閑話 〈ジャックの末路〉

――時は遡り、レナに敗れて大量の瓦礫に押し潰されたジャックはほぼ全ての肉体を失い、最早人としての原型さえ保ってはいなかった。しかし、それでもジャックは瓦礫の隙間から這い出ると、ヒトラと同様に魔力のみで肉体を構成した。


彼もヒトラと同様に既に肉体は死んだ状態であり、ヒトラから言わせれば「超越者」と呼ばれる存在へと変貌を果たした。だが、ヒトラと違って彼はあくまでもヒトラの死霊術によって死霊人形と化した存在にしか過ぎず、もう人間としての理性は失いかけている。



『アアッ……ウウッ』



それでもジャックは自分の肉体を人の姿へと変化すると、床を這って地上へと目指そうとした。だが、そんな時に崩壊した天井から日の光が差し込み、ジャックの全身を覆い込む。



『オアッ……アアアアッ!?』



光を浴びた瞬間にジャックの肉体を構成する魔力が一気に消失し、同時刻に彼を死霊人形へと変貌させたヒトラが完全な死を迎えた事で彼の死霊術から解放されようとしていた。肉体を失ったジャックが死霊術から解放される場合、彼も完全な死を迎える事になる。


太陽の光によってジャックの肉体は徐々に消滅していき、苦しみもがく。やがて完全に肉体が崩壊を迎えるかと思われた時、消滅しかけたジャックの前に人影が現れた。



「邪気を感じてみてきてれば……亡者の成れの果てか」

『アアッ……!?』



肉体が崩壊しかけているジャックの前に立った人物はゆっくりと鞘から剣を抜き、漆黒の刀を取り出す。そしてジャックに向けて突き刺した瞬間、ジャックの肉体は消散した。


その様子を見て人影の人物は自分の刀に視線を向け、再び鞘へと戻す。そしては背中に大きな翼を生やすと、空へと飛びあがる。



「盗賊ギルドもこれで終わりか……ヒトラ、お前ほど愚かな男を私は知らないぞ」



裏街区の奴隷街の支配者にして「女帝」と呼ばれる組織の長である「パトラ」は夜明けの光景を見つめ、盗賊ギルドの終焉を見届ける。敵対組織ではあったが、それでも今回の盗賊ギルドの敗北は彼女も予想は出来なかった。


火竜を呼び寄せ、更にはヒトラ自身が怪物と化す姿も彼女は観察していたが、結局はレナ達の手によって敗れた。その事実に女帝は思うところがあるのか、彼女は自分の住処へと戻る。






――盗賊ギルドが騒動を引き起こす前、パトラはゴエモンを人質として盗賊ギルドと同盟関係を結び、裏街区の全域は女帝が支配する事が決定した。当初の予定では盗賊ギルド側が国王を殺してアルトに憑依したヒトラが国を乗っ取れば王国領地は全て盗賊ギルドの支配下に収まるはずだった。


だが、火竜はマドウの命と引き換えに討ち取られ、ヒトラも倒された以上は盗賊ギルドは潰滅したといっても過言ではない。無論、残党はいるだろうが七影の全員がゴエモンを除いて全員が死亡し、さらにそのゴエモンも女帝に人質として囚われている。そもそもの話、一匹狼であるゴエモンに従う人間などいるかも怪しい。


女帝は労せずに裏街区の全域を支配下に収め、今後は盗賊ギルドの代わりに女帝が裏社会を支配する事になるだろう。その事にパトラは笑みを浮かべ、彼女は金色の隼に貸しを売っていたを思い出す。



「ヒトラ、私はお前とは違う……逆らう相手は決して間違わない」



パトラはヒトノ国と争うつもりは一切なく、今後はヒトノ国とも友好的な関係を築こうと考えていた。そうでもしなければ盗賊ギルドのように女帝も滅ぼされる可能性もあるため、彼女はヒトラのように度が過ぎた欲望を抱き続けるような愚かな真似はしない。





――こうして盗賊ギルドは崩壊したが、今後は女帝がヒトノ国を影から支える存在へと代わり、この国の平穏を保つだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る