第716話 新たな大迷宮

「なあ、団長!!兄ちゃんが行くならあたし達も一緒に連れて行ってくれよ!!」

「抜け駆けはずるい」

「あ、僕も一緒に行きたいです!!」

「新しい大迷宮か……肉が美味い魔物もいるかな」



レナが出向くと聞いてコネコが真っ先に同行を申し出ると、他の3人もそれに賛同する。しかし、今回はルイも彼等の願いは聞き入れられず、はっきりと断った。



「いや、それは駄目だ。今回の調査は黄金級冒険者だけが執り行う事は事前に話し合いで決まった事なんだ。いくら君たちが金級冒険者だとしても認められない、まずは危険があるかどうかを実力と実績がある僕達で調査せよと国王陛下から承っているからね」

「ぶ~ぶ~!!ずるいぞ団長!!」

「そんなにぶ~たれても駄目な物は駄目だ!!大人しく帰って勉強しなさい!!めっ!!」

「お母さんみたいになってますよ団長……」



コネコが不満を口にするが、ここで彼女達を連れて行くと他の冒険者達に不満を買ってしまう。何しろ黄金級冒険者といってもこの場に存在する全員が金色の隼に所属しているため、実質的に新しい大迷宮の最初の探索は金色の隼が執り行う事に等しい。


金色の隼に所属していない冒険者にとっては今回の調査隊の派遣は内心では不満もあるが、実力を考えればこの5人が妥当である事は納得している。今までに一度も訪れた事がない大迷宮の危険度を調べるためには実力確かな人材が厳選されるのは仕方がない話である。



「よし、では念のために全員に転移石を渡しておく。万が一に危険を感じた場合、すぐに転移石を使用して地上へ戻ってくるんだ」

「分かりました」

「問題ありません」

『おう』

「ああ」



ルイは全員に転移石を手渡すと、彼女は転移魔法陣に移動し、他の者も後に続くと老兵に視線を向ける。転移魔法陣の管理を行う老兵は台座に手を伸ばし、確認を行う。



「では、発動させます……準備はいいですか?」

「問題ない、さあ、早く!!」

「……武運を祈ります」



催促された老兵は恐る恐ると言った感じで台座を通して転移魔法陣を発動させた瞬間、魔法陣が光り輝き、光の柱と化してレナ達の身体を包み込む――






――次にレナは目を開くと、最初に見えたのは無数に並ぶ樹木だった。レナは自分が森の中に移動した事に気付き、身体に強い熱気が襲い掛かる。森というよりは「密林」のような場所に飛ばされたらしく、額の汗を拭いながらもレナは周囲の様子を確認した。



「あれ……団長?副団長?カツさん?ダンゾウさん?」



先ほどまで自分の傍に居たはずの4人が存在しない事に気づき、驚いたレナは辺りを振り返ると、自分が立っている場所に魔法陣のような紋様が刻まれている事に気付く。


転移魔法陣と同じ形をした魔法陣が刻まれた台座の上に立っている事に気付いたレナは降りると、念のために他の人間の姿を探すが見当たらない。



「どうなってるんだ?まさか、別々の場所に転移した?でも、そんな事があり得るのか……?」



他の大迷宮に移動する際、同じ転移魔法陣内に存在すれば全員が一緒に転移するのが当たり前の出来事だった。だが、今回は全員が同じ魔法陣を使用したにも関わらずに転移した事にレナは警戒心を抱き、とりあえずは転移石を取り出す。



「皆が別の場所に転移していたとしたら、一旦帰還して報告しないと……あれ?」



転移石を取り出したレナは帰還を試みようとしたが、ここで転移石が反応しない事に気づく。いつもならば呪文を告げれば魔法陣が展開して元の世界に戻れるはずなのだが、何故か発動しようとしても上手くいかない。



帰還ワープ!!帰還!!……駄目だ、反応しない。どうなってるんだ?」



転移石を発動しようとしても魔石が光り輝くだけで帰還のための転移魔法陣が発動する様子はなく、何度か試してみるが結果は同じだった。しかし、転移石の様子を調べる限りは壊れている様子はない。


以前にも転移石の魔力が奪われて転移石が発動しないという事態に陥った事もあったが、今回の場合は特に転移石から魔力が失われた様子はなく、何らかの理由で魔法陣の発動が妨げられているように感じた。



「どうなってるんだろう……とりあえず、辺りを探索するか」



転移石が使用できない以上は今すぐには帰還する事は出来ず、仕方なく懐に転移石をしまうとレナは背中に背負っていたスケボを取り出す。森の中であろうとスケボに乗り込んで空を飛べば迷う心配はなく、付与魔法を施してスケボを上昇させる。



「これでよし、後は他の人たちを探さないと……」



スケボに乗り込んだレナは上空へと上昇し、森の上から様子を伺おうとする。最も今まで体験した大迷宮の傾向から、今回の大迷宮は「密林」のみで構成された世界だとレナは考えていた。


あまりレナは足を踏み入れていないが「草原」の大迷宮は言葉通りに延々と広がる草原の世界、次の「荒野」の大迷宮も同様に地の果てまで荒野が続き、最後の「煉瓦」の大迷宮は全てが煉瓦で構成された迷宮が広がっていた。だから今回の大迷宮は「密林」で構成された世界なのかとレナは予想したが、森の上空に移動するとレナの予想は簡単に覆された。

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