第724話 エルフの長老

「団長!!」

「おお、レナ君!!やっと目を覚ましたのか、無事で良かったよ!!」

「ほう……あれがルイさんが話していた子供か」



レナが声をかけるとルイは立ち上がり、嬉しそうな表情を浮かべてレナの元へ駆けつける。その様子を見てローブで全身を包み隠した人物も起き上がると、レナの元へ訪れて顔を出す。


ローブで身を包んでいた人物の正体は老人であり、しかも年齢はマドウやワドルフのように相当な高齢者だと判明する。また、耳元が尖っている事からエルフである事に気付いたレナは驚き、ルイは老人に彼の事を紹介する。



「長老、この子がさっき僕が話していたうちの冒険者組織クランで働いている若手冒険者の中でもピカイチの実力を持つレナ君だ」

「ほうほう、この子が……なるほど、確かにこの年齢では信じられないほどに魔力が練りあがっておるな」

「えっと……」

「レナ君、この人はこの集落に暮らす「長老」と呼ばれる方だ。この集落で一番偉い人と言えば分かりやすいかな?」



ルイの言葉を聞いてレナは長老と呼ばれる老人をまじまじと観察し、どこからどう見てもエルフの老人にしか見えなかった。どうして大迷宮にエルフの老人が暮らしているのかと思ったが、長老はレナの内心を察したようにルイに注意した。



「ルイさん、どうやらこの子は混乱しておる様子じゃ。まずは儂の事よりも、この集落の事を説明してやるといい」

「あ、ああ……確かにその通りですね。ではレナ君、何から聞きたい?」

「えっと……ここは何処ですか?」



長老と名乗る老人の事や言葉を話す魔物達の事も気に放ったが、一先ずは現在の居場所をレナは尋ねると、ルイは長老から聞いた話を参考に説明する。



「ここは僕達が登っていた雪山の頂上付近に存在する集落だよ」

「集落……大迷宮にどうして集落が?」

「正確に言えば数百年前はここには何もなかった。だが、儂らが訪れてから人が暮らせる集落を作ったのじゃよ」

「建設……数百年前?」

「ああ、この集落を作り出したのはどうやらエルフらしいんだ。その辺の話は長老がしてくれた方が分かりやすいだろう」

「ふむ、そうじゃな……では、儂らがどうしてこの大迷宮へ送り込まれたところから話そうかのう」



現在レナ達が存在する集落は元々は数百年前に建造されたらしく、その頃は長老以外にも数多くのエルフが暮らしていたという。ここで気になったのはどうして大勢のエルフが大迷宮であるこの場所に暮らしていたかであった。




――今から数百年前、異界から召喚された勇者が実在した時代、とあるエルフの集団が故郷を失ってヒトノ王国に助けを求めた。彼等はヒトノ国と他国の境目に存在する森の中で暮らしていたが、戦によって彼等が暮らしていた森は焼き払われる事態へ陥り、彼等は故郷を失う。


自分達の住処を失ったエルフに対してヒトノ国の国王は対応に困り、勇者に頼る。色々と話し合った結果、勇者は彼等が安全に暮らせる場所を提供しようとした。しかし、当時のヒトノ国は他国との戦争を頻繁に行っていたため、国内に絶対安全な領地などなかった。


色々と考えた結果、勇者はとある無人島へ送り込み、彼等が安全に暮らせる場所を用意しようとした。大陸から大きく離れた孤島に自分達を送り込むと聞かされたエルフ達は気が気ではなかったが、勇者が説得してくれた事でどうにか納得してくれた。


当時の勇者は転移魔法陣を使用して無人島へエルフ達を送り込む事に成功し、彼等のために安全に暮らせる場所を提供する。勇者は東西南北に集落を作り出し、魔物が入り込めない仕掛けを施すと、島の住民達に願い事を行う。



『後の時代、次の勇者がこの地に訪れる時が来るかもしれない。その時は勇者のために協力してほしい。きっと彼等はこの島で経験を積み、世界を救う存在へと成長してくれるからその時は君たちも力を貸して欲しいんだ』



勇者曰く、この島に彼等が目を付けたのは後の時代に異界から召喚されるであろう勇者のために用意した「訓練場」だという。この訓練場は勇者以外の存在に目が触れないように出入口である転移魔法陣は隠され、後に召喚される勇者か、あるいは勇者の血筋が継ぐ者が現れた場合、再び転移魔法陣が起動して次世代の勇者を呼び寄せる事になるとエルフ達は聞かされていた。


長老によるとこの島の東西南北には魔物が立ち寄る事が出来ない地域が存在し、そこに集落が存在するという。そして現在レナ達が存在するのはその集落の一つらしいのだが、今の時代ではもうエルフの住民は長老しかいないらしく、彼以外のエルフは死んでしまったらしい。




「――この場所には儂以外にも数十人のエルフが暮らしていた。しかし、ある時に勇者様が残した結界石が壊れ、集落を包み込む結界が解除されてしまった。そのせいで集落の中にもが訪れ、村人は儂を残して全員が殺されてしまった……もう数十年も前の話じゃがな」

「奴?」

「この山に巣食う牙竜の事さ……君も見ただろう?」



ルイの言葉にレナは雪崩が起きる前に自分とイルミナに襲い掛かった牙竜の事を思い出す。長老は牙竜によって家族を失い、今では一人でこの集落に暮らしているという。

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