第708話 色香の術
「へへへ、全然気づかなかっただろ。実はシノの姉ちゃんに隠れみの術を教わっていたんだ」
「コネコは忍者の才能がある……暗殺者にしておくがの惜しい」
「だからってなんで二人ともベッドの中に潜り込むんだよ……」
レナは呆れた表情を浮かべて隣に眠るシノとコネコに視線を向け、身体を起き上げようとした。しかし、そんなレナに対してシノは後ろから抱き着き、コネコもレナの身体に擦り寄る。
「おっと、そうはいかないぞ。まだ新しい術を試してないからな」
「新しい術って……というか二人とも、なんで引っ付くの?」
「……レナを誘惑するため」
「うひゃっ!?」
シノはレナの身体に抱き着いた状態で耳元を甘噛みし、その行為にレナは驚いた声を上げるが、彼女は自分の胸元をレナの背中へと押し付ける。一方でコネコの方はレナの膝の上に乗り込み、正面から抱き着く形になった。
美少女と言っても過言ではない容姿の二人に抱き着かれる形になったレナは戸惑い、シノはレナを後ろから抱きしめて頬ずりを行い、コネコの方はよく分からない表情を浮かべながらもレナの胸元に顔を摺り寄せる。
「んっ……こ、こんな感じか姉ちゃん?こうすれば兄ちゃんが喜ぶんだな?」
「そう、常に身体を密着させてレナの意識を惹く……こうやって時々、身体の感じるところを刺激すればより効果は増す」
「ちょ、急に何を……はうっ!?」
今度は胸元に手を伸ばしてきたシノにレナは変な声を上げてしまい、そんな彼にシノは耳元で甘く囁く。
「忍法、色香の術……こうして異性を誘惑して自分の身体の虜に差せてどんな事でも従えさせる忍術、これでレナは私達の虜」
「な、なんて技を子供に教えてるの……!?」
「お、兄ちゃんが凄いドキドキしてる。そんなに気持ちいのか?」
とんでもない忍術をコネコに教えようとするシノにレナは戸惑うが、当のコネコはレナの心臓の鼓動が高まった事に気づき、自分もシノの真似をしようとする。
このままでは本当に二人の色香の術で大変な目に遭いそうだと判断したレナはどうにか逃げ出そうとした時、ここで扉の外がノックされる。3人は扉に視線を向けると、扉越しにイルミナの声が聞こえてきた。
『レナ、少し話があります。よろしいですか?』
「い、イルミナさん!?」
「ちっ……お邪魔虫」
「何だよもう、あと少しで兄ちゃんを気持ちよくさせる事が出来たのに……」
『え、この声はシノさんにコネコ!?……き、気持ちよく!?な、何をしているのですか貴方達は!?』
二人の声を耳にしたイルミナが頬を赤く染めて部屋の中へと乗り込み、ベッドの上で身体をすり寄せる3人を見て卒倒しそうになったが、すぐに彼女は激怒して説教を行う――
――結局はレナに叱り過ぎた事を謝罪しにきたイルミナだったが、別件で彼を説教する事になってしまい、彼女は不機嫌そうな態度で立ち去ってしまう。レナ達はこってりと怒られた後、今日の所はダリルの屋敷の方に泊る事にした。
「全く、二人のせいで俺までイルミナさんに怒られちゃったよ」
「悪かったって……それにしてもイルミナの姉ちゃん、なんかいつもの説教よりも怖かったな」
「……実はレナの事が好きなのかもしれない。だから嫉妬していつもよりも怒った」
「はいはい、そういうのはいいから二人とも反省してね」
「むう、中々の名推理なのに……」
シノの言葉を聞いてもレナは特に相手にせず、彼の釣れない態度にシノは頬を膨らませるが、今回ばかりは少し悪戯の度が過ぎたと反省しているのかそれ以上はなにも言わない。
3人は歩いている途中、中央街の街並みを観察する。復興作業が開始されてから1年以上が経過しているが、未だに復興は完全には終わっていない。ケルベロス、火竜、ヤマタノオロチといった「巨獣」によって荒らされた中央街の復興にはまだまだ時間が掛かりそうだった。
「あ、ここを見ろよ兄ちゃん。前にここであの白い狼を拾ったんだろ?」
「ああ、そういえばそうだったね。白狼種の子供が閉じ込められた木箱があったんだっけ」
「あの子は今は私がクロのように立派な忍狼に育て上げているから安心して」
とある路地裏を通りかかった時、コネコは過去にレナが木箱に閉じ込められていた白狼種と呼ばれる魔獣の子供を思い出す。一時期はダリルの屋敷で飼育していたが、現在はシノに預けている。
白狼種の子供はシノの指導の元で現在はクロと同様に王都で暮らしており、忍犬ならぬ忍狼に育て上げている真っ最中だという。シノは金色の隼に所属する冒険者ではあるが、基本的には彼女の仕事はダリルの護衛のため、彼の傍に控えている事が多い。なのでダリルが屋敷にいる間はシノも屋敷内にいる事が多く、仕事の合間に白狼種の子供の訓練を行っているらしい。
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