第715話 武者修行を終えたデブリ

「兄ちゃん、さっき凄かったんだぜ!!地震が起きたと思ったら、急に地面が浮き上がって魔法陣が出てきたんだ!!」

「丁度、私が立っていたところに浮かんできたから驚いた」

「僕もびっくりしたよ!!今日は非番だったから見に来たんだけど、まさか本当に新しい魔法陣が浮き上がる所を見れるなんて思わなかったよ!!」

「あ、皆着てたんだ……という事はデブリ君やドリスさんたちもいるのかな?」



レナの元にコネコ、シノ、ミナが興奮した様子で駆けつけ、3人を見たレナはデブリ達もこの場にいるのかと見渡すと、両手に骨付き肉を手にした大男が現れる。大男の正体はこの1年の間に身長が一気に伸びて体重も増えたデブリだった。



「おう、レナ!!やっと来たのか……もぐもぐっ」

「久しぶりデブリ君!!というか、また一段と大きくなったね……最近まで武者修行に出てたんだっけ?」

「ああ、やっと帰ってこれたのに休む暇もなくここに連れてこられたぞ!!全く、久々に王都の飲食店巡りしたかったのに……」



デブリは最近まで黄金級冒険者のダンゾウと彼の弟子達と共に王都を離れ、王国の領地を転々と回っていた。顔を合わせるのは半年ぶりぐらいだが、相変わらずの大食漢らしい。


修行を終えた事もあってデブリは以前よりも一回り程肉体が大きくなり、筋肉と脂肪を見事に組み合わせた肉体に仕上がっていた。恐らくはオークの肉だと思われる骨付き肉に嚙り付きながらもデブリは他の二人を探す。



「そういえばドリスとナオはどうしたんだ?あの二人なら大迷宮に繋がる転移魔法陣が新しく誕生したと聞けば必ず駆けつけると思ったのに……」

「ドリスさんとナオ君は家の仕事の手伝いで忙しいらしいし、今日は来れないんじゃないのかな……」

「仕事……ああ、そういえば闘技場とやらがを建てたんだって?僕も旅をしている時に噂を耳にしているぞ。なんでも凄い人気があるらしいな」



ドリスの実家のアリス商会はダリルの協力の元、現在は「闘技場」と呼ばれる建物の経営を行っている。この闘技場は数か月前に誕生したばかりの催し物だが、既に王国中に知れ渡るほどの知名度を誇る。


闘技場といっても戦うのは人間同士だけではなく、捕獲した魔物同士を戦わせる事が多い。冒険者を雇い、捕獲した魔物を争わせるばかりではなく、時には闘技場に参加した人間同士が戦う事もあった。


数多くの武芸者が闘技場に出場しては腕を競い合い、優勝者には多額の報酬と闘技場で倒された魔物の素材を手にする権利を得られる。また、賭博も認められているので観客同士で賭けを行い、娯楽を欲する貴族からの人気も高い。



「遊郭区が誕生してから王都の外からやってくる人も増えてきたし、そのお陰で闘技場に興味を持つ人もいっぱい来るから凄く繁盛してるんだって」

「ドリスとナオの姉ちゃんもたまに試合に出る事があるんだけど、どっちも盗賊ギルドの奴等や卒業試験の時に派手に活躍したからさ、それで二人が出場する時は腕自慢の武芸者や魔術師が駆けつけてくるから凄いんだぜ?」

「僕も何回か闘技場に参加した事があるけど、あの時は大変だったな……皆、僕を狙ってくるんだもん。まあ、全員倒して優勝したけどね!!」

「お前ら、そんな事をしてたのか……呆れた奴等だな」



闘技場の話を聞いたデブリは呆れた表情を浮かべるが、レナ以外の者達も盗賊ギルドや卒業試験での一件で名前が他の地方にも知れ渡り、腕に自信がある者に喧嘩を挑まれる事が多かった。


その中にはレナ達の存在を知ると街中であろうと仕掛けてくる迷惑な武芸者も存在したが、並大抵の実力者では今のレナ達に敵うはずがない。



「君たち、こんな所で立ち話をしている暇はないよ!!ほら、見たまえ!!この魔法陣を……君たちも冒険者ならこれを見てわくわくしないはずがないだろう!?」

「あたしは別に……」

「面倒事は嫌」

「僕もちょっと……」

「帰ってきたばかりだから身体を休めたいんだけど……」

「……う、うん。わくわくしますよね」

「君たち!?」



レナ以外の者達は特に転移魔法陣を確認しても微妙な表情を浮かべ、そんな彼等を見てルイは衝撃を受けた表情を浮かべるが、イルミナが彼女を落ち着かせると改めて魔法陣を見下ろす。



「ルイ団長、事前の取り決め通りにまずは調査を行う必要があります。まずは調査隊を結成し、大迷宮を調べる必要があります」

「あ、ああ……そうだったね。なら、事前の話し合い通りに今回の調査隊は黄金級冒険者のみで結成した部隊で挑む!!」



ルイの言葉に冒険者の中から武装を整えたカツとダンゾウが前に出てきた。その横にイルミナとルイも並び、最後にレナも前に出る。



『おう、遂に俺の出番だな!!』

「大迷宮か……腕が鳴るな」

「団長、準備は整っています」

「よし、それならすぐに出発しよう。覚悟は出来ているか、レナ君?」

「あ、はい。大丈夫です」

『おおっ……!!』



ヒトノ国の代表といっても過言ではない黄金級冒険者が5人も揃った姿に冒険者も兵士も圧倒され、この5人が力を合わせれば竜種級の危険種であろうと対応できるのは間違いなかった。

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