第720話 脱出のために……

「あの、俺の転移石が使用できないんですけど、イルミナさんの持っている転移石の方は……」

「私が持っている転移石も使用できません。ですが、魔力が失われた様子はないので恐らくは完全に効果を失ったわけではないでしょう」



レナの言葉にイルミナも頷き、彼女も自分が所持していた転移石を取り出す。二人が所有する転移石は反応はあるので魔力を失われたわけではなく、単純に発動が出来ないだけで壊れた様子はない。


転移石をしまったレナとイルミナは今後はどのように行動するのかを話し合い、当面の間は他の3人との合流を急ぐ必要があった。戦闘能力が高いカツやダンゾウならばともかく、ルイの場合は支援魔術師という性質上、他の者と比べると戦闘能力の面が低い。



「まずは団長を探し出しましょう。あの方ならば大丈夫だと思いますが、急いで合流しなければ……」

「でも、場所は分かるんですか?」

「大丈夫です、このような状況を想定して団長はある魔道具を所有しています」



イルミナは懐中時計を想像させる道具を取り出し、それを見たレナは不思議に思う。この世界にも時計の類は一応は存在するが、イルミナが取り出したのは時計ではなく、蓋を開くとコンパスのような物が出現した。



「それは?」

「特定の魔力を放つ物体を感知する魔道具です。これは団長が所持している特別な魔石のペンダントに反応し、ペンダントがある方角を常に示します。つまり、これを辿れば……」

「団長の元に辿り着けるんですね!?」



レナの言葉にイルミナは頷き、彼女はコンパスが指し示す咆哮を確認すると、北の方角を示す。北に存在するのは頂上付近が雪で覆われた高山である事を確認し、少し面倒な場所にルイは飛ばされた事を知ってイルミナは眉を顰める。



「レナ、貴方の力で山の方へ飛ぶ事は出来ますか?」

「あ、それが……迂闊に空を飛ぶとグリフォンやペガサスに襲われるんです。だから、山に近付くにしても高度を下げて移動しないとならないので……」

「そうですか……いえ、それでも十分です。近付けるだけ近づいて下さい」



高度に気を付けて進まなければならないとなると、レナのスケボでも高山へ向かう場合は多少気を付けなければいけない。それでも徒歩で向かうよりは早く辿りつける事は間違いなく、イルミナはレナのスケボを使用して二人で向かう事を促す。


スケボに乗り込んだレナの後ろにイルミナは乗り込み、この際にいつの間にか子供だと思っていたレナが自分と同じぐらいの大きさに育っている事に気付く。この1年の間にレナも身体がの方が成長し、イルミナは彼の事を意識してしまう。



(いつの間にかこんなに大きくなっていたんですね。出会った頃と比べてたくましく……い、いや、こんな時に私は何を考えてるんですか!!)



イルミナはレナの事を意識している事を自覚して頬を赤く染め、慌てて首を振って冷静さを取り戻す。そんなイルミナの様子に気付かぬまま、レナはスケボを浮上させて北の高山の方へと移動を行う――






――北の高山へ近づくほどに気温が下がり始め、先ほどまでは少し暑いと感じていたレナとイルミナも高山の麓に辿り着いたころには身体の震えが止まらず、無意識に互いの身体をすり寄せていた。イルミナはコンパスを確認し、ルイの所在地が高山の更に上の方だと知る。



「だ、団長はまだ上の方にいるようですね……」

「そ、そうですか……なら、急ぎましょう」

「ええ、そうですね……待ってください、あれを見て!!」



イルミナを乗せた状態でレナはスケボを浮上させ、高山の更に上の方へと移動を行おうとすると、唐突にイルミナが声をかける。彼女が何か発見したのかとレナは首を振り返ると、イルミナの視線の先に真っ白な毛皮で覆われた熊型の魔物が存在した。



「あ、あれは……白毛熊!?ヒトノ国には生息していない珍しい魔獣です!!」

「白毛熊……白熊じゃないんですか?」

「いえ、白毛熊です」



外見はどう見ても白熊にしか見えないが、イルミナによると白毛熊と呼ばれる赤毛熊の別種らしく、ヒトノ国には生息しない珍しい魔物だという。名前の通りに白毛で全身が包まれた熊が麓の方角へ向けて歩いていた。


白毛熊を目撃したイルミナは警戒心を抱き、赤毛熊と同様に白毛熊は厄介な魔物だった。単純な戦闘力は赤毛熊と大差はないが、白毛熊の場合は冷気に耐性があるため、水属性の魔法は受け付けにくい。だが、ここで出会えた事は不幸中の幸いであり、レナとイルミナは目つきを怪しく光り輝かせ、互いに頷く。



「レナ、分かっていますね?」

「はい……あの暖かそうな毛皮、防寒具には最高ですね」

「出来る限り傷つけず、確実に仕留める必要がありますね。肉の方も食料としては理想的です」



レナとイルミナは白毛熊の体毛に目を付け、この先を進むには防寒具が必須のため、まずはルイの救出の前に二人は準備を整えるために白毛熊に嬉々として襲い掛かった――






※白毛熊「俺が何をしたというんだ(´;ω;`)」

 カタナヅキ「可哀想に……」(´・ω・)ノヨシヨシ

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