第640話 大穴
『オアアアッ……!!』
『シャアアアアッ!!』
ケルベロスに対して十数体の飛竜が周囲を飛び回り、進行の妨害を行う。しかし、ケルベロスが動く度に次々と建物が破壊され、被害が増していく。時折、マドウやイルミナが砲撃魔法を放つ光が見えるが、やはり聖属性の魔法でしか効果は薄いのか時間稼ぎ程度にしかならない。
もう一方の魔鉄槍に魔力を送り込むため、レナは闘拳越しに聖属性の魔石を破壊し、魔力を蓄積させていく。その間にルイ達はレナの護衛を行い、周囲の警戒を行う。
「よし、体力回復!!行ってくる!!」
「コネコちゃん、気を付けてね!!」
「私の魔力感知によると……どうやら他にもアンデッドが潜んでいるようですわ!!こちらに複数の嫌な魔力が近づいています!!」
「どうやら僕達の居場所は完全に把握されているか……レナ君は付与魔法に集中するんだ、ここからは僕達が守る」
「分かりました」
「よし、絶対に誰も近づけさせないからね!!」
コネコは体力を取り戻すと隠れているであろう「死霊魔術師」の居場所を探すために向かう。街の住民をアンデッドに変貌させたのは恐らくは黒兜をケルベロスに変化させた老人である可能性が高く、コネコは老人の姿を探すために建物の屋根の上を駆け抜けていく。
一方でレナを守るためにアルト、ミナ、ルイが三方向に散らばり、ドリスとシデも魔力回復薬を飲み込み、魔力感知を発動させて敵の位置を探る。だが、連続して魔力回復薬を引用すると回復効果が著しく落ちるため、残念ながら戦闘になったらドリス達の協力は期待できない。
(なるほど……やはり、普通の人間とアンデッドと化した人間は魔力の性質が大きく異なるのですね)
レナよりも広い範囲で魔力感知を行えるドリスは接近する敵の数と位置を把握し、アンデッドに宿る禍々しい魔力を感じ取る。普通の人間とアンデッドでは魔力の質が異なり、彼女は周囲に潜むアンデッドの気配を感じとる。
(むっ……この反応は、まさかシノとデブリ君!?二人とも無事だったのですね!!)
魔力感知の範囲を広げている最中、ドリスは地下に落ちたデブリと、ジャックの追跡のために下水道に潜り込んだシノの反応を感じ取った。普段から共に行動している二人なので彼女は両者の魔力の性質はよく覚えており、二人が生きている事を知って安堵した。
早速他の人間にもこの事を伝えようとしたが、二人の反応が急速に動いている事を知り、同時に二人の他にも強力な魔力を感じ取った。その魔力を感じ取った瞬間、ドリスは寒気を覚える。
「こ、これは……!?」
「どうしたんだドリス君?何か感じたのか?」
「大変ですわ!!シノさんとデブリさんが何者かに追われています!!今、丁度この下を通過しようとしていますわ!!」
「この下!?」
「まさか、下水道!?」
ドリスの言葉に全員が驚き、全員が舌を見下ろす。二人が追われてているという言葉にレナは視線を向け、ドリスに正確な位置を尋ねる。
「ドリスさん!!二人は本当にこの下を通ろうとしているの!?」
「え、ええ!!間違いありませんわ!!」
「じゃあ、ここにも下水道の通路があるんだね!!でも、どうすれば……」
「……穴を開けるしかない、皆は下がってて!!」
『えっ!?』
レナは魔鉄槍に魔力を送り込むのを中断し、魔銃を引き抜くと魔石弾を装填する。本当は火竜との決戦のために用意していた代物だが、二人の危機を知ってレナは皆を下がらせて弾丸を撃ち込む。
魔石弾は物体に衝突した瞬間に砕け散り、蓄積していた魔力を解放し、強烈な重力の衝撃波を生み出す。その威力はまともに衝突すればゴブリンキングでも吹き飛ばす威力を誇り、それも数発を撃ち込めば地面に大穴を開ける事など容易い事だった。
「皆、衝撃に備えて!!」
「わぁっ!?」
「くぅっ!?」
「きゃああっ!?」
「うひぃいいっ!?」
「うわっ!?」
魔石弾が次々と地面に撃ち込まれ、衝撃波を生み出した事でレナ達も吹き飛ばされそうになったが、どうにか踏み止まる事に成功した。そして砂煙が晴れると、魔石弾を全弾撃ち込んだお陰で地面には大穴が形成され、下水道に繋がっていた。
あまりの衝撃に地面が崩壊するのではないかと思われたが、今はそんな事を気にしている暇はなく、大穴の中を覗き込むと砂煙を振り払いながらデブリとシノが姿を現す。
「ぺっぺっ……な、何だっ!?何が起きたんだ!?」
「死ぬかと思った……」
「デブリ君、シノ!!無事だったんだね!!」
「レナ!?お前もぶじだったのか!!」
「良かった……でも、まさかこれをやったのはレナの仕業?」
どうやら運が良かったのかレナが作り上げた大穴の近くにまでデブリとシノは移動していたらしく、二人はレナの顔を確認すると歓喜の声を上げるが、すぐに後方を振り返って慌てた様子で彼に助けを求める。
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