閑話 〈その頃のナオは……〉
――レナ達がヒトラ率いる盗賊ギルドと死闘を繰り広げている頃、クランハウスにて毒の治療を受けていたナオは遂に目を覚ます。彼女の意識を取り戻した理由は火竜の咆哮を耳に下からであり、彼女は意識を取り戻すとすぐに自分がクランハウス内の医療室のベッドの上だと気づいた。
「こ、ここは……!?」
「あ、気が付いたのねあんた!!良かったわ、調合した薬が効いて……」
「貴方は……ノルンさん?」
ナオの傍には以前に煉瓦の大迷宮にて救出した「ノルン」という名前の
朦朧とする頭を抑えながらもナオは周囲を見渡すと、そこには自分以外にも大勢の人間が治療を受けている事を知り、中にはベッドが足りなくて床の上にシーツを敷いた状態で横たわっている人間も存在した。そして治療を行っているのはクランハウスで勤務している治癒魔導士だけではなく、ノルンの姉二人の姿も確認できた。
「どうぞ、これを飲んでください」
「ううっ……す、すまねえ」
「あ~んしてください、ゆっくりと飲んでくださいね~」
「あ、あ~ん……」
ノルンの姉のアイーシャとアルンは怪我人に調合したばかりに薬を飲ませているらしく、彼女達の治療を受けた人間達はみるみるうちに怪我が治り、安心しきった表情を浮かべて目を閉じて眠ってしまう。
怪我人の中にはナオと動揺に昆虫種の毒を受けた人間もいる様子だったが、どうやら森人族の調合する薬ならば効果があるらしく、ノルンは一人で頑張って調合しているらしい。
「よし、新しい薬が出来たわ、お姉様!!」
「はいは~いっ」
「ノルン、次は回復薬の調合を急いで!!数が足りなくなってきた!!」
「分かったわ!!」
「あ、あの……僕に手伝える事はありますか?」
「ない!!あんたは病人だから大人しく休んでいなさい!!」
ナオはノルンに話しかけると、彼女はきっぱりと否定して休むように促す。ノルンとしては別に嫌味で言ったわけではなく、いくら毒が治療したとしても病み上がりのナオを無理させるわけにはいかず、大人しく眠っているように指示を出したつもりだった。
しかし、ナオは自分だけが身体を休める事に我慢ならず、まだ身体は少し重いが他の仲間の元へ向かおうとベッドから降りる。その様子を見てノルンは慌てて彼女を止めようとする。
「ちょっと、話を聞いてたの!?あんたに出来る事はないんだから、大人しく寝ていなさい!!」
「そういうわけには……うっ!?」
「ほら、見なさい!!毒が抜けたと言っても、あんたの体力までは戻らないのよ!!」
医療室を去ろうとしたナオだったが、身体が言う事を聞かずに膝を崩し、その様子を見てノルンは呆れた表情を浮かべながらも肩を貸す。ナオは申し訳ない表情を浮かべながらもベッドに戻ろうとしたとき、聞き覚えのある声を耳にした。
『ウォンッ!!』
「え、この声は……!?」
「声?これ、ワンちゃんの鳴き声でしょ?」
窓の外から聞こえてきた鳴き声にナオは目を見開き、ノルンの肩を借りながらも窓の方角に向かうと、そこにはクランハウスの裏庭に降り立つ飛竜と、その傍に存在するシノの相棒である「クロ」の姿が存在した。
「クロ!?どうしてここに!?」
「ちょ、何よこれ!?飛竜がどうしてこんな場所に……!?」
ノルンは中庭に飛竜が降り立った光景を見て驚き、一方でナオの方はクロの姿を見て慌てて窓を開いて外に出た。そして飛竜の正体が前にミナが乗りこなしていた「ヒリュー」だと気づく。
以前にイチノの街へ向かう時にナオもミナが連れてきたヒリューの事は覚えており、ヒリューのほうもナオの姿を見て顔を近づけて何かを伝えるように鳴き声を出す。
「シャアアッ……」
「ウォオンッ!!」
「ど、どうしたの2人(匹?)とも……まさか、皆に何かあったの?」
何かを伝えようとする2匹に対してナオは仲間達に何かが起きたのではないかと判断し、その様子を見てクロはナオに飛竜に乗り込むように促す。
「クゥ~ンッ」
「背中に乗れ、という事?分かった、ヒリュー君が皆の元へ連れて行ってくれるんだね?」
「シャウッ!!」
「……分かった、行こうっ!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよあんた!!何処へ行くつもりよ!?」
ノルンはヒリューに乗り込もうとするナオを見て慌てて止めようとしたが、ナオは振り返って彼女に怒鳴りつける。
「仲間の危機かもしれないんです、僕は行きます!!」
「危機って……ああ、もう仕方ないわね!!どうせ止めても行くんでしょう?なら、少し待ってなさい!!勝手に飛び出すんじゃないわよ!!」
ナオがヒリューに乗り込んだのを見てノルンは止められないと判断したのか、彼女は仕方がないとばかりにナオに出発を遅らせるように伝え、部屋の中へと戻る。
しばらくすると、大きな小包を抱えたノルンが息を荒げながらも窓から飛び出し、その後にアイーシャとアルンも何事かと窓から外の様子を覗き込む。そんな3人の姿にナオは驚くが、ノルンはナオに小包を差し出す。
「ほら、あんたの仲間の分の薬よ!!言っておくけど、森人族が調合した薬だから人間なんかが作る物よりも効果は高いんだからね!!」
「え、でも……」
「いいから持って行きなさいよ!!何だかわからないけど、どうしても行くんでしょあんた!?だったら仲間を救ってきなさい!!その薬代はあとでちゃんと請求するわよ!!」
「あ、ありがとうございます!!」
ノルンの言葉にナオは小包を受け取り、礼を告げるとヒリューを飛び立たせる。ノルンは空へと浮き上がるナオの様子を見てため息を吐き出し、一方で他の二人の姉はノルンの行動を見て微笑み、彼女の肩に手をまわした。
※ノルンは正統派ツンデレです。ドリスも初期はこのような性格にしようか迷いました(笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます