後日談 〈卒業試験〉

――月日は流れ、大魔導士マドウが設立した魔法学園では「卒業試験」が行われようとしていた。魔法学園では成人年齢を迎えた生徒は試験を受けられるようになり、この試験を突破した者は学園の卒業資格を得られる。


魔法学園の制度では卒業試験は月に一度行われ、仮に試験に合格できなければ生徒は魔法学園に滞在する事になる。但し、18才を迎えるまでに卒業試験を合格できない生徒は退学処分となり、生徒達は18才になるまでに卒業試験を合格しなければならない。


卒業試験の相手は教員が勤め、この試験を突破すれば魔法学園への卒業資格を手にする事が出来る。厳しい卒業試験を乗り越えた程の人間ならばあらゆる組織や機関から勧誘される事は間違いなく、実際に卒業試験の際にはヒトノ国の将軍やギルドから派遣された冒険者、更には王都の商人も観戦に赴く。


試験で実力を見せつければ観戦に訪れた人間達からの評価も上がり、好待遇で迎え入れられる可能性も高まる。魔法学園に在籍する時よりも待遇良く迎え入れられる可能性も十分に高く、腕に自信のある学園の生徒は卒業試験を挑むが、大半の者達は実力確かな教員によって打ち破られてしまう。


最初の頃は卒業試験の観戦を希望する者も多かったが、ここ最近は試験の突破者も現れず、いつの間にか観戦を希望する人間も減ってきていた。しかし、今度の試験の参加者の名前を聞いた者達はこぞって卒業試験の観戦を希望し、試験会場には王都中の有力者が集まっていた――





――魔法学園の卒業試験が行われる試験会場では試験が開始されるまで30分近くの猶予があるにも関わらず、既に観客席の殆どが埋まっていた。試験の観戦者は貴族、商人、他にも冒険者や傭兵など様々な職種の人間が集まり、今回の卒業試験の参加者が登場するのを心待ちにしていた。


観客席にはダリル、ムクチ、ゴイルの姿も存在し、彼等は最前列の席に座っていた。また、少し離れた場所にはドリスの母親のアリスや、ミナの叔父の妻であるアリアの姿も存在した。そして金色の隼のクランマスターであるルイも姿を現す。



「どうも、やはり皆さんも来ていましたか」

「貴女は……確か、金色の隼のクランマスターのルイ様ですね」

「おう、お前さんも来たのか!!飛行船を飛ばした時以来だな!!」

「ど、どうも……」

「……は、初めまして」



ルイも観客席に訪れると、アリスとゴイルがいち早く存在に気付き、ルイも指定席に座り込む。彼女の他にも新しい義足を取り付けたロウガも同行し、全員に頭を上げて座る。


今回の卒業試験を聞きつけてルイはロウガを誘い、試験会場に同行させていた。ロウガも自分の弟子が卒業試験に参加すると聞いて落ち着いてはいられず、緊張した面持ちで試合場を確認した。



「はあ……まさか、本当にこんな場所で戦うのか?」

「ロウガ、心配するな。君は自分の弟子を信じればいいんだ」

「簡単に言うんじゃねえよ……何だよ、このふざけた面子は!?」



試合場には既に今回の卒業試験の相手を務める人員が集結し、その面子を見てロウガは嘆く。何しろ試合場にはこの国を代表する武芸者が揃っており、その中には見知った顔も存在した。


今回の試験の生徒の対戦相手として用意された選手は現役の将軍にして魔法学園の教員を務める「ゴロウ」そして大将軍である「カイン」さらに彼の片腕の「ジオ」他にも黄金級冒険者である「カツ」「ダンゾウ」「イルミナ」の姿もあった。正にこの国の最高戦力といっても過言ではない人員が揃い、極めつけには女帝の組織の頂点に立つ「パトラ」までもが参加している。


国の将軍に黄金級冒険者、更には最近までは裏街区の支配者でもあった女帝の長が待ち構えている光景を見て観客たちは緊張感を隠せず、これだけの戦力を相手にする卒業試験の希望者の事を考えると不憫に思えてならない。



「……俺は武道に精通しているわけではないが、こいつらは只者ではない事は分かる。正直なところ、あいつらに勝ち目はあると思うか?」

「勝ち目があるかどうかは関係ないんだよ!!俺達が出来るのはここであいつらを全力で応援する事だけだ!!そうだろう、兄弟!?」

「ふっ……そうだったな」



ムクチの言葉にゴイルは彼の肩を叩いて訂正すると、ムクチは口元に笑みを浮かべて彼の言葉に頷く。アリスもダリルも二人と気持ちは同じであり、どうか自分の「子供」が勝利する事を願う。



「頑張れよ、レナ……お義父ちゃんの前で負けるなよ」

「ドリス……それにナオ、信じていますよ」



レナは正式にダリルの養子となり、今は親子関係を築ていた。アリスの方も実の娘のドリスと、彼女と共に育て上げてきたナオの事を想い、全員が無事に試験を突破する事を祈る。

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