第712話 地下の調査

「正直に言ってこいつは俺達の手じゃ余るな……あの爺さんが生きていれば何か知っていたかもしれないが、残念ながら俺達の手に負える代物じゃねえ」

「もしかしたら……これは聖遺物じゃないのか?」

「聖遺物!?あの勇者が残したという伝説の道具の事か!?」

「聖遺物……?」



ムクチの言葉にルイは驚き、レナは聞きなれない単語に不思議に思うと、ゴイルが聖遺物の説明を行う。



「聖遺物というのはな、かつて異界から召喚された勇者が作り出した道具の事だ。例えば、絵本とかに出てくる聖剣とかがそうだな。いったいどんな製造法で作りだされたのかは分からないが、この聖遺物というのはどれもこれも現在の技術では作り出せないほどの性能を誇る武器や防具、あるいは道具ばかりだ」

「レナ、お前の持っている魔銃も聖遺物である可能性もあるぞ」

「俺の魔銃が?」



レナはムクチに指摘されて魔銃に視線を向けると、確かにこの武器は基を正せばドリスの家系に伝わる家宝らしく、過去に召喚された勇者が残した聖遺物の可能性はあった。実際にレナはこれまでに魔銃と同じような武器など見た事はない。


他にも勇者が残した聖遺物の中で有名なのは彼等が扱っていた「聖剣」と呼ばれる代物であり、聖剣を所持した勇者は圧倒的な力を誇る竜種さえも打ち破ったという。だが、現代の時代では勇者が扱っていた聖剣がどうなったのかは分からず、全ての聖剣は歴史から姿を消していた。



「こいつが聖遺物かどうかは分からねえが、少なくともただの魔石じゃねえのは確かだ。もう少し調べてみるが、あんまり当てにはしないでくれ」

「そうか……なら、やはり例の地下通路というのを調べてみる必要があるな。レナ君、疲れている所を悪いが今から調査に協力してくれるか?」

「あ、はい。分かりました」



話を聞き終えたルイは聖遺物の可能性がある謎の水晶玉が発見された地下通路に強い興味を示し、レナに頼み込んで今から調査を行う事が決まった――





――地下の工房が存在するダリルの元屋敷の跡地に辿り着くと、既に金色の隼に所属する冒険者と、冒険者ギルド側から派遣された職員、更には将軍であるゴロウの姿もあった。


地下通路に魔物が現れたと聞いて全員が警戒心を抱き、先日の盗賊ギルドが送り込んだ魔物の残党の可能性も考慮して人手が派遣されたと思われる。金色の隼のクランマスターであるリルが辿り着くと、早速だが彼女の元にゴロウと他の冒険者が駆けつける。



「団長!!見張りを続けていますが、今のところは得に異変はありません!!」

「そうか……通路の中にはまだ誰も入っていないのか?」

「はい!!一応は大穴はバリケードで塞いでいますが、すぐに突入できる状態は維持しています」

「リル、これは何が起こっている?我々にも分かるように説明しろ」

「申し訳ありません、ゴロウ将軍……僕も完全には事態を飲み込めていません。なので今から調査を開始します」



ゴロウの質問にはリルも答えられず、今のところはレナがブロックゴーレムらしき魔物を倒した時に入手した「聖遺物」の話は伏せておく。内容が内容だけに迂闊に他人には話せず、地下通路の調査に専念する事にした。



「団長、ブロックゴーレムが現れたというのは本当ですか?」

「でも、どうしてブロックゴーレムがこんな場所に……」

「悪いが僕に聞かれても何も答えられないよ。それを調べるために地下に入る必要があるからね……レナ君、案内を頼めるか?」

「はい……でも、正直に言って案内する必要はないと思いますよ?」



地下通路は一本道である事、しかも「〇」を描くように繋がっているので別に道案内の必要などなくても問題ないと思われるが、リルは万が一の場合を想定してレナも同行させる。


コネコとシノに関してはここにはいないらしく、代わりに黄金級冒険者のカツと将軍のゴロウが調査に参加する予定だった。



『よし、俺も一緒に行くぜ。安心しろ坊主、ブロックゴーレムが現れても俺一人でぶっ殺してやるからな!!』

「その長物では狭い通路内では不利だろう。ここは盾騎士の俺に任せろ、どんな相手だろうとお前達を守り切ってやる」

「二人とも心強いな……よし、では調査は僕とレナ君とこの2名のみとする。他の者達は地上で待機してくれ!!」

『はっ!!』

「では、行こうか。各自、万が一の場合を想定して回復薬は携帯しておいてくれ」



ルイは全員に確認を取ると地下の工房へと降り立ち、バリケードで塞がれている大穴を前にする。バリケードを取り外してルイ達は地下通路の中に入り込むと、彼女は「光球」と呼ばれる聖属性の初級魔法を使用して辺りを照らす。



「……確かに道が続いているな。レナ君の話だと歩き続ければ元の場所に戻れるといいってたね?」

「はい、でもこっちの方角から何故か急にブロックゴーレムが現れました」



レナは通路の後方を指差し、最初に通路を歩いたときは見かけなかったはずのブロックゴーレムが現れた事に今更ながらに疑問を抱く。ブロックゴーレムが現れた方角から進めば何か手がかりが掴めるかもしれず、レナ達は地下通路を進む。

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