第719話 地竜

「フゴォオオオッ!!」

「うわっ!?」



巨大生物は身体を起き上げ、仁王立ちの如く立ち上がるとスケボに乗り込んだレナに目掛けて巨体を傾ける。咄嗟にレナは回避しようとしたが、間に合わずに巨大生物の岩石の甲羅にスケボが衝突し、バランスを崩して水面に向けて落下していく。


湖に落ちる寸前、どうにかレナは体勢を整えてスケボを浮上させる事に成功したが、巨大生物は再び四つん這いとなると、津波が発生してレナの元へと迫る。迫りくる波に飲み込まれないようにレナはしっかりとスケボへ掴まり、移動速度を上昇させた。



(くそっ……このままだとまずい)



津波からどうにか逃れたレナはスケボを上昇させて巨大生物に視線を向けると、相手はレナの事を睨みつけ、口元を開く。先ほどのように「水の砲弾」を放つ体勢に入った巨大生物を見てレナは困り果てると、突如として岸部の方角から光線のような物が放たれた。



「フレイムカノン!!」

「フガァッ……!?」

「えっ!?この魔法は……」



巨大生物が口元に溜まった水を吐き出そうとした瞬間、岸部から放たれた熱線が衝突し、水を蒸発させて水蒸気が巨大生物の顔面を包み込む。その魔法を見てレナは驚愕の表情を浮かべると、いつの間にか岸部の方に杖を構えるイルミナの姿が存在した。



「レナ、こちらへ来なさい!!早く!!」

「は、はい!!」

「フゴォッ……フガァッ!!」



イルミナの言葉に従い、すぐにレナは岸部へとスケボを走らせると、巨大生物が自分の視界を塞ぐ水蒸気を振り払うように首を振る。その様子を見てイルミナは杖を取り出すと、彼女は意識を集中させて水属性の広域魔法を発動させる。



「ミスト!!」

「フガァアアッ……!?」



杖を天に掲げた瞬間、広範囲に白霧が発生して湖全体を覆い込み、巨大生物の視界が白霧によって塞がれてしまう。レナとイルミナを見失ってしまった巨大生物の困惑する鳴き声が響き渡り、それを確認したイルミナは安堵した。


彼女が使用した魔法は水属性の広域魔法の一種で相手の視界を封じる「ミスト」と呼ばれる魔法である。攻撃能力は皆無に等しいが、それでも今回のような巨大な敵に対して姿を隠す事が出来るため、今のうちに彼女はレナとの合流を計る。



「イルミナさん!!」

「レナ、無事でしたか……話は後です、すぐにここを離れますよ」

「はい!!」



司会は白霧に封じられたとはいえ、魔力感知の技能でレナはイルミナの正確な位置を把握して彼女の元に辿り着くと、イルミナは安心した表情を浮かべる。だが、すぐに彼女はレナの乗ったスケボに自分も乗り込み、この場を離れるように指示した。


白霧が晴れれば先ほどの巨大生物に狙われるのは必須のため、魔法の効果が切れる前にイルミナは湖を離れるように促す。レナは彼女の言われた通りにスケボを走らせ、荒野の方角へ向けて移動を行う――






――しばらく時間が経過した後、湖が見えない距離まで移動するとレナはスケボを止め、イルミナを下ろす。彼女と再会できたのは喜ばしい事だが、残念ながらイルミナもレナと同じく他の人間とは別々に転移してきたらしく、今のところはレナ以外の者とは会っていないという。



「そうですか……貴方も他の人間を捜索する途中、地竜と遭遇して襲われている所を私が発見したという事ですか」

「地竜……?」

「本来は山岳や荒野などに生息する竜種です。最も火竜と比べれば戦闘力は低く、私の知る限りでは外の世界に存在する地竜は大きくてもせいぜい7、8メートル程度の大きさしか存在しませんが……流石は大迷宮、まさかあれほど巨大な地竜が潜んでいるとは思いもしませんでした」



イルミナは巨大生物の正体を「地竜」と呼ばれる竜種である事を知っていたらしく、彼女によると外の世界にも生息するらしいが、レナが遭遇した個体ほどの大きさの地竜は見た事がないという。


竜種に属しているが本来はロックゴーレムに近い存在らしく、外の世界の地竜は火竜と比べれば危険度は低く、彼等の縄張りに踏み入らなければ戦う機会もないらしい。レナの場合は迂闊に湖で接触したために襲われたと考えられた。



「すいません、俺が迂闊な行動をしたばかりにこんな事に……」

「いえ、今回ばかりは仕方ありません。初めて訪れる大迷宮なのですから不測の事態が起きる事は予想していました。しかし、次からはもっと慎重に行動しなさい」

「はい、分かりました……」

「でも、貴方が無事で良かった」



イルミナはレナの肩に手を置き、心底安心した表情を浮かべる。忘れがちではあるが、レナは黄金級冒険者といってもまだまだ若く、冒険者としての経歴は3年程度である。


イルミナたちと比べれば冒険者としての活動は短く、しかも魔法学園に通っていた時は碌に冒険者活動も行えなかった。その点を考慮すればレナはまだまだ冒険者としては未熟な点もあり、その事をイルミナは普段から心配していた。

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