第731話 牙竜討伐作戦
「なあ、坊主、姉ちゃん……あんたらに頼みがあるんだ」
「頼み?」
「どうしたんですか?」
横になっているミノに話しかけられてレナとルイは近寄ると、彼は痛みを我慢しながらも上半身を起き上げ、二人に頭を下げる。その行為にレナとルイは驚くが、胸を抑えながらもミノは頼み込む。
「牙竜との戦闘で二人の強さはよく分かった……悔しいが、坊主は俺達よりも強い。それは間違いないな?」
「そんな事は……」
「いや、その通りだ。レナ君は君よりも遥かに強い」
「へっ、遥かときたか……結構傷つくぜ、こう見えても集落の奴等の中なら俺が一番強いはずなんだがな」
ミノの言葉にレナは咄嗟に否定しようとしたが、それをルイは妨げる。下手な謙遜は相手を傷つけるため、ここはミノの言葉を認めるのが正しい判断だった。実際にミノの方もレナが強いという事に関しては素直に認め、その一方でルイの事も認める。
「そっちの姉ちゃんの方も俺達を治療してくれありがとうよ。今日会ったばかりの二人に頼むのはちょっと心苦しいんだが……俺達の作戦に協力してくれないか?」
「さっき言っていた牙竜と地竜を戦わせるという作戦の事かい?」
「ああ、それ以外に奴を倒す方法はないと思う。長老は反対したが、このままだといずれ集落の奴等は全員が殺されちまうだろう」
牙竜と戦ったミノだからこそ力の差を思い知らされ、次に集落に牙竜が襲撃を仕掛けてきたら今度は守る事は出来ないと考えていた。レナとルイの力を借りればどうにか追い返す事が出来るかもしれないが、元々余所者である二人が何時までも集落に留まる理由はない。
だからこそ二人が集落に残っている内にミノは助力を頼み込み、牙竜を討伐するための作戦に協力して欲しい事を願う。牙竜を倒すには同じく竜種である地竜と戦わせるしかないというのが彼の考えであり、仮に島内で牙竜を倒せる存在がいるとすれば地竜だけであるのは事実だった。
「坊主と姉ちゃんがここにいる限り、もしも牙竜が引き返せばあんたらも狙われるだろう。だから俺達に力を貸してほしい!!こんな風に頼むのは性に合わないが、俺達には時間がねえんだ!!」
「時間がない?どういう意味だ?」
「……長老はもうそんなに長く生きられないんだよ。俺達はあの人と魂の繋がりがあるから分かる、長老はもうすぐ死んじまうかもしれない」
「えっ!?」
「それは……どういう意味だい?」
ミノの言葉にレナは驚き、ルイも予想外の言葉に動揺する。ミノによると魔物使いと契約を交わした魔物は特別な繋がりが出来るらしく、そのお陰で使役する魔物は主人の状態を確認できる術を身に付けているらしい。
「長老は今は平然と振舞っているが、少し前から体調を崩す事が多くなった。多分、魔人の数を増やした事で肉体に負担が現れているんだろう」
「確かに魔物使いは自分の力量以上の数や力を持つ魔物を使役すると肉体に大きな負荷を与えると聞いた事はあるが、どうして長老はそんな事を?」
「多分、寂しかったんだろうな……長老は家族や友人も牙竜の奴に殺されてからずっと一人で生きてきたんだ。だから長老は自分に従えた魔物を大切に育てて本物の家族のように扱ってくれるんだ。だけど、牙竜の奴が何度も集落に訪れて魔人の仲間を殺し続けたせいで長老にも悪影響を与えたんだ」
「悪影響?」
「そうか、魔物使いは契約した魔物を殺された時が肉体に大きな負担が掛かるという話も聞いた。という事は今まで殺された魔人の負担が長老の身に押しかかっていたのか……」
長老は魔物と契約を交わし、その魔物が殺された時に肉体に大きな負荷が襲い掛かっていた。それでも彼が魔物との契約を続けて魔人として育て上げた理由は「家族」を欲したからであり、もう自分一人で生きたくはないと考えた彼は自分の肉体の負担に構わずに魔物の仲間を増やし続けてきた。
現在の長老はレナやルイが見た限りでは平然としている様に振舞うが、実際の所は彼の肉体はもうボロボロの状態らしく、長生きは出来ないという。そして仮に魔物使いの彼が死んだ場合、契約を交わした魔人たちもどうなるのかは分からない。
「仮に長老が死ねば俺達は元の狂暴な魔物に逆戻りしちまう可能性もある……だけど、そんな事になる前に俺達はどうしても長老の家族や仲間を殺した牙竜を殺して仇を討ってやりたいんだ!!」
「それで僕達の力を借りたいのか……」
「頼む、協力してくれるのなら俺達は何でもする!!長老が死ぬ前に俺達は長老の家族の仇をどうしても殺さないといけないんだよ!!」
ミノはレナとルイに縋りつき、必死に頼み込む。その様は獰猛な
レナとルイは互いの顔を見合わせ、彼の頼みを聞き入れるべきかどうか悩む。心情的には力を貸してやりたいが、相手が竜種となると慎重に行動しなければならない。
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