第641話 復讐者

「レナ!!今は話してる暇はないんだ、ロープか何かで僕達を早く引き上げてくれ!!」

「それなら俺のスケボを渡すから、それに乗ってきて!!」

「早く……追いつかれる」



レナはデブリの言葉を聞いて即座にスケボを付与魔法を発動させ、大穴の中に放り込む。他の者達も集まり、二人の様子を確認するとシノはスケボに乗り込み、デブリは浮き上がったスケボを掴んで浮き上がっていく。


シノを乗せてデブリに掴まられたスケボは上昇すると、無事に外へ二人を引き出す事に成功する。二人を引き上げる事に成功したレナは安心しかけたが、突如として嫌な予感を覚え、咄嗟に大穴に視線を向ける。



『ミツケタゾォッ……!!』

「なっ!?」

「くそ、もう来たのか!!」

「しつこすぎる……!!」



下水道の通路の奥から異形な形をした人間が登場し、その容姿を見てレナは動揺のあまりに目を見開く。その人間は生きている事が不思議な程の重傷を負い、全身から黒色の炎のような魔力を纏っていた。




――姿を現したのはシノによって敗れ去ったはずの「ジャック」であり、彼は目元を赤く充血させ、全身に酷い怪我を負っていた。片足に至っては膝から先が完全になくなっているのだが、身体に纏う黒色の魔力が足の形に変形して義足代わりに支えていた。




その姿を見て最初にレナが思いついた単語は「アンデッド」だが、先ほど遭遇したアンデッドの集団と違ってジャックには意識が存在した。何よりも全身に黒兜のように魔力を纏う姿に戸惑う。



「あ、あれは……ジャック!?」

「何だって!?じゃあ、あの男が七影の……」

「この姿は……まずい、レナ君そこから離れるんだ!!」

「えっ!?」



ルイはジャックの姿を見て何かを思い出したようにレナに警告を行うと、ジャックは右腕を伸ばす。その行為にレナは戸惑い、反応が遅れてしまう。



『ウオオオオッ!!』

「うわっ!?」

「な、何だ!?」

「レナ君!!」

「このっ!!」『



ジャックは腕を伸ばした瞬間、彼の身体を覆いこむ魔力が触手のように変化を果たし、レナの身体に纏わりつく。その結果、レナは突如として体内の魔力を奪われる感覚に襲われ、膝を付く。


触手に囚われたレナを見て咄嗟にミナとアルトは助けようと槍と剣を構え、触手に向けて刃を放つ。だが、触手に触れた瞬間に武器は素通りしてしまい、触れる事が出来ない。



「えっ!?さ、刺さらない!!」

「触れられない!?」

「駄目だ、その触手に迂闊に触れるんじゃない!!レナ君、闘拳を使えっ!!」

「闘拳……!?」



ルイの言葉にレナは闘拳に視線を向け、聖属性の魔力が宿っている事を確認する。まだ魔鉄槍に魔力を送り込む前の段階だったので闘拳に聖属性の魔力が渦巻いている事を確認すると、レナは触手を掴み取る。



「このぉっ!!」

『グアッ!?』

「外れた!?」



触手を掴んだ瞬間、ミナとアルトの武器は素通りしたにも関わらず、触手は闘拳に触れた瞬間に消散した。拘束から逃れる事に成功したレナは首元を抑え、ジャックに闘拳を構えた。


このままジャックを逃がす事に危険を感じてレナは闘拳を射出し、ジャックを倒そうと試みる。だが、その前にジャックは浮かんでいるシノとデブリに視線を向け、二人に向けて触手を伸ばす。



『チィッ!!』

「なっ!?危ない二人とも!!」

「うわぁっ!?」

「にゃっ!?」



反射的にレナはスケボを一気に移動させて二人を地上へと放り込むと、その動きを予測していたかの様にジャックは触手の軌道を変化させ、再びレナの元へと向かわせる。狙いが自分だと知ったレナは慌てて闘拳を構えるが、触手は闘拳を身に付けた右腕以外の箇所に食い込む。



『コイッ!!』

「うわぁあああっ!?」

「レナ君!?」

「くっ!!」



大穴に引きずられそうになるレナをミナとアルトが掴むが、あまりの力の強さに二人も引きずられそうになり、他の者達も急いでレナを助けるために動く。



「させるない!!」

「力比べなら負けないぞ!!」

「絶対に離すんじゃない!!」

「く、くそっ……!!」

『グゥウッ……ジャマヲスルナッ!!』



遅れてルイ達もレナにしがみつき、どうにか力を合わせて引きずられていくレナを救い出そうとする。その行為にジャックは苛立ち気な表情を浮かべ、血走った目を見開きながら触手を引き寄せた。


相当な人数でしかも戦闘職の人間が含まれているにも関わらずにレナの身体は引き寄せられ、しかも魔力を奪われていく。このままではまずいと判断したレナは意識を集中させ、触手に絡まれた箇所に視線を向けた。



(くそっ……こうなったら!!)



目を見開いたレナは好き勝手に自分を拘束し、魔力を吸収しようとする触手に対して怒りを抱き、付与魔法を発動させた。その結果、触手に囚われていた箇所に紅色の魔力が宿り、魔力を最大限に膨れ上がらせて触手を内側から強制的に剥がす。



「離れろぉっ!!」

『ナッ!?バカナッ!?』



付与魔法を使用して無理やりに触手を引き剥がしたレナにジャックは驚き、その隙を逃さずにレナは闘拳を構え、ジャックに放つ。

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