近くでした。レナの話によるとこの島は北に雪山、東に草原、西に荒野、南に密林が広がっているそうです」



スケボを使用してレナが上空から伺った時、島の全体図を確認できた。それを頼りにルイは簡単に島の地図を作り出し、雪山、湖、密林の位置を把握する。

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