第726話 歓迎の宴
「おう、まだここにいたのか!!長老、姉ちゃん、坊主!!」
「あ、さっきの……って、うわっ!?」
教会の中に先ほどレナが遭遇したミノタウロスが入り込み、彼は背中に白毛熊の死骸を抱え込み、豪快な笑い声をあげる。
「がっはっはっはっ!!今日は大物を捕まえてきたぞ、今夜は熊鍋だ!!」
「うむ、久々の客人だからのう。今夜は宴を開こうではないか、お主等も遠慮せずに楽しむといい」
「あ、ありがとうございます」
「感謝します」
長老の言葉にレナとルイは頭を下げると、今夜はこの集落で世話になる事にした。ダンゾウとカツが見つかっていないので心配ではあるが、仮にも黄金級冒険者の二人のため、簡単に魔物に敗れるはずがないと信じてレナ達は一晩過ごす事にした――
――その日の晩、集落に暮らしている魔人が集まり、盛大な宴が行われた。この集落にはゴブリンを初めに様々な魔物が暮らしており、野生の世界ならば互いに殺し合うはずの生物同士でも、仲睦まじく過ごす。
「ほらよ、今日は人間さんが持ってきてくれた調味料を使った豚汁だ!!ちゃんと全員分あるから安心して食べろよ!!」
「ギギッ!!ヤッタ!!」
「ハラヘッタ!!」
大きな鍋を抱えて調理を行うミノの元にゴブリンの子供たちが集まり、彼にお椀を差し出す。そんな彼等にミノはお玉で次々と豚汁を注ぎ、その光景を目にしたレナとルイは外の世界では絶対に見る事がないはずであろう風景に感慨深い表情を浮かべる。
「不思議だな……まさか、
「俺も同じ気持ちです。なんか、こうしてみてると本当に不思議ですよね」
「ははは、二人とも宴は楽しんでおるか?」
レナとルイの元に長老が訪れると、彼は二人に豚汁を差し出す。この豚汁はレナが持参していた調味料を使って作り出した代物でもあり、魔人には大人気の料理だった。
集落が滅びてからは調味料を手に入れる事も難しく、長老もまともな料理は久しぶりだったという。基本的にこの集落に暮らす魔人たちは狩猟で食料を調達し、自給自足の生活を送っている。しかし、その生活も牙竜の存在によって危ぶまれているという。
「長老、先ほどの話を聞いていて気になったが牙竜というのは元々、この山に生息していたのか?」
「いや、あの牙竜は元々はこの島には生息していない魔物だった。しかし、ある時にこの島に流れて付いてきたのだ」
「えっ!?島の外からやってきたんですか?」
「うむ、そうとしか考えられん。少なくとも儂が子供の頃は牙竜など見かけた事はなかった」
長老によると現在の雪山の主である牙竜は元々は外部から訪れた個体らしく、この島にはそもそも牙竜は1頭も存在しなかった。理由は不明だがある時に島の外から牙竜の子供が流れ着き、島の魔物を喰らい続けて成長し、現在は雪山を住処にして暮らしているらしい。
「あの牙竜に関しては謎が多いが、奴のせいでこの島の生態系は大きく乱されておる。奴は餌が不足すると何処にでも出向いてしまうからな、寒い場所も暑い場所も意に介さず、餌がある場所ならば何処にでも向かう厄介な生物じゃ」
「では、他の集落の者に助けを求めようとは考えなかったのですか?牙竜は島の生態系を荒らす存在ならば放置は出来ないでしょう」
「確かにそれも考えたが、基本的に儂等は他の集落と連絡を取り合う事はない。そもそも東西南北に分けられた集落は元々は別々の森で暮らしていたエルフだからのう……」
「え?そうなんですか?」
長老によると東西南北に存在する集落に暮らすエルフは全員が同じ森に暮らしていたわけではなく、4つの森で暮らしていたエルフが別々に分かれて暮らしていたという。
だからこそ彼等は基本的には自分達の集落から離れる事はなく、滅多に他の集落の者とは連絡も取り合う事はなかった。
「勇者殿のお陰で我々は住む場所を得たが、エルフといっても全員が同じ仲間というわけではない。基本的に儂等の集落は他のエルフ族と関わる事は禁じられていなかったが、他の集落に暮らすエルフの中には外部のエルフ族と関わりを断固として禁じているエルフ族もおる。そういう理由もあって儂は助けを求める事は出来なかったし、そもそも彼等が暮らす集落の詳しい場所は儂も把握しておらん」
「だからこちらの集落に残り、一人で暮らしていられたのですね」
「これこれ、今は一人ではない。こんなにも頼りになる家族に囲まれておるではないか」
「そうそう、長老の家族は俺達だぜ!!」
「ウォンッ!!」
長老の元に大きな骨付き肉を抱えたミノと、ファングと呼ばれる灰色の狼型の魔獣の群れが駆けつける。ファングたちは長老の足元に擦り寄り、その様子を見て長老は微笑みながらも彼等の頭を撫でた。今の彼にとっての家族は「魔人」だった。
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