第706話 王都の変化

――サイクロプスの親子を無事に安全な地へと送り届けた後、レナは王都へと引き返す。馬で何日も費やして移動する距離だろうとスケボを使用すればすぐに辿りつけるため、基本的にレナは依頼を引き受ける際は日帰りで戻ってくる事が多い。


王都へと到着すると、レナは上空から王都の様子を伺い、城門の前に列が出来ている事に気付く。裏街区が解放され、現在は「遊郭区」と呼ばれるようになってから王都への観光客が一気に増加した。


観光客が大量に訪れるようになった理由は「遊郭区」を経営する「サキュバス」と「ヴァンパイア」が目的である事は間違いない。遊郭区はサキュバスが経営する娼館が多数存在し、大半の男性観光客はこちらを利用するのが目的で訪れている。


一方で女性の観光客も意外と多く、理由としては彼女達の目的は「ヴァンパイア」が経営する「蝙蝠喫茶」と呼ばれる飲食店に訪れるのが目的である。ヴァンパイアはサキュバスと同様に容姿に優れた者が多く、そんな彼女達が男装すれば美少年や美青年に化ける事など容易い事だった。若い女性客から特に人気があるらしく、貴族の女性も内密に通うほどの人気を誇っているらしい。



「うわぁっ……今日もたくさん人が来ているな」



レナは上空を移動して延々と続く馬車の列を見て驚いた表情を浮かべ、城壁を上空から通り抜ける際に見張りの兵士に頭を下げる。兵士達はレナの姿を見ると慌てて頭を下げ、特に何も言わずに黙って通す。


本来ならば王都へと入るためには正式な手続きが必要なのだが、黄金級冒険者であるレナの場合は手続き無しで自由に王都へ出入りできる権利が与えられている。城壁を潜り抜けたレナはクランハウスに向かう戻って報告を行おうとしたとき、前方から聞き覚えのある声を耳にする。



「お~い、レナく~ん!!」

「その声は……ミナ?」

「シャアアッ!!」



前方に視線を向けると、そこにはワルキューレ騎士団の制服を纏ったミナの姿が存在し、彼女はヒリューに乗ってレナの横に移動すると、笑顔を浮かべる。



「レナ君も仕事帰りだったんだね、僕も仕事が終わって戻ってきたところだよ!!」

「へえ、そうだったんだ。ヒリューも久しぶりだね」

「ベロベロッ……」

「うわ、ちょっ……飛んでるときに顔を舐めないでよ。あははっ、くすぐったいって……」



ヒリューはレナに会えたことに嬉しそうに顔を摺り寄せ、基本的には飛竜は人間に懐かない種族と言われているが、ヒリューの場合は主人であるミナ以外にも割と他の人間に懐いていた(但し、デブリと相対した時は何故か涎を垂らす癖がある)。


現在のミナは冒険者稼業を辞して晴れて夢だった「ワルキューレ騎士団」に入団し、現在は騎士団の副団長にまで昇格を果たしていた。彼女に懐いている飛竜も任務の時はよく借り出されるらしく、今日も仕事を終えて戻ってきたという。




――ミナが金色の隼を辞めて騎士団に移籍する際はかなり揉めたが、亡き母親のように立派な女騎士になる事を志してきたミナはきっぱりと冒険者稼業を辞め、現在は騎士として務めを果たしていた。最近は国王の計らいでアルトの護衛を任される事が多いという。




若くて見目麗しく、それでいながら性格もいい子なので彼女を狙う男性兵士も多いらしいが、なにしろカイン大将軍の一人娘という事もあって大半の人間はミナにアプローチを掛ける事も出来ない。国王としてはアルトと年齢も近く、顔見知りなので二人の距離を縮めようと画策している節もあるが、当のミナ本人はその意図を察しておらず、アルトも特に彼女の事を意識している様子はない。


むしろミナとしてはレナと離れて行動する事が多くなってから今まで以上にレナを意識するようになり、時間があればレナの所に頻繁に訪れていた。今回も実はレナが戻ってくる事を見越して勤務時間を過ぎた後にずっとヒリューに乗ってレナが戻ってくるのを待ち構えていたぐらいである。



「レナ君、実は仕事の途中で綺麗な森の中にある綺麗な湖を発見したんだ。だからさ、今度一緒に行かない?」

「へえ、湖か……うん、別にいいよ」

「本当に!?やった、じゃあ予定が空いている日があったら教えてね!!」



レナの言葉を聞いて皆は歓喜の表情を浮かべ、他の者と比べて彼女はレナと過ごす機会は滅多にないため、焦りを抱いていた。黄金級冒険者に昇格を果たしてからレナに近寄ろうとする女性も増えてきており、実際にレナを目当てに金色の隼に入団を希望する女性冒険者も存在するぐらいだった。


16才の年齢を迎えたレナは相も変わらず女性のように綺麗に整った顔立ちをしており、最近では身長も伸びていた。魔法学園の頃に居た時はレナの傍にはミナやコネコやドリスやシノやナオといった美少女が傍に居たのであまり他の女性が彼に声をかける事もなかったが、実際の所は実力もあって優しい彼を慕う女子生徒も多かった。


そして今現在のレナは基本的に一人で仕事を引き受ける事も多く、昔と比べて他の仲間と行動する機会が減っていた。その事に関してはレナも寂しく思うが、魔法学園の時の様に常に皆と行動できないのは仕方ない話である。

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