第727話 牙竜の襲撃

「ほらほら、兄ちゃんたちも遠慮せずにどんどん食べろ!!おい、犬コロ共!!酒を持ってこい!!」

「ガアアッ!!」

「あんっ?自分達も飲みたいだと?馬鹿野郎、酒は大人になってからだ!!生意気な事をを抜かしてんじゃねえぞ!!」

「……本当に言葉が分からなくても通じ合ってるんですね」



ミノは大きな酒樽の前にいる数匹のコボルトに怒鳴りつけると、彼の言葉を理解したのかコボルト達は酒樽を運び始める。コボルトは人語を口にする事は出来ないが、それでも他の者が話す言葉を理解できるらしい。


コボルトが酒樽を運び込むとミノはその場で樽ごと持ち上げて酒を飲み込み、その様子を見てレナとルイは呆気に取られる。一方で長老の方は朗らかな笑みを浮かべ、ミノが持ち込んだ骨付き肉に嚙り付く。



「う、むむっ……やはり、年を取ると脂っぽい物はきついのう。おおい、誰か水を汲んでくれんか?」

「ギギッ!!チョウロウ、ミミズ!!」

「おう、すまんな……って、これはミミズではないか!!水を持ってこいといっておるのだ!!」

『ぶははははっ!!』



まだ言葉をよく理解できないゴブリンの子供が何処からかミミズを取り出して長老に渡すと、それを見ていた魔人たちは大笑いを行う。その光景を見ていたレナとルイはどうみても苦笑いを浮かべ、長老が彼等の事を魔物ではなく「魔人」と呼ぶようにと注意した気持ちが分かった。




――魔人は外見は魔物だが、その思考や性格は人間に非常に近く、少なくとも彼等は無暗に人間を襲う存在ではない。本来ならば野生の魔物が持ち合わせている人間に対しての敵意が彼等には存在せず、魔人の中には人間と変わらぬ「心」を持っていた。




人語を話せる魔人と話しているだけでもレナは人間を相手に話している様にしか感じられず、だからこそ不思議な気分だった。今まで魔物という存在は倒すべき敵だと考えていたレナだが、こうして親し気に語り掛けてくる魔人を見ていると不思議な感覚を覚える。



(まさかこんな風に魔物と話し合える日が来るなんて思わなかったな……いや、初めてじゃないか?)



ここでレナはイチノを襲撃したゴブリンの軍隊を思い出す。あの時に襲い掛かってきたゴブリンの中には人間の言葉を話す魔物が混じっていた事を思い出す。そして長老の話によると魔物使いの称号を持つ者が育てた魔物は特殊な育ち方をするという話を思い出した。


今までのレナは突如として自分の故郷やイチノを襲撃したゴブリンの軍隊が自然発生した物だと考えていた。突然変異か何かで通常のゴブリンよりも知恵を身に付けた存在が現れ、その個体が他の仲間達を集めて軍隊を作り上げて襲い掛かってきた。しかし、そんな偶然が本当に有り得るのかと疑問を抱く。



(……まさか、あのゴブリン達は――)



レナが長老の話を元にある結論を導き出そうとした瞬間、集落中に強烈な鳴き声が響き渡る。その鳴き声を耳にした途端、魔人たちは血相を変えて手にしていた食料を手放す。



「いかん、全員急いで地下に避難せよ!!奴が戻ってきたぞ!!」

「くそ、こんな時に……ガキ共は教会へ走れ!!誰一人、置いていくなよ!!」

「ギギィッ!?」



鳴き声を耳にした魔人たちは慌てた様子でレナが長老と最初に出会った時にいた教会へと走りだす。その様子を見てレナとルイは戸惑うと、ミノが二人に注意した。



「姉ちゃんと兄ちゃんも急いで教会へ向かえ!!あの建物は簡単に壊れることはないし、地下にも繋がっている!!普段は食料庫に利用しているんだがな!!」

「牙竜が現れたんですか!?」

「そうだ!!あいつは時々思い出したようにここへ来ては俺達を食べようとしやがる!!野郎ども、行くぞ!!」

「ガアアッ!!」

「ウォンッ!!」



ミノの号令にコボルトとファングが彼の後に続き、他の魔物達は避難を始める。一方でレナはルイの方へと振り返り、お互いに頷いて長老へと振り返る。



「長老、僕達の命を助けてくれた恩返しをしたい。牙竜を追い払うのを手伝うよ」

「何!?何を馬鹿な事を言っておる!!女子供が相手に出来る奴ではないぞ!?」

「安心してください、冒険者は……を倒すのが仕事ですから!!」



装備を整えたレナはスケボを地面に下して乗り込み、ルイもレナの肩を掴んで一緒に乗り込む。その二人の行動に長老は戸惑うが、彼の前でレナは付与魔法を発動させた。


板状の金属板に紅色の魔力が灯り、徐々に浮き上がっていく光景に長老は目を見張り、空を飛んだ二人の姿を見て魔人たちも驚く。彼等はレナが魔法を使う所を初めて見るため、ゴブリンの子供達は空を浮かぶレナ達を見てはしゃぐ。



「ト、トンダ!?」

「スゴイ、ソラヲトンデル!!」

「アレ、ノリタイ!!」

「こ、これは……魔法か!?しかし、こんな魔法見た事も……」

「イルミナの事をよろしく頼むよ、長老!!」

「牙竜は俺達に任せてください!!」



空を浮上したレナ達の姿を見て長老は驚き、その一方でレナはゴブリンから貰った薬のお陰で寒い中でも平気で身体を動かせる事を確認し、これなら万全の状態で牙竜に挑めた。

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