後日談 〈その頃のイチノでは……〉

ゴブリンキングという脅威から解放されたイチノでは現在は離れていた住民が帰還し、復興作業が行われていた。ゴブリンキングが討ち取られた事で生態系も徐々にではあるが戻り始め、最近では草原でゴブリンを見かける事も少なくなった。


冒険者ギルドの方では大勢の冒険者が集まり、バルとキニクの姿も存在した。彼等の前で受付嬢のイリナが緊張した面持ちで隣に立つギルドマスターのキデルに視線を向け、彼は王都から届いた報告書を手にして全員に告げる。



「……王都から連絡が届いた。内容は正式にあのレナが黄金級冒険者へと認められた!!」

『うおおおおおっ!!』

「遂にやりやがったのかい!!流石はあたしの弟子だね!!」

「おめでとう、レナ君……!!」

「ううっ……あのレナ君が遂に黄金級冒険者に昇格するなんて……!!」



キデルの言葉に冒険者達は歓声を上げ、レナが黄金級冒険者に昇格した事を祝って全員が喜ぶ。こんな辺境の街に所属する冒険者が黄金級まで上り詰めたという事実にキデルも感極まり、彼は亡き親友のカイを思い出す。



(カイ、お前の子供は素晴らしい人間に育ったぞ……)



亡くなった親友の顔を頭に思い浮かべながらもキデルは目元を拭い、いつの間にか自分が涙を流していた事を知る。キデルにとってもレナは誇りであり、冒険者達も心の底からレナの昇格を祝う。


既にレナが黄金級冒険者に昇格したという噂は国内に広がり始め、黄金級冒険者に昇格を果たした冒険者の出身ギルドとしてイチノの名前も広がるだろう。冒険者ギルドの本部からも多額の支援金が支給され、更にはキデルには王都への招待状も送り届けられていた。


レナの年齢で黄金級冒険者に昇格した人間など前例はないという理由もあり、キデルが彼にどのような教育指導をしていたのか気になった本部が彼を王都に招こうとしていた。正確にはレナよりも若い年齢の冒険者は存在するが、14才という年齢で黄金級冒険者に昇格した人間はレナが初めてである。


キデルとしては別にレナに対して特別な指導を行ったつもりはなく、その辺に関してはキニクやバルに一任していた旨を伝えて二人も共に王都へ連れていく予定だった。当然、レナの事を気にかけていた受付嬢のイリナも適当な理由を用意して同行させるつもりだった。



「よ~し、こんなにめでたい事はないね!!おい、お前ら!!今日はギルドマスターの奢りで街中の酒を買ってきな!!こんな日に仕事なんてやってられるかい、今日は飲み明かすよ!!」

「何っ!?こ、こら……勝手に決めるな!?」

『うおっしゃあああっ!!』



バルの発言に冒険者達は大歓声を上げ、レナが黄金級冒険者に昇格したよりも嬉しそうな声を出す。そんな彼等にキデルは慌てふためくが、今更否定すると場の雰囲気を崩しそうなため、呆れた表情を浮かべながら苦笑いを浮かべた。



「全く、仕方のない奴等だ……今日だけだぞ?」

「おおっ!!ギルドマスターからの許可を貰ったぞ!!」

「街中の酒場から酒を買いとるぞ!!」

「うおおおっ!!ギルドマスターが気が変わる前に買い占めろぉっ!!」



冒険者達は喜び勇んで買い出しに向かい、その様子をイリナは呆れた表情を浮かべて見送る中、ここでキニクが妙に静かな事に気付く。



「キニクさん?どうかされました?」

「ん?いや……レナ君は凄い子だと思ってね」

「ええ、そうですよね!!レナ君は凄い子です!!」



キニクの言葉にイリナは満面の笑みを浮かべて頷くが、一方のキニクは何か気にかかるのか彼は考え込む素振りを行う。冒険者の中ではレナとの付き合いが一番長いのは彼だが、正直に言えばキニクはレナが黄金級冒険者に正式に昇格すると聞いて嬉しく思う一方、ある疑問を抱く。


それはレナの出生に関してであり、彼は森の中で捨てられていた所をカイに拾われたという。話気に聞く限りではレナは森の中で加護に入った状態で放置され、他に両親らしき存在は見当たらなかった。しかし、ここで疑問を抱いたのはどうしてレナの本当の両親は赤子のレナを危険な森の中に捨てたかである。


少しでも愛情があるのならばレナの事を人里から離れた場所に捨てず、孤児院でも教会の前にでも捨てるはずである。しかし、レナの場合は危険な魔物が巣食う場所にわざわざ放置されていた。これでは捨てる人間の方も魔物に襲われる危険性もあった。


レナが希少職の「付与魔術師」である事も気にかかり、両親も彼と同じように魔術師であった可能性は非常に高い。何よりも気になるのがレナが捨てられた場所がヒトノ国と獣人国の領地の境目付近である事だった。



(レナ君、君はいったい……いや、何者だろうと関係ない。レナ君はレナ君だ)



キニクは自分の下らぬ考えを捨て、レナが何者であろうと彼がこの街を、この国を救った英雄である事に変わりはない。キニクは自分の要らぬ心配を捨て去り、今日は皆と共にレナの昇格を祝って飲み明かす事を決めた――

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