第728話 再遭遇

スケボに乗り込んだレナはルイを乗せて移動を行い、先に集落の外を出ていったコボルトとファングを従えたミノの姿を確認する。ミノ達は雪原を駆けつけ、鳴き声が響く方向へ向かって走っていた。


魔物改め魔人である彼等は身体能力という点では並の人間を上回り、雪の上でも平地のように駆け抜けていく。その光景を見てレナはスケボの速度を速めなければ追いつけないと判断し、ルイに告げる。



「ルイさん、もっと掴まって下さい!!速度を上げますから!!」

「わ、分かった……イルミナほど大きくはないが、がっかりしないでくれ」

「え、何の話ですか!?」



ルイは少し恥ずかし気にレナの背中に抱き着き、その際に胸を押し付ける形となった。しかし、追いつく事に意識を専念しているレナはルイの胸の感触に気付かず、スケボを加速してミノたちへと追いついた。



「ミノさん!!」

「うおっ!?お、お前等……何だそれ、浮いてるのか!?」

「説明は後です!!俺達も一緒に戦います!!」

「はあっ!?何を馬鹿なことを言ってんだ、ガキと女が戦えるか!!足手まといだ、早く帰れ!!」



空を飛んで追いかけてきたレナ達を見てミノは驚き、すぐに怒鳴りつけて追い返そうとする。しかし、その言葉に対してルイも黙っていられず、レナに指示を与える。



「レナ君、君の力を見せてやれ。僕も手を貸すよ、魔力強化ブースト

「あ、はい……ミノさん、よく見ていてください」

「おい、何をする気……!?」

「飛来拳!!」



レナは雪原に向けて闘拳を構えると、付与魔法を発動させて闘拳に紅色の魔力を滲ませ、金具の部分を取り外して闘拳を飛ばす。


その結果、レナの腕から離れた闘拳は凄まじい勢いと共に吹き飛び、雪原の雪を派手に吹き飛ばしながら30メートル近くまで移動する。その後はレナが手元を手繰り寄せると闘拳は瞬時に引き返す、出来上がったのはまるで漢字の「一」のように抉れた地面だけであった。



「どうですか?これが俺の付与魔法と、ルイさんの支援魔法の力です」

「それで、誰が足手まといだって?」

『…………』



目の前に出来たクレーターを見てミノたちは黙り込み、そんな彼等に対してルイはわざとらしくにやにやと笑みを浮かべると、その態度を見てミノは苦笑いを行う。



「……はっ!!こいつは驚いた、確かにこれなら俺達の方が足手まといになりそうだな!!よし、それじゃあ俺についてこい!!あいつを集落に行かせないように誘導するぞ!!」

「誘導?討伐の間違いじゃないかい?」

「それが出来たら苦労はしねえよ!!あいつの強さは並じゃない、見えたぞ!!」



ミノは背中に抱えていた手斧を取り出すと、前方の方角を指差す。そこには白毛熊だと思われる死骸に喰らいつく牙竜の姿が存在し、集落からそれほど離れていない位置にまで既に迫っていた。


牙竜は白毛熊の死骸を貪り、鋭い牙で死骸を噛み砕いて飲み込む。その光景を見てレナは火竜の姿を思い出し、戦闘力は恐らくは火竜が上回るだろうが、相手は災害の象徴である竜種である事を自覚する。



「レナ君、気を抜くな。君なら牙竜にも対抗できるはずだ、僕も全力で援護するから怯えずに戦おう」

「は、はい!!」

「よし、行くぞお前等っ!!」

『ウォオオンッ!!』



コボルトとファングがミノの言葉に反応して別々に別れ、まずは牙竜の注意を引くためにそれぞれが鳴き声を上げながら駆け抜ける。それに気づいた牙竜は死骸から口を離すとミノ達の存在に気付き、凄まじい咆哮を放つ。




――グガァアアアアッ!!




火竜すらも上回る声量の咆哮を放ち、あまりの音量にレナとルイは反射的に両手で塞ぐ。人間以上に聴覚が鋭いコボルトやファングたちはその声を聞いただけで怯んでしまい、ミノも顔をしかめながらも手にしていた手斧を放り込む。



「この、トカゲがぁっ!!」

「ウガァッ!!」



投げ込まれた手斧に対して牙竜は前脚を繰り出して弾き返すと、空中で手斧がバラバラになって飛び散ってしまう。それを見たミノは腰に装着していたもう一つの手斧を掴み、正面から挑む。


牙竜に対して馬鹿正直に突っ込んだミノの姿を見てレナは驚くが、牙竜の方もミノに向けて駆け出し、巨体で彼を押し潰そうとした。



「グガァッ!!」

「うおらぁっ!!」



牙竜が振りかざした前脚に対してミノはスライディングの要領で前方に移動しながらも身体を大きく傾けて回避すると、牙竜の懐に潜り込む。そのままミノは手斧を振りかざし、牙竜の首筋に叩き込む。



「ふんっ!!」

「アガァッ……!?」



ミノが所持している手斧は石斧であり、切れ味は鈍いが当てれば強い衝撃を与えられる。牙竜は首元を攻撃されて一瞬だが怯み、その隙を逃さずに周囲に散らばっていたコボルトとファングも飛び掛かった。

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