後日談 〈裏街区の変化〉

「私はもう戻る、それと魔法学園の方も近いうちに再開されるから皆も準備しておいた方がいい」

「えっ……もう再開すんのか?でも、爺ちゃんは……」

「マドウ大魔導士がいなくなったとしても、魔法学園が閉鎖される事はない。あの学園は人材を育成する施設……仮に創設者がいなくなったとしても存続される。きっと、マドウ大魔導士もそれを望んでいるはず」

「そうか……そうだよな」

「魔法学園か……また皆と通えるんだね」



魔法学園が再開するという報告にミナ達は素直に喜び、再び皆と共に学び舎へ赴ける事は嬉しかった。シノは最後にそれを伝えると姿を消し、残されたミナ達は与えられた仕事に専念した――





――同時刻、裏街区の方では大勢の人間が賑わっていた。中央街に暮らしていた人間の半数が裏街区へ移り、新しい家に住み着く。火竜の襲撃で家も何もかも失っていた人間達にとっては裏街区であろうと無料で家を貰えるのならば文句はない。


元々は無法地帯だっただけに警戒心を抱く人間も多かったが、それを見越して裏街区の方では竜騎士隊が見回りを行い、治安の維持のために働いている。盗賊ギルドの残党がまだ残っている可能性を考慮して数多くの警備兵も配置されていた。


また、工場区の方から多くのドワーフが派遣され、建物の修繕も開始される。それと同時に女帝の依頼で新たに裏街区の出入口を作り出し、その場所を中心に「遊郭」を作り出す予定である。



「パトラ様、奴隷街の住民の移動を終えました。十分な量の食料と回復薬を分け与えましたので、時間は掛かりますが住民達もいずれは正気を取り戻すかと……」

「ご苦労、金色の隼からの連絡は?」

「近いうちにイルミナが視察に訪れるそうです」



裏街区に存在する女帝が拠点とする建物にて彼女は配下のサキュバスからの報告を受け、納得したように頷く。外の様子を眺めながらもパトラはこれからの事を考え、まさかこんな形で裏街区に大勢の人間が押し寄せるなど思いもしなかった。



「パトラ様、これでよろしかったのですか?奴隷街の住民を解放するなど……」

「問題はない、彼等の解放が金色の隼の出した条件だ。それにこれからは国と付き合う以上は人間を奴隷として扱うのは色々と問題があるだろう」

「それはそうですが……」



奴隷街の住民の解放を条件に金色の隼は女帝をヒトノ国と取り成す事を約束し、言われた通りにパトラは約束を守った。その事に配下の者達は少なからず不安を抱き、彼女達にとっては自分達のを提供する存在を失ったに等しい。


裏街区の奴隷街に暮らす人間は今まで定期的に女帝に自分の血液等の類を受け渡す事を条件に食料を配給して貰い、どうにか生きながらえてきた。しかし、女帝を構成するサキュバスやヴァンパイア全員分の食事を提供する事は年々難しくなり、中には廃人のように疲弊した者も出てきた。


女帝としては盗賊ギルドの存在が邪魔だったので今までは裏街区の一部しか支配できなかった。当初の予定では盗賊ギルドが国を支配した後は裏街区の全域は女帝が支配し、裏街区に暮らす人間全員を彼女達の奴隷として扱う予定だった。


だが、盗賊ギルドが逆に壊滅した以上は裏街区を支配した所で意味はなく、裏街区に暮らしていた人間の殆どが盗賊ギルドの関係者なのでこのままでは彼女達は食料に不足してしまう。そう考えたパトラは少し前に貸しを作っていた金色の隼を利用して他の地区から人間を招き寄せる事に成功する。



「見るがいい、この窓の外の光景を……素晴らしい風景だ。こんなにも我等に力を与えてくれる人間が溢れかえっている。これだけの数の人間が訪れるようになれば我々はもう奴隷など必要はない」

「ええ、その通りですね……本当に凄い数です」



建物の窓からパトラと配下のサキュバスは外の光景を眺めると、続々と中央街から裏街区に移住する人間達が街道に溢れかえっていた。その様子を見てパトラは微笑み、新たな事業を提案する。



「これより、我々は彼等と「共生」の道を選ぶ。裏街区内に存在する全ての娼館を一旦取り潰し、東門の出入口に「遊郭」を作り出す」

「仰せのままに」




――後に裏街区は一般人が暮らす地区と、女帝が管理する遊郭の地区に分けられる事になり、王都の裏街区は「住民区」と「遊郭区」の二つに区域に分けられるようになった。

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