第709話 地下の工房の大穴

「あっ……前にあたし達が暮らしていた場所だ。ここは何も変わってないんだな」

「……酷い有様だな」

「ちょっと寂しい」



レナ達は魔法学園に通っていた頃に暮らしていたダリルの屋敷が存在した場所へ辿り着き、建物は残骸の山と化していた。火竜の襲来の際に建物は燃やされ、見るも無残に破壊されてしまった。


ダリルたちが事前に避難していたので助かったが不幸中の幸いだったが、建物は原型が留めていないほどに崩壊し、建て直す予定はない。レナ達にとっては思い出がある場所なので寂しい気分を味わうが、ここでレナはある事を思い出す。



「そういえば地下の攻防はどうなったんだろう?地上は壊されたけど、地下室はもしかしたら大丈夫かな?」

「あ、そういえばそうだよな」

「ムクチとゴイルは特に何も言ってなかった気がする。確認してみる?」



屋敷の地下には工房が存在し、かつてはムクチとゴイルが地下にて仕事を行っていた。地上の建物は崩壊してしまったが、地下の攻防は無事かもしれないと考えたレナ達は興味本位で地下に続く場所を探す。



「もしかしたら二人が取り忘れた素材や道具もあるかもしれないし、少し入ってみようか」

「へへ、こういう場所で探し物なんてちょっとわくわくするな」

「もしかしたら残骸の中に私達が無事な荷物もあるかもしれない。探してみる」



3人は瓦礫の山と化した敷地内に踏み込み、地下の攻防に続く階段を探す。どんなに思い瓦礫もレナが付与魔法を施せば簡単に退ける事が出来るため、見つけ出すのにはそれほど時間は掛からなかった。



「あった……良かった、階段の方は無事みたい」

「おお、じゃあ地下室は大丈夫なのか?」

「瓦礫に塞がっていた事を考えればゴイルとムクチもここに戻っていないと思う。中に入って物色……いや、必要な道具があれば持ち帰る」

「今、物色と言おうとしなかった?駄目だよ、工房の中の物はゴイルさんとムクチさんの物だからね?」



階段を降りた3人は地下の攻防へと入ると、久々に入った工房内は埃まみれで汚かった。それでも工房の方はどうやら被害を免れたらしく、何も変わっていない景色にレナ達は感動を覚える。


工房内にはゴイルやムクチが使用していた器材も健在であり、中には保管されたまま放置された素材も結構残っていた。工房が無事だったことをムクチとゴイルは喜ぶのは間違いなく、レナは早速戻ろうとした。



「器材は錆びついているけど、素材の方はまだ使えそうなのが残ってるな。すぐに二人に知らせよう」

「そうだな、きっと二人とも喜ぶ……どうしたシノの姉ちゃん?」

「……これを見て」



工房の中を調査している途中、シノは攻防の奥に存在する大穴を指差す。建物が崩壊した時に出来上がったのかは不明だが、3人は大穴の外を覗き込む。



「これって……下水道、いや地下通路かな?まさか、こんな場所にもあるなんて……」

「何だ何だ?秘密の抜け道か?」

「……私の記憶ではこの地域に地下通路があるなんてしらない。少し調べて見た方がいいかもしれない」



3人は大穴の向こう側に一本道の通路が存在する事を知り、シノはランタンを用意すると通路を調べてみる事にした。レナとコネコもまさか自分達が暮らしていた場所に通路がある事に驚き、何処へ繋がっているのか気になった3人は通路を突き進む。


通路を進む際中、レナは臭いを嗅いでみるが特に異臭は感じず、仮に下水道に繋がる通路ならば臭いが漂っていてもおかしくはない。ならば盗賊ギルドが作り出した秘密の地下通路の可能性も高く、用心して進む必要があった。



「……結構歩いたけど、何もないな」

「そうだね。でも、真っ直ぐに繋がってるわけじゃないみたい」

「少しずつ通路が曲がっている気がする」



今現在はレナ達の歩いている通路は一本道ではあったが、真っ直ぐに伸びているわけではないらしく、やがて最初に出てきた大穴へと辿り着く。自分達がいつの間にか元の場所に戻ってきた事にレナ達は驚く。



「あれ!?元の場所に戻ったぞ!?どうなってんだ?」

「……多分、私達が進んだ通路は円を描くように繋がっていたと思う。でも、途中で他に繋がる通路は見つからなかった」

「それって……おかしいよね、それなら誰がどうやってこの通路を作り出したんだろう?」



レナ達が歩いてきた一本道の通路は「〇」という形に繋がっている事が判明したが、地上や他の地下通路に繋がりそうな場所は確認できなかった。出入りが出来るのはレナ達が使用した大穴しか存在せず、その大穴も元々は煉瓦で塞がっていた事を考えてもおかしな話だった。


誰が何の目的でこんな通路を作り出したのかとレナ達は疑問を抱くが、ここでレナは煉瓦を見てある違和感を抱く。彼は試しに通路を構成する煉瓦を指先で叩き、すぐに違和感の正体を見抜く。



「この煉瓦……もしかして「煉瓦」の大迷宮を構成している煉瓦と素材が同じじゃないかな?」

「えっ!?それてマジかよ!?」

「大迷宮の煉瓦と同じ……?」



レナの言葉にシノとコネコは驚き、煉瓦の迷宮を構成する大迷宮の事を思い出す。名前の通りに天井も床も壁も煉瓦で覆われた迷宮であり、この煉瓦は並の魔法金属よりも頑強のため、破壊する事も困難な代物だった。


その大迷宮の煉瓦と同じ物で構成された通路が王都に地下に存在した事にレナ達は動揺を隠せず、すぐに3人は他の者に報告を行うために抜け出そうとした時、突如として通路内に振動が走る。

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