第713話 石碑

「確か、この先の方から急に現れて……えっ?」

「どうしたんだい?」

「いや、前に来た時はこんな通路がなかったはずなのに……」

『何だと?』



ブロックゴーレムが現れた方角を歩いていくと、先頭を歩いていたレナの視界に前回は訪れた時はなかったはずの新しい通路が存在した。前回に訪れたときは地下の通路は「〇」のように一周すれば元の場所に戻るはずだったが、いつの間にか中央に続く新しい通路が存在した。


通路を確認するとかなり奥まで繋がっている様子だが、かなり薄暗かった。突如として現れた通路の出入口にレナは疑問を抱くが、ここでブロックゴーレムの存在を思い出す。



(前にも確かあったな……ブロックゴーレムが壁に擬態して通路を塞いでいた事)



通路の出入口の大きさは丁度レナが倒したブロックゴーレムと同程度の規模を誇り、人間が通れるほどの広さはあった。それを確認したレナはこの場所に存在した壁の正体がブロックゴーレムだと判断し、どうやら壁に完璧に擬態していたので前回の時は気づけなかったらしい。



「この先の通路は俺も言った事がありません。どうしますか?」

「進むしかないね。罠に気を付けて慎重に進もう」

『そうだな、なら俺が……』

「いや、ここは俺が先行しよう。どんな罠だろうとこの盾で防いでやろう」



盾騎士のゴロウが先頭を歩き、通路を進んでいく。彼は慎重に大盾を構えながらも歩いていると、しばらく進んだところで立ち止まる。



「どうかしました?」

「……行き止まりだ。だが、石碑が存在する」

「石碑?」

「どれどれ、僕に見せてくれるかい?」



ゴロウの言葉にルイが前に出ると、彼女は光球の魔法で通路を照らしながらもゴロウが発見したという石碑を確認した。石碑には文字が刻まれており、石碑の前には金色に光り輝く杯のような形をした金属が設置されていた。


杯を確認したルイは大きさと形状を確認し、その後に石碑に記されている文章を読み取る。大分前に石碑は建てられた様子だが、記されている文字に関しては現代でも使用されている文字だった。



「これは……」

『おい、団長!!なんて書かれてるんだ?まさか、凄いお宝の隠し場所でも書かれているのか!?』

「そんなわけはないだろう……」

「いや……もしかしたら当たりかもしれない」

「えっ!?」



カツの冗談交じりの言葉にルイは冷や汗を流しながらも口元に笑みを浮かべ、彼女は身体を石碑の文章を読み取ると他の者に内容を伝える。



「この石碑に記されている文章はどうやら過去に召喚された勇者が書き残した文字らしい」

「勇者だと!?まさか、あの勇者か!?」

「ああ、この文章によると石碑の前に設置されている台座にある物を設置すると、地上にあらなた転移魔法陣に誕生するらしい!!」

「転移魔法陣……まさか、大迷宮に繋がる魔法陣の事ですか!?」

「その通りだ!!なんで僕は気づかなかったんだ、丁度この場所の地上に存在する魔法陣の真下にあるんだ!!」



ルイの言葉に全員が天井に視線を向け、彼女の記憶が正しければこの場所は地上に存在する大迷宮へと繋がる転移魔法陣と同じ位置に存在し、石碑によると台座にある物を設置すると地上の魔法陣に変化が起きるという。


勇者が残した石碑と台座を確認してレナ達は動揺を隠せず、ルイは杯のような形をした台座を確認し、ちょうど杯の大きさを確認してレナが倒したブロックゴーレムの存在を思い出す。



「そうか、きっとここに嵌めるのはブロックゴーレムの体内にかくしてあった水晶玉なんだ!!これを嵌めればもしかしたら新しい大迷宮へ繋がる転移魔法陣が誕生する!!」

「新たな大迷宮だと……!?」

『マジかよ!!じゃあ、すぐに持って来ようぜ!!』



新しい大迷宮が現れるかもしれないという言葉を聞いて冒険者であるルイとカツは歓喜し、一方でレナとゴロウは戸惑う。大迷宮は危険極まりない場所ではあるが、同時に地上では手に入れにくい素材を入手できる可能性が高い場所である。


実際にヒトノ国で流通している魔法金属の大半は王都の大迷宮から入手されている。今までに存在した「草原」「荒野」「煉瓦」の3つの大迷宮だけでも国が潤うほどの素材を入手できたが、更に新しい大迷宮が加わるかもしれないという事実に興奮を隠しきれない。



「よくやったレナ君!!これは大手柄だよ、ヒトノ国が建国されてから今まで新しい大迷宮へと繋がる魔法陣が出現したという話は聞いた事がない!!もしかしたら君は歴史に名前を残す程の偉業を果たしたのかもしれない!!」

「ええっ!?いや、そういわれても……」

「早速準備を行おう!!ゴロウ将軍はすぐに陛下に報告をしてくれ、僕は冒険者ギルドの方へ向かう!!カツ、君は他の者に説明しておいてくれ!!」

「わ、分かった。すぐに伝えよう」

『おう!!新しい大迷宮なんて聞かされたら黙っていられるか!!いや、楽しみだぜ!!わくわくしてきたな!!』

「…………」



子供の様にはしゃぐルイとイルミナとは裏腹にゴロウは焦った表情を浮かべ、一方でレナの方も石碑と台座を振り返る。もしかしたら自分はとんでもない物を見つけてしまったのかもしれないと考えながらも、レナも新しい大迷宮がどんな場所なのかはきになった。


だが、わざわざ勇者がこんな地下に石碑と台座を隠していた事だけが気がかりであり、レナは大きな不安を抱く。この地下通路を発見した事が本当に正しい事なのかとレナは心配するが、今更心配した所でどうしようもなかった。

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