第700話 魔拳士

――数日後、レナ達は王城へと呼び出されて玉座の間にて国王と対面する。危篤状態だったはずの彼だが、盗賊ギルドが壊滅した途端に身体が一気に回復して現在では身体も自由に動かせるほどに回復していた。


もう長くないと思われていた国王の急激な回復に関しては誰もが驚いたが、国王は意識を失っている時にマドウが夢に出てきたという。彼がまだこちらに来るのは早いと告げられ、自力で立ち直ったという。


そして国王の前にはマドウの教え子たちが存在し、彼は今回の騒動で最も活躍した者達を呼び集め、一人一人に褒美を与える事を誓った。



「よくぞ来てくれた……英雄達よ。君たちのお陰でこの国は救われたといっても過言ではない」

「は、はひっ」

「デブリさん、落ち着いて下さいましっ……こ、国王陛下の前ですわよ?」

「そういうドリスも落ち着いた方がいい」



国王の言葉にデブリは緊張を隠せず、慌ててドリスが彼を宥めようとするが、彼女も緊張して言葉が震えてしまう。そんな二人に対してシノはいつも通りの態度を貫き、一方でミナの方は国王の両隣に立つカインとジオを見て頷く。


二人とも自分の娘と姪が国王に表彰されるという事に嬉しく思い、一方でレナとコネコはゴロウを発見すると、彼に笑みを浮かべる。ゴロウは冷静さを保とうとするが、口元がぴくぴく動いて笑顔を浮かべるのを必死に止めている事が伺える。


まさか自分達が国王に表彰される日が訪れるとは思いもしなかったレナ達だが、今回の騒動の全員の功績を考えると当然の結果である。全員が大きな活躍をしており、この中の誰一人が欠けていればこの国は崩壊していた可能性もある。


レナ達の傍にはルイやイルミナも含まれ、その背後にはカツやダンゾウも控えていた。彼等も同じように表彰されるのだが、最も功績を上げたレナに関しては国王は直々に赴いて彼に褒美を渡す。



「マドウの教え子にして七影の長を討ち取った事を評し、今を以てお主は黄金級冒険者の証を授けよう」

「黄金級冒険者……!?」

「や、やったな兄ちゃん!!」

「馬鹿、静かにしろコネコ……!!」



黄金級冒険者の証を手渡されたレナに他の面々は驚き、本人も渡された黄金製のバッジを見て驚く。一方でルイとイルミナは当然という表情で頷き、カツとダンゾウも素直に感心した様子でレナを見つめる。


渡された黄金級冒険者のバッジを確認し、これで名実ともにレナは冒険者の最高位に昇格した。冒険者稼業を開始してから2、3年足らずで黄金級冒険者に上り詰めた人間など滅多におらず、更に国王はレナに別の褒美を与えた。



「そしてもう一つ、別の褒美を与えよう。お主には「魔拳士」の称号を与える!!」

「魔拳士?」

「しょ、称号……!?」

「それって、どういう意味だ?」



魔拳士とは巷で噂されているレナの異名の一つだが、国王はその魔拳士の称号を正式にレナに名乗る様に促す。だが、当の本人はその変わった褒美に戸惑うが、その様子を見てルイ達は驚きを隠せない。



(国王が直々に称号を与える……それはつまり、国に大きな信頼にある人間である事を証明されるという事、国王様はそこまでレナ君に期待しているのか)



国王が直々に称号を与える行為は特別な意味が存在し、これは暗にレナが国にとって重要な人間である事が証明される。今後、この称号が周囲に知れ渡る事になり、レナは黄金級冒険者の中でも国の信頼を勝ち取った重要な人物だと知られるだろう。


本来ならば魔術師として欠陥がある「付与魔術師」の称号のレナが国王から称号を承り、更には黄金級冒険者へと上り詰めた。これは歴史に刻まれるほどの偉業である事は間違いなく、その事に気づいていないのは当人たちだけであった。



(魔拳士か……中々悪くない響きだな)



レナは国王から受け取った黄金級冒険者のバッジと、魔拳士の称号の証である勲章を授かる。勲章の形が紅色の拳の形をしているのはレナだけのために作られた勲章である事を証明し、ここで国王は大々的にレナが国の英雄である事を認める。更に国王は留まらず、残されたコネコ達にも褒美を与えた。



「そして他の者達にも褒美を渡さねばならん。ミナよ、お主はワルキューレ騎士団に入りたいという事だな?騎士団長に相談した結果、魔法学園の卒業後ならばいつでもお主を受け入れてくれるそうだぞ」

「ぼ、僕がワルキューレ騎士団に……ですか!?」



予想外の国王の言葉にミナは驚き、カインもこの事は初耳だったのか動揺を露にした。一方でルイの方は勝手に自分の団員を騎士団に勧誘された事に面を喰らうが、流石に相手が国王では分が悪い。



「続いてコネコよ、お主が暮らしていた孤児院は国の方からの支援金を渡そう。望みがあるのであれば他にも褒美を用意するが……」

「えっ、やった!!なら、いっぱいお金をください!!あいつらが不自由な生活をさせないぐらいに!!」

「こ、こら……コネコ、国王陛下に対してそんな口の利き方は……!!」

「はっはっはっ、いやいや家族思いのいいこではないか……よかろう、孤児院を立て直すぐらいの支援金を渡す事を約束しよう」

「やったぁっ!!」



コネコの言葉に特に国王は気分を害する様子もなく、まるで孫を接するような態度を取る。マドウもそうであったが、コネコは意外と年配の人から好かれやすいらしい。






※700話にして遂にタイトル回収……いや、ここまでくるのにどれだけ時間が掛かったか(;´・ω・)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る