第635話 魔鉄槍を使え

「……言われた通りに王都内の竜騎士に連絡を送ったぞ。だが、飛竜が近づけなければ我々には奴に対抗する手段は限られている」

「それでも構わん。時間さえ、稼げればいいのだ。いざという時は儂の最上級魔法を発動させる……竜騎士隊の役目は奴の進行方向上に存在する人間の避難、そして王城にも連絡を送るのだ」

「承知した……レナ、お前の武器も運ばせている。到着しだい、好きに使え」

「え?」



カインは飛竜に乗り込むと飛翔させ、最後に彼はレナに言葉を言い残すとケルベロスが存在する方向へ向かう。接近する事は出来ないが、それでもケルベロスの動向を探る必要があり、彼は単騎で挑む。


レナはカインの言葉に不思議に思うと、やがて竜笛で呼び出された王都内の竜騎士達が集まり、空に複数の飛竜が出現した。竜騎士達はカインの姿を確認すると彼の後に続き、ケルベロスの周囲を旋回する。



「戦力は揃ってきたか……だが、いくら飛竜が集まっても奴には対抗できん。レナよ、お主はここに残るのだ」

「え!?」

「足止めは我々が行う、お主は聖属性の魔石が到着するまで待機しろ。無駄に魔力を消耗してはならん、ここで魔石が届くまで待つのだ」



マドウはレナに無暗に戦わないように告げると、自身も杖を握りしめてケルベロスの元へ向かう。取り残されたレナはどうすればいいのかと困り、この状況で何もするなと言われても納得できるはずがない。



(確かにマドウさんの言う通り、無駄に魔力を消耗するわけにはいかないけど……でも、この状況で俺以外にあいつを足止め出来るのはいないのに)



付与魔法を扱えるレナならば建物の残骸をケルベロスにぶつけて注意を引く事が出来るため、近づく事も出来ない竜騎士や最上級魔法の発動のために本気で戦う事が出来ないマドウよりもレナが戦う方が時間を稼げる。


だが、ケルベロスを倒すには聖属性の魔石で魔法拳を使用できるレナ以外には存在せず、これ以上に無駄な魔力を消耗させるわけにはいかない事は承知していた。それでも自分が何も出来ないという事にレナは悔しく思う。



(くそ、俺が聖属性の付与魔法を使えたら……!!)



生まれて初めてレナは地属性以外の付与魔法が扱えない事に悔しく思い、早く聖属性の魔石が届く事を願っていると、コネコが隣に立っていた上空を指差す。



「あ、兄ちゃん!!あれを見ろよ!?」

「まさか、アルト君が戻ってきたの!?」

「アルト?いや、そうじゃなくて……すっげぇ格好いい武器を持ってる飛竜が来たぞ!!」



コネコの言葉にレナは驚いて振り返ると、そこには2頭の飛竜がレナ達の元に近付く姿が存在し、その飛竜の鉤爪には「魔鉄槍」が掴まれていた。魔鉄槍を運んできた飛竜にレナは驚き、飛竜に乗り込んだ竜騎士がレナに告げる。



「大将軍から伝言を承っています!!この魔鉄槍をレナ殿に渡すように言われてきました!!」

「どうぞ、お使いください!!我々はここで失礼します!!」

「カインさんが……」

「すっげぇっ!!なんだこの武器、めちゃくちゃ格好いいじゃん!!」



レナの元に魔鉄槍を置くと竜騎士達はその場を去り、カインの元へと急ぐ。地面に置かれた魔鉄槍を見てコネコは興奮したように魔鉄槍を覗き込み、一方でレナは魔鉄槍を目にして驚きを隠せない。


どうやらカインは騒動が起きた時からレナにこの魔鉄槍を渡す準備を行っていたらしく、わざわざ王城からここまで運んできたらしい。魔鉄槍を確認したレナは装着している地属性の魔石を確認し、どうやら手入れの方はもう終わっている事を知る。



(魔鉄槍か……あの化物に通じるかは分からないけど、とりあえずはそこいらの瓦礫を飛ばすよりも強力な武器が手に入った)



魔鉄槍を確認したレナはこれをケルベロスに撃ち込めば損傷を与えられるのではないかと考え、すくなくとも瓦礫をぶつけるよりは効果は期待できた。だが、ここでレナは魔鉄槍に取り付けられている地属性の魔石に視線を向け、ある考えを抱く。



(待てよ……魔鉄槍!?これを使えばもしかしたら……でも、出来るのかそんな事!?)



レナは自分の闘拳に視線を向け、魔鉄槍に手を伸ばす。理論上は恐らくは可能だと思われるが、今までに一度も試した事がないため、早急に実験を行う必要があった。


魔鉄槍を利用した攻撃法を思いついたレナはまずは二つ存在する魔鉄槍の一つを持ちあげ、意識を集中させる。今回は「重ね掛け」と「間接付与」の技術を同時に行えるのかを試す。



二重強化ダブル

「えっ……兄ちゃん、何する気だ?さっき、爺ちゃんが魔法を使うなって……うわっ!?」



闘拳に付与魔法を発動させたレナにコネコは驚くが、レナが魔鉄槍に触れた瞬間に闘拳に帯びていた魔力が魔鉄槍に流し込まれ、魔鉄槍に地属性の魔力が宿る。その光景を確認したレナは魔力を宿した魔鉄槍を持ち上げ、問題なく扱える事を確認すると頷く。



(やった……成功した。なら、出来る!!これを使えばあいつを倒す事が出来る!!)



魔鉄槍に無事に闘拳に付与させた魔力を送り込む事が出来たレナは頷き、後は聖属性の魔石が届けばケルベロスを倒す事が出来ると確信した。

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