後日談 〈女帝の企み〉

「はあっ!?じゃあ、今は裏街区の中に誰でも入る事が出来るのか!?」

「うん……正直、反対する人も多かったんだけど、盗賊ギルドから奪われた物の中にはヒトノ国の国宝もあったし、それに盗賊ギルドに捕まっていた人質もいたみたい。盗賊ギルドに従っていた貴族や大臣の子供とか、奥さんとか……そういう人たちを助けるためには仕方なく聞き入れるしかなかったんだって」

「でも、あんな危険な場所に誰も立ち寄らないだろ?」



コネコは先日にレナとミナを連れて裏街区に入った時の出来事を思い返し、あの時は何度も危険な目に遭った。特に奴隷街の方では廃人のように徘徊していた正気を失った人間達も多く見かけており、そんな場所に一般人が出入りするなど有り得ないと思った。


しかし、実際の所は裏街区を解放した結果、コネコの予想に反して現在では多くの人間が通っているという。理由としては中央街の人間は家を失った者も多く、それが原因で裏街区に移り住む人間も多いという。



「他の地区と比べて裏街区は火竜の被害を一切受けていなかったからね。それに空き家の建物もたくさんあるし、行き場所を失った人は裏街区の方に集まってきているらしいよ」

「でもさ、あそこの治安なんて最悪じゃん!?あんな場所に一般人が住めるわけないだろ?」

「そこはちゃんと考えてあるみたいだよ?今までは裏街区の中には警備兵の人たちも立ち入る事は出来なかったけど、これからは他の地区と同様に警備兵が巡回するようになったし、それに盗賊ギルドが壊滅したせいで奴隷街に暮らす人たちも完全に女帝の支配下に入ったから、そんな簡単に悪さは出来ないよ」

「そ、そうなのか……けど、どうしてわざわざ裏街区を解放なんてしたんだ?」



今のところは裏街区の出入りを自由になった事に対して大きな問題は起きず、それどころ家を失った人間を受けて入れてくれるのでむしろ国としては状況は好転していた。


だが、女帝が裏街区を解放する理由の意図が分からずにデブリは疑問を抱くと、ここでミナではない人物が口を挟む。



「……それはきっと女帝の目的が国中の人間を呼び寄せるため」

「うわっ!?」

「し、シノちゃん!?」

「お前、戻ってきてたのか!?」



いつの間にか自分達の背後を歩いていたシノにデブリ達は驚き、彼女は仕事帰りなのか黒装束の姿をしていた。昼間の、しかも街道で目立つ格好をしているはずなのにデブリ達は話しかけられるまで全く気づかず、気配には敏感なコネコさえも気づかなかった時点で彼女の隠密能力の凄さを思い知らされる。



「姉ちゃん、急に出てくるのは止めろって言っただろ!?」

「別に驚かせるつもりはなかった……仕事帰りだったから気配を消して行動したままだった」

「仕事?何の仕事なの?」

「ルイに依頼されて裏街区の様子を調べ回っていた」



シノ曰く、最近彼女が姿を現さなかったのは裏街区に忍び込み、内部調査を行っていたからだという。依頼人は金色の隼のクランマスターであるルイからの直々の指名であり、彼女はルイに報告に向かう途中でデブリ達と遭遇して声をかけたらしい。


ルイがどうしてシノに依頼をしたのかというと、金色の隼に所属する暗殺者の中で最もシノが情報収集に優れていると判断し、彼女だけに依頼を申し込む。時間は掛かったが、シノは無事に任務を終えて戻ってきたという。



「裏街区の状況は正直に言って特に問題はない。警備兵も出入りするようになったし、女帝に所属する淫魔サキュバスも目を見張らせているから悪党たちも何も出来ない」

「そ、そうなのか……でも、どうして女帝は急に裏街区を解放させたんだ?」

「理由は簡単、他の地区の人間を誘い込むため。彼女達は今は遊郭のような施設を作ろうとしている」

「ゆうかく?」



シノの告げた「遊郭」はヒトノ国では聞きなれない単語のため、デブリ達は首を傾げるが、そんな3人に対してシノは女帝の目的を説明してくれた。



「女帝を構成する人員は全員が魔人族……基本的には吸血鬼ヴァンパイア淫魔サキュバスが大半を占めている」

「さきゅ……ばす?」

「人族(この場合は人間だけではなく、獣人族や巨人族を含めた人型の種族)の持つ精気を糧にして生きている悪魔の事。悪魔と言っても性質的には吸血鬼の親戚みたいな存在で、吸血鬼は血を好むのに対して淫魔の場合は人間の精気を……」

「ちょちょっ!?シノちゃん、子供に対して何を言ってるの!?」

「コネコにはまだ早いだろう!?」



さらりととんでもない事を言い放とうとしたシノに慌ててミナが口を塞ぎ、デブリはコネコの耳元を塞ごうとする。しかし、シノの方は説明を途中で遮られて少し不機嫌そうな表情を浮かべながらも説明を続けた。



「……ともかく、女帝の目的は他の地区からも大勢の人間を呼び寄せる事、そして他の人間から血を得たり、精気を分けてもらうのが目的。彼女達は人間のように金品には興味を持たないし、王都中の人間が裏街区に訪れるようになれば彼女達にとっても利がある」

「な、なるほど……そういう事だったのか」

「何かよくわかんないけど、とりあえずは問題ないんだな?」



シノの説明を聞いてデブリとミナは納得し、コネコもよく分からない表情を浮かべながらも今のところは裏街区で何も問題は起きていない事は理解した。シノは説明を終えると、クランハウスに戻るために立ち去る。

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