第729話 牙竜との交戦

――ウォオオンッ!!



周囲に散らばっていたコボルトとファングが同時に駆け出し、牙竜の元へと飛び掛かる。狼たちは牙竜の肉体に嚙り付こうと牙を放つが、牙竜の皮膚が頑丈過ぎて牙は食い込む事も出来ず、逆に牙が折れてしまう個体もいた。



「ギャインッ!?」

「フガガッ……!?」

「……グガァッ!!」



牙竜は自分の身体に噛みついてきたコボルトとファングに対して身体を揺らすだけで引き剥がすと、狼達は悲鳴を上げながら吹き飛ばされてしまう。


噛みついた狼達の殆どが牙が砕けてしまい、その様子を見ていたミノも岩石以上に頑丈な皮膚で覆われた牙竜に対して悪態を吐く。



「この、化物がぁっ!!」

「ウガァッ!!」



石斧を振りかざそうとしたミノだったが、それよりも先に牙竜は前脚で彼の身体を払いのけ、圧倒的な力でミノは派手に空中に浮きあがる。その様子を見ていたレナはスケボを操作するとミノが地上へ落ちる前に移動を行い、彼の身体を抱きとめる。



「ミノさん!!」

「うわっ!?」

「ぐはっ……す、すまねえ……」



牙竜の一撃で人間よりも遥かに頑丈な肉体を持つはずのミノタウロスでさえも致命傷を負い、胸元が大きく抉られていた。このまま戦闘を続ければ無事では済まず、ミノを抱えたレナは地上へと降り立つと、彼をルイに任せて牙竜と向き合う。


レナの姿を見た牙竜は少し前に自分が襲った人間だと気づいたのか目つきを鋭くさせ、前回の時は雪崩に襲われて見逃してしまったが獲物が現れた事に舌で口元の血を舐めとる。その様子を見てレナは威圧されながらも、それでも全ての装備に付与魔法を施す。



四重強化クワトロ!!」

「レナ君、支援魔法を施す!!全力で戦うんだ!!」



ルイも即座にレナに手を伸ばすと「肉体強化アクセル」を施して身体能力も強化させると、レナは彼女にミノを任せて雪の上を駆け出す。この際にレナは雪に足を奪われないように気を配り、両足に付与させた魔力を解放して一気に牙竜の元へと突っ込む。



「だああっ!!」

「ッ――!?」



人間が出すとは思えない速度で突っ込んできたレナに対して牙竜は目を見開き、反撃や防御を繰り出す暇も与えずにレナは拳を牙竜の叩き込む。



「はあっ!!」

「ガハァッ!?」

「は、早いっ……何だ、あの速さは!?」

「当然さ、彼は間違いなくうちのクランの中でも誰よりも早く、重い一撃を繰り出せる男さ」



顎を殴り飛ばされた牙竜の巨体が揺らぎ、その隙を逃さずにレナは続けて拳を叩き込み、牙竜が耐性を整える前に幾度も殴りつける。少年が繰り出すとは思えないほどの強烈な一撃が次々と叩き込まれた牙竜は怯んでしまう。


それでも相手は竜種なだけはあってゴブリンキング以上の耐久力を誇るらしく、拳を叩きつける度にレナはその感触に眉を顰める。頑丈さならばブロックゴーレムにも匹敵し、打撃だけで倒す事は難しいと考えたレナは左手を繰り出して籠手に付与させた魔力を一気に解放した。



衝撃解放インパクト!!」

「ガハァアアアッ!?」

「や、やったか!?」



牙竜の巨体が重力の衝撃波を至近距離から受けて吹き飛び、その光景を見たミノは牙竜を倒す事ができたのかと考えたが、牙竜は斜面を転げ落ちていく途中で体勢を立て直す。滑り落ちていく途中で両前脚を雪の中に突き出し、地面を掴んでどうにか落下を食い止める。


仮にゴブリンキング級の相手だとしたら倒していてもおかしくはない猛攻をレナは加えたはずだが、牙竜は口元に少し血を流す程度の損傷しか与えられていなかった。異常なまでに頑丈な肉体を誇り、更に雪の上でも平地を駆け抜けるかの如き機動力、ミノタウロスを一撃で戦闘不能に追い込むほどの圧倒的な力、正に竜種の名に恥じぬ戦闘力を誇っていた。



(このまま普通に戦っても埒が明かない、どうすれば……そうだ!!)



四重強化クワトロ以上の魔力を装備に付与させて戦うかと考えたレナだったが、斜面に位置する牙竜の姿を見てある方法を思いついたレナは闘拳に視線を向け、地面に腕を叩き込む。



「はああっ!!」

「なっ!?」

「レナ君、何を……まさか!?」

「グガァアアアッ!!」



レナの行動にミノは驚き、ルイはいち早くレナが何をしようとしているのかを見抜く。一方で牙竜の方は斜面を駆け上ってレナの元へ向かおうとしたが、その姿を見下ろしながらもレナは雪で覆い込まれた地面に突っ込んだ闘拳の魔力を解放させる。



衝撃解放インパクト!!」

「ッ!?」



地中に直接重力の衝撃波が放たれ、一気にレナの手前に存在した大量の雪がまるで内側から爆発したかのように吹き飛ぶ。その結果、大量の雪が舞い上がると同時に斜面上に存在した雪が流れ始め、雪崩と化して牙竜の身体を飲み込む。


大量の雪が押し寄せてきた事で牙竜は抵抗する事も出来ず、麓の方に向かって雪崩と共に流れてしまう。悲鳴を上げながらも牙竜は抵抗できずに流れていく光景を確認してレナは額の汗を拭う――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る