第701話 平和

「其方はデブリといったな?優秀な戦士とゴロウから聞いておる。どうじゃ?この際に我が国の騎士として働く気はないか?無論、給料は弾むぞ」

「ぼ、僕が騎士に!?」

「うむ、我が国は優秀な人材を欲しておるからな。だが、ここで即決を迫るつもりはない、よく考えた上で後で返事をくれ」

「は、はいっ!!」



デブリは国王の言葉に感動し、まさか自分が騎士として勧誘されるなど夢にも思わなかっただろう。続いて国王はナオとシノとドリスに視線を向け、3人に対してもミナと同じようにワルキューレ騎士団に加入しないのかを問う。



「其方達もミナと同様にワルキューレ騎士団に入る気はないか?話に聞く限りでは3人とも優秀な拳士と暗殺者と魔術師だと聞いておる。最も魔法学園の卒業後の話になるが、考えてくれんか?」

「僕は……師が金色の隼に所属いるのでお断りします。師から全ての技術を覚えるまで冒険者稼業を辞めるつもりはありません」

「私も遠慮する。今の立場に十分に満足している」

「私も稼業を継がなければならないので……」

「そうか、残念じゃな……」



3人の言葉に国王は残念そうな表情を浮かべるが、一方でルイは安心した表情を浮かべる。ここでもしもミナとデブリに続いて他の者達も勧誘されたら金色の隼としては大きな痛手であった。


ミナは憧れのワルキューレ騎士団に魔法学園の卒業後は自分が入れるという言葉に嬉しく思い、デブリも冒険者稼業を続けるか、それとも王国の騎士になるべきか真剣に思い悩む。一方でレナの方は国王から与えられた「黄金級冒険者」のバッジと魔拳士の称号の証でもある勲章に視線を向け、嬉しそうな表情を浮かべる。



(じーじ、ばーば……俺、遂に王様に認められるぐらいの立派な魔術師になれたのかな)



まだレナが子供だった頃、彼が魔法を扱えると知ったカイとミレイは非常に喜んだ。特にミレイの方はレナが魔術師だと知った時、彼女は将来はレナが凄い魔術師になると本気で信じ込んでいた。



『レナちゃんは凄いわね、きっとこれなら立派な魔術師になれるわ』

『ははっ……婆さんは本当にレナに甘いのう』



付与魔法で地面を耕して畑の仕事を手伝っていた頃、ミレイはレナの魔法を扱う場面を見てよく彼の将来を期待していた。そしてミレイの期待通り、今のレナは魔術師として立派な成長を遂げていた。


一般的に魔術師の中では砲撃魔法など扱えない事から価値が低いといわれている希少職の「付与魔術師」だったが、レナは決してめげずに努力を続け、遂には国を脅かす強敵を打ち倒す程の成長を遂げた。この事によって世間の付与魔術師の見方は大きく変わる事は間違いなく、今後はもう付与魔術師という理由で馬鹿にされる事もなくなるだろう。



(ここまで来れたのも、この付与魔法のお陰だ……付与魔術師として生まれてきて良かった)



今まで何度か自分が付与魔術師である事にレナは悔しく思った事はあったが、それでも諦めずに自分の出来る事を頑張って付与魔法を極めた。その結果、遂にレナは「英雄」と呼ばれても過言ではない功績を上げる事に成功した。


ここまでレナが成果を出せたのは彼が付与魔術師として頑張って努力してきた結果であり、今はレナは自分が付与魔術師に生まれてきた事に誇りに思う。



「さて……次はお主たちにも礼を言わんとな。金色の隼の諸君、今回は大義であった」

「ありがとうございます、国王陛下」

「うむ、お主たちの活躍のお陰でこの国は救われた。流石は黄金級冒険者じゃ……報酬は期待しておいてくれ」



金色の隼の協力があったからこそ、今回の騒動は解決できた事も事実であるため、国王は感謝の言葉とそれ相応の報酬を渡す事を約束する。国王の言葉に金色の隼の面々は深々と頭を下げると、国王は改めて全員に告げた。



「今回の騒動では多くの人間が命を失った……大魔導士のマドウ、それにサブ、ワドルフ……他にも多くの民や兵士も血を流した。だが、盗賊ギルドはこれで完全に壊滅したのだ。しかし、その盗賊ギルドも元々は王国が作り出してしまった害悪、この度の件は全て儂の不徳によるものだろう。かつては義賊として国を支えていたとはいえ、結局はこのような事態を引き起こしてしまった……もっと早く、真面目に盗賊ギルドの対応をしていればこんな事にはならなかっただろう」

「国王様、そんな事はありません!!今回のような出来事が起きるなど、誰も予想できません!!」

「盗賊ギルドの問題は先王でもどうしようもありませんでした!!国王陛下が気に病む事ではありません」

「いや、お主たちの言葉は有難いが余は国の頂点に立つ者としての責務を果たせなかったのだ……だが、まだこの座を降りるつもりはない。マドウから救ってもらったこの命、無駄にするつもりはない。今後も余は国王として国のために尽くす事をここに誓う。当面の目標は城下町の復興に専念する!!」

『はっ!!』



国王の言葉に誰もが膝を付いて頭を下げ、こうしてヒトノ国と盗賊ギルドの長き因縁は遂に決着を終え、平和を取り戻した――

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