第714話 新たな大迷宮
――新しい大迷宮へ繋がる転移魔法陣が誕生するかもしれないという噂は瞬く間に王都中に広がり、民衆は騒ぎ立て、冒険者達は歓喜した。大迷宮は命を落としかねない程の危険地帯である事は間違えないが、同時に貴重な素材を入手して大きな利益を得られる可能性を秘めている。
国王も勇者の残した石碑の事を知って驚き、すぐに文官に命じて王城内の文献を調べさせるが、地下に存在した通路や石碑に関する資料は見つからなかった。なので本当に勇者が残した石碑なのか証明する術はなかった。
だが、地下に存在したブロックゴーレムから発見された「水晶玉」の解析を行った結果、今までに確認されているどんな魔石とも性質が異なる事が判明し、これほどの特異な魔石を作り出せるのは勇者しか存在しないという結論へと至る。
石碑に刻まれた文章を解析し、筆跡を確認して過去に召喚された勇者の資料を漁ると、結果から言えば筆跡が一致する人物が一人だけ存在した。それはこの地に大迷宮へと繋がる転移魔法陣を築き上げた人物だと判明し、石碑に記された文章の信憑性が高まる。
石碑が発見されてから一週間後、遂に金色の隼の元に国王からの命令が届き、地下に存在する台座に水晶玉を設置する指示を出される。万が一の事態に備えて黄金級冒険者が複数名存在する金色の隼に命令を降した事は間違いではなく、早速ルイは準備に取り掛かった。
狭い地下通路内にてルイはレナとイルミナを引き連れ、台座の前に立つ。流石の彼女も緊張した面持ちで水晶玉に視線を向け、二人に振り返る。
「よし、入れるよ……二人とも、警戒を怠らないように」
「は、はい!!」
「流石に緊張しますね……」
レナとイルミナは周囲の警戒を行う一方でルイが水晶玉を杯のような形をした台座に収めようとする姿を観察し、固唾を呑む。やがてルイは覚悟を決めた様にゆっくりと水晶玉を設置すると、しばらくの間は何も起きなかったが台座の方に変化が生じた。
「うわっ!?」
「地震!?」
「御二人とも、すぐに通路を出ましょう!!」
地下通路内に振動が発生し、すぐにイルミナは地下通路を抜け出す事を提案する。ルイとレナはその言葉に従い、3人は急いで通路を脱出した。
石碑に繋がる通路を3人が抜け出すと、煉瓦の壁が動き出して通路が完全に閉じてしまう。もしも3人が残っていれば壁に押し潰されていた事は間違いなく、冷や汗を流す。
「ふうっ、危なかった……」
「揺れも収まったな……だが、これでは先ほどの通路には戻れないな」
「地上で何か変化が起きたのかもしれません。すぐに我々も向かいましょう!!」
イルミナの言葉にレナとルイも賛成し、3人は急いで地上に存在するはずの大迷宮へと繋がる転移魔法陣へと向かう――
――レナ達が地上へ引き返すと、予想通りというべきか大迷宮へと繋がる転移魔法陣の台座にも異変が起きていた。通常ならば「薬草」「荒野」「煉瓦」の3つの大迷宮の転移魔法陣しか存在しないはずだが、いつの間にか新しい転移魔法陣が誕生し、素手に数多くの冒険者が集まっていた。
本当に新しい大迷宮へと繋がると思われる転移魔法陣の誕生に誰もが興奮を隠しきれず、中には我慢できずに魔法陣に踏み込もうとする輩もいた。
「うおおおっ!!ほ、本当に魔法陣が現れやがった!?」
「すげぇっ!!これでヒトノ国は4つの大迷宮を手にしたのか!!」
「もう我慢できねえ、早く飛ばしてくれよ!!」
「馬鹿、勝手に入ろうとするな!!」
「静まれっ!!」
魔法陣に入り込もうとする冒険者達に対して何者かが一括すると、彼等は驚いて上空を振り返る。そこには竜騎士隊を引き連れた大将軍のカインの姿が存在し、彼が地上へ降り立つと流石の冒険者達も焦ったように魔法陣から離れる。
カインは魔法陣の前に移動すると腕を組み、普段から魔法陣の管理を行う老兵へと振り返って確認を取った。この老兵が大迷宮へ繋がる転移魔法陣を起動させる役割を持つため、彼に新しく誕生した転移魔法陣を起動できるのかを尋ねた。
「おい、この転移魔法陣を起動させる事は出来るのか?」
「は、はい……恐らくですが、こちらの方で起動できます」
「おおっ!!」
「ほ、本当に新しい大迷宮へ行けるのか!!」
老兵の言葉に冒険者達は喜び、彼等にとっては大迷宮は一獲千金を狙える場所のため、新しいの大迷宮の誕生に喜ばない者はいない。やがてレナ達も遅れて辿り着くと、新しい転移魔法陣を目にしてルイは歓喜する。
「見ろ、二人とも!!僕の言った通りだろう?やはり、あの石碑に記されていた事は本当だったんだ!!」
「え、ええ……その通りですね」
「本当に新しい大迷宮へ繋がる転移魔法陣が……」
イルミナとレナは魔法陣を確認してルイの言った通りに新しい大迷宮へ繋がる転移魔法陣が誕生した事を悟る。そして3人が到着したのを確認すると、冒険者の群れの中からいつもの面子も集まってきた。
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