第652話 老いた肉体
「くっ……ペガ!!」
「ヒヒンッ!!」
『そうはさせん!!』
イルミナは自分の天馬を呼び寄せてアルトの元へ向かおうとしたが、ジャックが意識を取り戻したのか彼はカトラスを抱えて彼女の元へ向かう。それに対してカインが立ちはだかり、ランスで迎撃を行う。
「邪魔はさせんぞ!!」
『ちぃっ!!』
カトラスでランスの一撃を弾いたジャックはカインと向き合い、互いに牽制し合う。その隙にイルミナは天馬に乗り込み、空へと飛び立つ。その様子を確認したマドウはジャックに顔を向ける。
いくら相手が聖属性以外の魔法が通じにくい敵だとしても、高火力で肉体その物を滅すれば倒せないはずがない。ここまでの戦闘でマドウは魔力を大幅に消耗しているが、それでもここでジャックを倒すために彼は杖無しの状態で魔法を発動させようとした。
「ジャック!!貴様もここまでだ!!」
『ちぃっ……させるか!!』
「何っ!?」
ジャックは魔法を発動させようとするマドウを確認して彼は全身に纏わせた魔力を触手へと変化させ、広範囲に放つ。闇属性の魔力で構成された触手が人体に触れると強制的に魔力を奪うため、カインもマドウも触手に触れぬように距離を取るしかなかった。
二人が下がったのを確認するとジャックは触手を絡めさせて「蜘蛛」の脚の様に変化させ、そのまま触手を操作して離脱を測る。本物の昆虫のように壁を登り、跳躍を行って退散するジャックの姿にカインとマドウは唖然とする。
『貴様等の相手は後だ……俺は俺の目的を果たす!!』
「ま、待て!!逃げるのか、卑怯者が!!」
「くっ……この距離では狙えんか」
マドウは屋根の上へと逃げ込んだジャックを確認して腕を下し、敵に距離を取られると砲撃魔法の威力も精度も落ちるため、見逃すしかなかった。その一方でカインの方は悔し気にランスを地面に突き刺すが、すぐに気を取り直して飛竜を呼び寄せ、ジャックの追跡を行おうとした。
「大魔導士、俺は奴を追う!!」
「待てカインよ!!罠の可能性がある、迂闊に一人で追いかけるのは危険過ぎる!!」
「奴をこのままみすみすと見逃せん!!」
マドウの静止を振り切ってカインは飛竜に乗り込むと飛び立ち、その様子を見てマドウは引き留める事ができなかった。確かにこのままジャックを野放しには出来ない。
だが、聖属性の攻撃方法を持たないカインが追いかけてもジャックを倒す事は出来ないため、どうにかマドウは彼を止めようとしたが飛竜の移動速度には敵わず、屋根を飛び回るジャックをカインは追跡する。その様子を見送る事しか出来ず、マドウは悔し気な表情を浮かべる。
「今日ほど、この老いた肉体を恨んだ事はないぞ……」
若いころの自分ならばこんな状況に陥る前に敵を倒していただろうと考えながらもマドウは折れた杖を拾い上げ、すぐに王城へ向けて戻る事にした。アルトの事も気がかりではあるが、そちらはイルミナに任せて彼は火竜が訪れる前に王城へ引き返し、耐性を整える必要があった――
――同時刻、ヒリューにレナを乗せて空を飛んでいたミナは地上を移動するルイ達の存在に気づき、合流を果たしていた。レナを送り込む際にルイは天馬を呼び寄せ、全員を搭乗させようとしたのだが、天馬よりも飛竜の方が速度が速いため、合流する前にレナがケルベロスを倒した事になる。
地上へと降りたミナ達は全員の無事を確かめ、特に誰も怪我をしていない事を確認した。幸いにもデブリを乗せた天馬が多少疲れていた事を除けば特にルイ達の方は何もなかった。
「皆!!無事!?」
「ミナさん!!私達は大丈夫ですわ!!」
「僕を乗せた天馬は少し無茶をさせ過ぎたけどな……」
「ヒヒンッ……」
「あれ、兄ちゃんどうしたんだ!?怪我でもしたのか!?」
「大丈夫、気絶しているだけだから……あ、そうだ。アルト君、勝手にヒリュー借りちゃってごめんね」
「い、いや……気にしないでくれ」
「シャアッ」
ヒリューが地上に降り立つと全員が集まり、ミナはアルトが乗っていたヒリューを勝手に乗りこなしていた事を謝罪する。アルトの方は竜騎士の自分よりも巧みにヒリューを扱っていたミナに対して色々と思うところはあるが、今は心のうちに収めておく。
気絶しているレナを見てコネコは心配した声をかけるが、ミナは意識を失っているだけだと説明し、大事ではない事を伝えると安心する。一方でデブリ達も遠目ではあるがケルベロスが消えた事は確認しており、レナ達が見事にケルベロスを倒した事を知って褒め称える。
「ここからでも良く見えたぞ!!お前ら、あんな化物を倒すなんてやるな!!」
「まさか、伝説のケルベロスを倒すなんて……やはりレナさんは凄いですわ」
「その通りだね、だけど今は勝利の喜びを分かち合う暇はない。一刻も早く、安全な場所へ避難しよう」
「そ、そうですね。でも、何処へ向かえば……」
「一先ずは飛行船の元へ向かおう。あそこにはジオ将軍とゴロウ将軍もいる。二人とも治療は受けているが、まだ部隊も残っているはずだ。この地区の住民も避難しているだろう」
ルイの言葉に全員が頷き、一刻も早くレナを安全な場所へと避難させるため、ミナは飛竜を飛ばそうとした。だが、ここで飛竜は何かに気づいたように顔を見上げ、目を見開く。
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