第666話 火竜の始動
――同時刻、沈黙を貫いていた火竜にも異変が生じた。火竜は移動を開始すると、王都の冒険者ギルドへと向かう。ギルドには大勢の冒険者と避難した住民が存在したが、突如として現れた火竜を前にして彼等は逃げ惑うしかなかった。
「か、火竜だぁっ!!」
「逃げろ、逃げるんだ!!」
「落ち着け、地下へ避難しろ!!外へ出るなっ!?」
城下町の住民は火竜が現れた途端に怯え、震え上がり、逃げ出そうとした。しかし、そんな彼等に対して火竜は無慈悲にも攻撃を開始した。
「破壊しろ」
「アガァアアアアッ……!!」
火竜の背中には一人の「少年」の姿が存在し、彼の命令を受けた火竜は口を開くと、胸元を発熱させて口内から赤色の光を放つ。そして冒険者ギルドの建物へ向けて「熱線」を放射する。
それは最早「火炎」という表現では言い表せず、正に光線に等しい火力を誇った。火竜が吐き出した熱線によって冒険者ギルドの建物は破壊され、爆発を引き起こす。その結果、避難に遅れた建物内に存在する住民と冒険者は爆発に飲み込まれた。
あまりにも圧倒的な力を誇る火竜に対して背中に乗り込んでいた「リョフイ」は笑みを浮かべ、正に災害の象徴と呼ぶに相応しい戦闘力を誇る火竜を自分が操作しているという事実に喜ぶ。
「素晴らしい……!!なんという力だ、この力さえあればいずれ僕は……」
「グガァアアアッ!!」
火竜の力を目の当たりにしたリョフイであったが、不意に火竜が威嚇するかのように声を上げると、周囲から近づく竜騎士隊の姿をリョフイも確認した。
「何としても火竜を市街地から離れさせろ!!」
「背中に誰か乗っているぞ!?」
「何者だ!!」
「ほう、竜騎士隊ですか……この国、最強の戦力のお出ましですか」
遂に現れたヒトノ国最強の軍隊の登場にリョフイは笑みを浮かべ、火竜と比較するとあまりにも小さく非力な飛竜の姿を目にして優越感を抱く。
リョフイは火竜の好きなように動く事にさせると、火竜は自分の前に現れた飛竜の大群に対して咆哮を放つ。それだけで大地が震え、地上の人々を震え上がらせた――
――その頃、飛行船の方でも火竜が出現したという報告は受けていた。治療中のゴロウはその報告を聞いてすぐに飛び出そうとしたが、傷は深くて未だに完治はしておらず、ジオに抑えつけられていた。
「くっ……離せ、ジオ!!火竜が現れたのだぞ!?我等も出向かねば……」
「おやめくださいゴロウ将軍!!相手は竜種、空を飛ぶ相手に我々ではあまりにも無力です!!」
「その通りです、レナさんがいない限りはこの飛行船を飛ばす事も出来ません」
飛行船にはイルミナとマドウの姿も存在し、既に二人はこちらへ移動して出発の準備を整えていた。カインの方はイルミナとマドウをこの場所に送り届けた後、既に竜騎士隊を指揮して火竜の元へ向かっている。
サブの行動によってドッグも酷い状況だったが、唯一の救いがあるとすれば飛行船は比較的に損害を免れ、レナが戻り次第に空を飛べる状態ではあった。しかし、肝心のレナが元に戻る様子がなく、ルイも戻ってこない事にイルミナは嫌な予感を抱く。
「サブよ、まさかお主が裏切り者だったとはな……」
「ううっ……師匠」
「どうしてこんな事に……」
「師よ……」
マドウの前には横たわったまま動かぬサブの「死体」と、そんな彼の前に無き縋るヘンリー達の姿が存在した。マドウが辿り着いたときには既にサブは全魔力を使い果たし、更に負傷した事で既に死に絶えていた。
サブが裏切り者であった事は事実だが、それでもこの国のために貢献した人材である事も間違いなく、マドウは純粋に優れた魔導士が死んだ事を悲しむ。だが、今はサブの死に悲しみに耽る事も許されず、この状況を斬り抜くために最善の行動をとらなければならない。
「現在は既に竜騎士隊が動いて火竜を城下町の外へ誘導中のはず……我々もすぐに動かねばならん」
「ならばすぐに向かわなければ!!」
「落ち着くのだゴロウ将軍……そんな怪我でお主が出向いても足手まといになるだけじゃ、儂が言いたいのはこの飛行船を動かし、当初の作戦通りに奴を空で仕留めるしかあるまい」
「空で仕留める?そんな事が可能なのですか?」
「無論、失敗する可能性も大きい。しかし、儂の最上級魔法ならばいかに竜種とはいえ、深手を負わせる事は出来るだろう……その後の事はお主たちに任せたぞ」
「たく、俺の親友もとんでもない注文をしてくるな……俺の生涯を費やしたこの船を犠牲にするなんて、酷い奴だ」
飛行船にはマドウの親友のワドルフの姿が存在し、彼の言葉を聞いてマドウは準備を整えてくれた事を察する。今回のマドウが考えた作戦は自分が火竜を仕留めきれなかった時、この飛行船を犠牲にして火竜を倒す手段を彼は思いついた。
――サブが飛行船を破壊するために用意した魔石を敢えて船に積み込み、彼は飛行船を火竜に接近させた後、爆発させる予定だった。そうすれば最上級魔法を受けた後に負傷した火竜ならば確実に倒せるとマドウは確信していた。
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