後日談 〈ダリルとアリスの新事業〉

火竜の襲撃から数か月の時が流れると、ダリルの商会は規模が拡大化し、今ではカーネ商会に代わる大商会へと成長していた。カーネ商会の会長であるカーネは殺され、その後継ぎであるリョフイが七影である事が発覚した時点でカーネ商会は解散へと追い込まれていた。


ダリルは元々はカーネ商会の傘下には入らず、真っ向から対立していた。一時期はマドウの取り成しでミスリルを提供していたが、現在ではカーネ商会が解散した事で王都の商会の中でも頭目と化していた。


黄金級冒険者に昇格したレナが専属契約を結び、更に金級冒険者に昇格したコネコ達もダリルを慕っているという理由もあり、今までカーネ商会の傘下だった商人達もこぞってダリルの機嫌を伺うようになる。


ヒトノ国からの信頼も厚く、優れた冒険者を抱えているという理由でダリルの商会は大商会へと発展し、晴れて彼はこの国一番の大商会を手に入れたといっても過言ではない状態だった。そんな彼の元にある人物が訪れ、予想外の提案を行う。




「――えっ!?新事業、ですか!?」

「ええ、その通りです。私達は近い将来、新しい事業を取り組むべきだと考えています」



ドリスの母親であるアリスはダリルの元へ訪れ、新しい事業の計画を話す。唐突に新事業の話を持ち込まれたダリルは戸惑うが、アリスとしては絶対の自信がある内容だった。



「獣人国や巨人国に存在する「闘技場」の事はご存じですか?」

「え、ええっ……傭兵や冒険者が腕を競って戦うといわれている、あれでしょう?」

「ええ、その通りです。かつてヒトノ国にも闘技場は存在しましたが、現在は廃止されています」



他国には「闘技場」と呼ばれる建物が存在し、そこでは多くの武芸者が集まって腕を競い合っている事をアリスは伝える。その事はダリルも知っていたが、闘技場はヒトノ国では既に廃止されていた。


理由としては闘技場では武芸者が多く集まる一方、毎回命懸けで戦うので被害を受ける人間も非常に多かった。そのせいで数世代前のヒトノ国の国王は闘技場を廃止したと伝わっているが、アリスは闘技場の復活を計画している。



「確かにかつてヒトノ国に存在した闘技場では大勢の犠牲者が生まれたといわれています。しかし、犠牲者が生まれたのは闘技場の規則がしっかりと定めていなかった事が原因だと私は考えています」

「なるほど、規則ですか……」

「私が企画した闘技場では規則をしっかりと定め、相手を殺害する事を禁じます。また、武器の制限や戦闘職や魔法職の人間を別枠で戦わせ、更には試合の賭博に関しても上限額を設定しようと思います。私の考えている闘技場はあくまでも殺し合いの場ではなく、競い合いの場を提供する施設です」

「むむむっ……しかし、闘技場の廃止を決めたのは国ですから、俺の一存ではどうしようも……」

「いいえ、ダリル様は誰よりもヒトノ国からの信頼が厚い商人、どうか国王様にお話しだけでも通してくれませんか?」

「お、俺が国王様にですか!?」



アリスの言葉にダリルは慌てふためき、正直に言えばダリルは自分が国からの信頼は厚いとは思ってもいなかった。だが、レナのお陰でダリルはイチノの件に関してヒトノ国に「貸し」が存在し、彼は全財産を費やしてイチノを救おうとしたのも事実である。


ダリルの元にはレナが存在し、更には金色の隼とも繋がりが存在する。しかも現在の王都の商会の大半はダリル商会の傘下に入る事を望み、今の彼ならば国王を説得して闘技場を復活させる事が出来るとアリスは確信していた。



「ダリルさん、どうか共に頑張りましょう。闘技場が出来上がれば必ずや私達にとって大きな利益を生みます。どうか、ご検討宜しくお願い致します」

「う、ううっ……はあっ、分かりましたよ……」



美人であるアリスに迫られてダリルは慌てふためき、彼は自分が乗せられているような気分に陥るが、アリスの言葉に嘘はない。やがて覚悟を決めた様にダリルは頷き、彼は闘技場の復活をヒトノ国側に申し込む事にした――






――この1年後、ヒトノ国では「王国闘技場」と呼ばれる建物が中央街にて建設され、この闘技場に出場するためにヒトノ国の領地内の多くの武芸者が集まるようになった。

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