第721話 雪山の主
――白毛熊との激闘の末、見事に温かい毛皮と食料を手に入れたレナとイルミナは雪山を登る。途中まではスケボを使用して移動する事が出来たのだが、徐々に天候が悪くなってきた。
「くっ……風が強くなってきましたね、大丈夫ですか?」
「ええ、白毛熊の毛皮のお陰で大分寒さは緩和されましたが、雲行きが怪しくなってきましたね。この調子だと、もうすぐ吹雪になるかもしれません。急いで団長を探しましょう」
イルミナはルイの現在位置を魔道具で確認し、大分登ってきたがルイはまだ上の方にいるらしく、現在のレナ達はやっと雪山の中腹に辿り着いた程度である。麓の方はまだ歩く道はあったが、中腹付近からは雪で覆われ、仮に徒歩で移動するとなると相当な時間と労力を必要としていただろう。
スケボのお陰でレナ達は順調に進んでいるが、それでも途中で何度か白毛熊などの猛獣と遭遇し、交戦は避けられなかった。雪の上では思うように戦う事は出来ず、スケボを乗りこなして戦うしかない。
「ふうっ……大分移動したはずなんですけど、団長の姿が見つかりませんね。大丈夫でしょうか……」
「団長ならば大丈夫です、あの人は一人だろうと強いので平気でしょう。それよりもレナ、貴方の方こそ大丈夫ですか?」
「大丈夫です、これぐらいの移動距離なら疲れる事は……あれ?」
「どうしました?」
スケボで移動中、レナは上の方角を見上げると派手な雪煙が舞い上がっている事に気付き、疑問を抱く。まさか雪崩が起きようとしているのかと思ったが、直後に獣のような鳴き声が雪山に響く。
――ガァアアアアアッ!!
獰猛な獣を想像させる咆哮が雪山に響き渡り、驚いたレナとイルミナは後方を確認すると、そこには雪の上を疾走する巨大な四足歩行の生物が存在した。その外見を見てイルミナは驚愕の声を上げる。
「まさか……あれは、牙竜!?そんな馬鹿なっ!!」
「牙竜!?」
「獣人国の山岳地帯に生息するといわれる竜種です!!戦闘力は火竜に劣りますが、それでもゴブリンキング級の魔物を捕食対象にするほどの獰猛な危険生物です!!」
「ガアアアアアッ!!」
牙竜の外見は火竜よりも体格は小さいが、それでも体長は7、8メートルは存在し、火竜や飛竜のような羽根は生えていない。但し、四肢が異常なまでに太く、雪に埋もれながらも凄まじい突進力を発揮して突っ込んできた。
その牙は研ぎ澄まされた刃物の如く鋭く、そしてセイウチの様に大きな二つの牙が生えていた。全身は白色の鱗に覆われ、同時に異様に長い尻尾の先端は槍のようにとがっていた。外見だけを見てもその狂暴性を伺え、しかもレナ達の方角へ向けて凄まじい勢いで突進を仕掛けてくるのだからレナとイルミナも慌てふためく。
「ど、どうすれば!?」
「今から逃げても間に合いません!!私と同時に魔法を発動しなさい!!」
「は、はい!!」
イルミナの指示にレナは籠手を構えると、瞬時に付与魔法を発動させて籠手に地属性の魔力を込める。イルミナの方も杖を構え、二人は牙竜が突っ込んできた瞬間に魔法を同時に発動させた。
「
「ストームバレット!!」
「ガハァッ……!?」
正面からレナは重力の衝撃波、イルミナは風属性の魔力の塊を放つと、牙竜は二人の魔法をまともに受けて身体が浮き上がり、そのまま二人を飛び越えて雪山を崩れ落ちていく。
――グガァアアアッ……!?
悲鳴を上げながら坂を転げ落ちていく牙竜の姿を確認してレナとイルミナは安堵するが、同時に二人の上の方角から轟音が鳴り響き、顔を向けると雪崩が発生して二人の元に大量の雪が押し寄せてきた。
ここでレナとイルミナは先ほどの牙竜の咆哮、更には自分達の魔法のせいで雪崩が発生した事に気付き、咄嗟にレナはスケボを離れさせようとしたが既に時は遅く、二人の身体に大量の雪が襲い掛かる――
――次にレナが目を覚ました時、彼は自分の身体が柔らかい毛皮のような物に覆い込まれている事に気付く。それと同時に獣臭を感じ取り、驚いたレナは目を見開くと、最初に視界に入ったのは見知らぬ天井だった。
「ここは……!?」
どうやら気絶している間に見知らぬ建物の中に運び出されたらしく、身体を起き上げようとしたレナは自分がいつの間にか大きな動物の毛皮に包まった状態で倒れている事に気付く。
レナが所持していた白毛熊の毛皮ではなく、彼が身に付けている毛皮の色は茶色だった。また、部屋の中には暖炉も存在し、火が灯されていた。この時点でレナは誰かが自分を救い、この場所まで運んできてくれたのだと知る。
レナの装備品は取り外された状態で部屋の隅に置かれており、それを確認したレナは身体が若干痛みながらも起き上がると、窓が存在する事に気付く。窓ガラス越しに外を確認すると吹雪で覆われている事に気付き、外の様子はよく見えなかった。
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