第718話 湖の孤島

「参ったな、スケボを利用すれば移動は楽なんだけど……あんな奴等があちこちにいるとしたら迂闊に空を飛べないぞ」



レナはよくよく観察すると上空のあちこちに空を飛ぶ魔獣が存在する事に気付き、元の世界と違ってこの島では空を飛ぶ魔物が多数生息するらしく、迂闊に空を飛ぶと危険だと判明した。


慣れない空中戦ではレナは思うように実力を発揮できず、不意を突かれて襲われたら命を落とす可能性も高い。そう考えると空の移動は危険だが、広大な島を探索するにはスケボの力を借りなければならない。



(空の奴等に気付かれない程度の高度で飛べば大丈夫かな。そうなると密林や高山に移動するのは危険だな。なら、向かう先は荒野か草原か)



上空を移動する事が出来ないとなると密林などの入り組んだ地形ではスケボの移動は難しく、北の山の方は先ほど傷ついた天馬が向かったので住処として暮らしている可能性もある。ならば荒野か高原のどちらかを先に探索するべきかと考えたレナだったが、ここである事に気付く。



「あれ?この湖……島みたいなのが浮かんでるな」



レナは湖の中心の方に島のような物が浮かんでいる事に気付き、少し気になったレナはスケボに乗り込んで湖の中心部へと向かおうとした。


先ほどのように高度を上げすぎると天馬やグリフォンに襲われる可能性があるため、水面から1メートルほど浮上した状態で向かう。



「やっぱり、島みたいのがある。結構大きいな……」



湖の中心部には直径30メートルほどはある大きな島が浮かんでいた。島というよりは巨大な岩という表現が正しく、樹木どころか雑草1本も生えていない。あちこちに苔が生えており、試しにレナは島の上に降り立つ。



「おっとっと……別に何もないな」



意外とこのような場所に転移台が設置されているのではないかと少し期待したレナだったが、島の上には特になにも見当たらず、少し残念に思う。だが、この場所なら魔物に襲われる心配もないので安心して休めるかと思った矢先、唐突に島全体が震え出す。



「な、何だっ!?」



地震が起きたわけでもないのに島が揺れ出した事にレナは驚き、慌ててスケボに乗り込むと、突如として島が浮上する。


そしてレナは自分が島だと思っていたの巨大な生物の「甲羅」である事に気付き、湖から現れたのは土気色の巨大な「亀」を想像させる魔物だった。




――ブフゥウウウッ!!




湖から姿を現した巨大生物は鼻息を噴き出し、岩山のような甲羅を背負っていた。最初はそれを見たレナは巨大な亀型の魔物かと思ったが、生物の顔は亀というよりは飛竜や火竜のような顔つきに近く、レナを見ると咆哮を放つ。




――フゴォオオオッ!!




体長だけならば火竜やオルトロスをも上回る巨大生物の咆哮に対してレナは焦りを抱き、慌てて離れようとしたが巨大生物は巨体の割には俊敏な動作でレナに対して顔を伸ばし、口から巨大な水の塊を放つ。


咄嗟にスケボを操作してレナは回避に成功するが、放たれた「水の砲弾」は湖の外にまで移動すると、南方に広がる密林にまで届き、巨大な樹木を破壊する。その威力は一流の魔術師の砲撃魔法の上級に匹敵し、まともに衝突すればレナの身体は木っ端みじんに砕け散っていただろう。



「うわわっ!?」

「フゴォッ!!フゴッ!!」



巨大生物は空を飛び回るレナに向けて次々と水の砲弾を放ち、レナが躱した砲弾は木々を破壊し、地面を抉り込む。このままではまずいと判断したレナは巨大な生物の甲羅側の方に移動を行うと、巨大生物は慌てて首を伸ばそうとするが、甲羅の背中に届いたレナには届かない。



「あ、危なかった……こいつ、魔物なのか?もしかして竜種……?」



どうにか水の砲弾を回避したレナは湖に浮かぶ巨大生物に視線を向け、このままでは危険だと判断したレナは闘拳に付与魔法を発動させ、一か八か攻撃を行う。



限界強化リミット!!」

「ッ――!?」



深紅の闘拳が極化現象を引き起こした事で更に色合いが濃くなり、巨大生物の背中にある甲羅のような岩石へと叩き込まれる。しかし、結果から言えば拳が触れた箇所に亀裂を生じさせる程度しか損傷を与えられなかった。


一年前と比べてもレナの付与魔法の精度は上昇し、魔力に関しても大幅に上昇していた。今のレナの一撃ならば火竜が相手だろうと損傷を与える事が出来るはずだが、巨大生物の場合は甲羅の一か所にひび割れ程度の損傷しか与えられず、その事実にレナは動揺する。



(硬っ……ロックゴーレムやブロックゴーレムの比じゃない硬さだぞ!?)



外見は岩石のように見えるが、その硬度は並ではなく、火竜の素材で構成されたレナの闘拳ですらも罅を与えるのが精いっぱいの高度だった。恐らくはアダマンタイト級の硬さを誇り、更に巨大生物は攻撃を行ったレナに対して怒りを露にして身体を激しく揺さぶった。

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