第704話 一年の成長

「ギュロォオオッ!!」

「仕方ないな……地属性エンチャント



拳を繰り出してきたサイクロプスに対してレナは籠手に付与魔法を施すと、掌を構えて簡単にサイクロプスの一撃を受け止めた。当たれば岩石であろうと容易く砕くはずの強烈な一撃をレナは何事もなかったように受け止め、逆に攻撃を仕掛けたサイクロプスが目を見開く。


籠手に触れる瞬間、サイクロプスは風のように見えない力に押し返される感覚を味わい、やがて籠手に押し当てていた拳が弾かれてしまう。重力の存在を知らないサイクロプスが何が起きたのか分からず、混乱に陥る。



「キュロロッ!?」

「鳴き声は可愛らしいな……でも、悪いけど終わらせるよ」



レナは拳を構えると、ナオが得意とする「崩拳」を意識して拳を構え、勢いよく踏み出すとサイクロプスの懐に潜り込む。そして魔力を帯びた闘拳を振りかざし、サイクロプスに叩きつけた。



「だあっ!!」

「ギュロォオオオッ!?」



まるで大巨人に殴りつけられたかなのような強烈な一撃にサイクロプスは悲鳴を上げ、身体が後方へと吹き飛び、硬い岩盤に衝突した。意識を失ったのかサイクロプスは地面に前のめりに倒れ込むと、そのまま白目を剥いて動かなくなった。


サイクロプスの元へと近づき、気絶しているだけである事を確認したレナは安堵すると、サイクロプスを拘束するために持ち込んだ鎖を取り出す。



地属性エンチャント



鎖を取り出したレナはサイクロプスに向けて放り込むと、付与魔法によって地属性の魔力を帯びた鎖を巧みに操り、まるで蛇のように身体に巻き付かせて拘束を行う。以前よりも重力を巧みに操作できるようになったレナはサイクロプスを拘束すると、そのまま持ち上げて背中に抱え込む。



「さあ、依頼完了。早く戻らないと……ん?」



レナはサイクロプスが存在した通路の奥の方から気配を感じ取り、まだ何か隠れている事に気付く。気になったレナは通路の奥へと移動すると、そこには予想外の光景が広がっていた。



「これは……!?」

「キュルルッ……」

「キュルンッ……」



視界に移った光景を確認してレナは驚愕の表情を浮かべ、通路の奥に存在したのは小さなサイクロプスの双子だった。どうやらレナが倒したサイクロプスの子供だったらしく、怯えた表情で2匹はお互いの身体を摺り寄せてレナを見つめる。


サイクロプスの子供は小さいときは愛嬌もあって大人程の狂暴性は高くなく、自分の親を倒したレナの姿を見て怯えた表情を浮かべていた。そんな双子の姿を見てレナは頭を掻き、どうやらサイクロプスがこの坑道に住み着いたのは「住処」を形成するためらしい。



(そうか、この子供たちを守るためにこっちのサイクロプスは人間を追い払ったのか。参ったな、このまま子供を残したら多分、死んじゃうよな)



親と比べて子供のサイクロプスは力は弱く、放置すればいずれ他の魔物や人間に見つかって始末される可能性は高い。また、子供のサイクロプスは滅多に見つからないため、奴隷商人などに見つかると捕まって売り捌かれる恐れもある。


ヒトノ国では存在しないが、他国では子供のサイクロプスを捕獲して飼育する国家も存在する。サイクロプスは狂暴ではあるが、知能は高いので人を襲わないように教育すれば大きな戦力に成りえる。だからこそサイクロプスの子供が存在する事を知られれば色々と問題が多い。



(どうしよう、この子達……)



怯えた表情で自分達の親を担ぐレナにサイクロプスの双子は大きくてつぶらな瞳を潤ませ、そんな姿を見せつけられたらレナも困り果ててしまい、仕方なく親を下ろしてレナは双子に手を差し出す。



「おいで、一緒に行こう」

『キュルルッ?』



結局は討伐対象の魔物の子供とは言え、親を失った子を見捨てる事などレナには出来ず、優しい表情を浮かべてサイクロプスの双子を招き寄せる――






――その後、レナは親のサイクロプスを連れて街の方へと運び込み、街長の前へと差し出す。街長はサイクロプスの被害を受けた鉱夫達と共に出迎えたが、レナの姿と鎖で拘束されたサイクロプスを向けて驚く。



「ぼ、冒険者様!!これはいったい……」

「申し訳ありません、捕獲に失敗しました……生きたまま連れて帰る事は出来ませんでした」

「そ、そんな……」



街に辿り着いたレナは頭に血が滲んだ包帯を巻き、左腕を抑えた状態で戻ってきた。彼が連れて帰ってきたサイクロプスは全身が血塗れで瞼を閉じた状態で動かず、その様子を見て街の人間達はレナとサイクロプスの間でどのような戦闘が繰り広げられたのかと顔色を青くする。


戻ってきたレナの姿を見て街長はすぐに治療を行おうとしたが、それを拒否してレナは街長に血塗れのサイクロプスを差し出す。最初の頃はサイクロプスが戻ってきたら痛めつけようと考えていた鉱夫達もどのように痛めつければこれだけ血塗れになるのかと思い、顔色を青くした。

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