第717話 島の大迷宮

「何だ、これ……!?」



密林の上空へと移動したレナが目にした光景は彼の予想を超える風景だった。遥か上空まで上昇したレナが目にした光景、ここでレナは自分が存在するのは非常に大きな「島」である事に気付く。


島の周囲は岩山に取り囲まれ、周辺は海で覆われていて他に島らしき物は一切見えず、レアが存在した密林は島の南方に存在する事が発覚した。反対側の北方には巨大な山が存在し、頂上の部分は雪が積もっていた。


西方では荒野が広がり、東方では高原地帯が広がっているのを確認したレナは動揺を隠せなかった。今までの大迷宮とのあまりの違いにレナは戸惑い、無意識に呟く。



「これが新しい大迷宮なのか……まるで島じゃないか」



正に「島」としか表現が出来ず、雪山、荒野、密林、高原の4つに別れた島の様子を見てレナは呆然とする。だが、いつまでも呆けている場合ではなく、まずは他の4人と合流する必要があった。



「そうだ、他の4人を探さないと……転移石が使えなくてもきっとこの島の何処かに転移台があるはずだ」



この場所が大迷宮ならば必ず島の何処かに「転移台」と呼ばれる元の世界へ帰還できる台座が存在するはずだった。レナは他の4人と合流し、まずは転移台を探すために向かおうとした時、大きな影がレナを覆い込む。



「クエエエッ!!」

「うわっ!?」



上空から鳴き声が聞こえたレナは驚いて顔を上げると、そこには鷹の上半身に獅子のような下半身を持つ生物が存在し、レナに向けて鋭い鉤爪を振り下ろそうとしてきた。咄嗟にレナはスケボを降下させて回避に成功するが、突如として現れた生物を見て驚く。


レナに襲い掛かったのは「グリフォン」と呼ばれる外の世界でも珍しい魔物で間違いなく、グリフォンは空を飛んでいるレナに目掛けて突っ込んできた。その飛行速度は飛竜にも匹敵し、慌ててレナはスケボを操作してグリフォンから逃れようとした。



(グリフォン!?初めて見た……普通は高山に暮らす魔物だと聞いてたのに)



外の世界のグリフォンは高所地帯にしか生息せず、滅多に山から下りる事はない。グリフォンは縄張り意識が非常に強い魔物で、仮に自分よりも強大な力を持つ相手だろうと縄張りに入り込めば容赦なく襲い掛かる魔物である。


飛行速度は飛竜にも匹敵し、その戦闘力はボアやオークすらも一撃で殺せる強さを誇るという。レナは戦闘を避けてスケボの最高速度を引き出して距離を離そうとしたが、グリフォンの方も諦めるつもりはないのかレナの後を追う。



「クエエッ!!」

「くそ、しつこいな……いい加減にしろ!!」



レナは左手の籠手を構えてグリフォンに重力の衝撃波を放とうとしたが、その前に前方の方角から新しい鳴き声が響く。



「ヒヒンッ!!」

「なっ……天馬!?」



前方の方角から現れたのは背中に翼を生やした白馬であり、金色の隼に所属する冒険者にとっては見慣れた存在でもある。どうやらこの島には野生の天馬も存在したらしく、天馬はレナとグリフォンの存在に気付いて接近してきた。


慌ててレナは地上へ向けて降下を行うと、グリフォンと天馬は互いの存在を認知して空中で争い合い、鍵爪と蹄を同時に繰り出す。



「クエエッ!!」

「ヒヒンッ!!」



グリフォンは天馬を餌と定めて襲い掛かり、一方で天馬の方はグリフォンを縄張りに侵入した敵と定めて襲い掛かる。どちらも激しく空中で前脚を繰り出し、互角の工房を繰り広げた。


その様子を確認しながらもレナは地上へ向けて降りると、やがて島の中心部に存在する大きな湖の前へと降りる。上空を見上げると天馬とグリフォンが激しい戦闘を繰り広げているのを確認し、額の汗を拭う。



「あ、危なかった……空中で戦うのは苦手なんだよな」



天馬もグリフォンも地上ならばレナの敵ではないが、空の上では飛竜と同様に厄介な敵だった。しかし、どちらも互いに夢中のようでレナの存在を忘れたかの如く争い合い、やがてグリフォンの方が身を翻してその場を去っていく。



「おっ……決着が着いたのか?いや、割に合わないと考えて引き返したのかな」



自分の縄張りへと引き返すグリフォンの姿を見てレナは天馬が勝利したかと思ったが、天馬の方も白い毛皮に血を滲ませており、そのまま身体をふらつかせながらも来たの方角へと向かって飛んでいく。その様子を確認してレナは天馬が何処に向かっているのか気になったが、今は他の4人を探すのが先決だった。



「おっと、あいつらの事を観察している暇はないや……団長達は何処だろう?」



島の何処かに他の4人も飛ばされたとは思うが、上空からみた限りでは相当に大きな島らしく、捜索するのも難しい。しかも転移石が使えない状態のため、元の世界へ帰還する事も出来ない。


当面の間は他の4人の捜索、同時に元の世界へ戻るための転移台の探索を行う必要があると判断したレナはスケボを飛翔させて空を移動しようとしたが、先ほどのグリフォンと天馬の事を思い出してこの島には上空でさえも安全地帯ではない事を悟る。

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