第636話 聖属性の魔石

「お~い!!レナ君、コネコちゃん、無事!?」

「ううっ……頭が痛いですわ」

「こ、こっちも魔力切れだ……」

「あ、ミナの姉ちゃ……うわ、大丈夫かそれ!?」



ドリスとシデを両脇に抱えた状態でミナは駆けつけると、コネコは驚いた声を上げる。どちらも限界近くまで魔法を使用したため、回復には時間が掛かりそうだった。


手元にある魔力回復薬も尽きたため、自然回復で魔力が戻るまでは二人は碌に動く事も出来ず、ミナがここまで運んできたらしい。戦闘職であるミナの身体能力は一般人とは比べ物にならず、人間二人を抱えても特に疲れた様子も見せない。



「ミナ、ドリスさん、それにシデ君も……無事でよかったよ」

「うん、僕達は大丈夫だけど……でも、あの怪物をどうにかしないといけないよね」

「で、ですが今の私達で何が出来るのか……それにシデさんとシノさんも心配ですわ」

「そういえば二人は?ナオ君もいないの?」

「実は……」



ここでレナはナオ達の姿がいない事に気づき、ミナ達は手短に何が起きたのかを話す。ナオは現在はクランハウスで治療を受けて眠っている事、シノは七影のジャックの後を追跡して下水道に潜った事、デブリも戦闘の最中に地下に落ちてしまった事を話す。


とりあえずは全員が生きている事は間違いなく、シノとデブリの身は心配だったが、今はケルベロスを倒す事に集中しなければならない。魔鉄槍を持ち上げたレナは聖属性の魔石が早く運ばれる事を祈る。



「俺が眠っている間にそんな事が起きていたのか……くそっ!!盗賊ギルドめ、何が目的なんだ!?」

「それは確かに気になりますわ。こんな騒ぎを起こして盗賊ギルドはいったい何が目的なのか……まさか、本当にヒトノ国を崩壊させるつもりなのでしょうか?」

「でも、そんな事をしてあいつらに何が得があるんだ?」

「そうだよね、仮に王都を崩壊させても国を支配する事なんて出来ないのに……まさか、王様を殺せば自分達がこの国を支配できると思っているのかな」

「阿保か……そんな簡単に国を支配できるはずがないだろうが」



ミナの言葉に地面に横たわりながらもシデは呆れた声をあげ、確かに盗賊ギルドが勢力を注ぎ込んで王都内の王族を皆殺しにしたところで彼等が国を支配できるはずがない。そんなことをすればヒトノ国の将軍や貴族が許さず、彼等を討ち取ろうとするだろう。


しかし、ここでレナはなにか引っかかりを覚え、王族という単語に疑問を抱く。王族という言葉に自分達は何かを忘れているような気がしてならず、盗賊ギルドの誕生の成り立ちを思い出す。



(待てよ、そういえば盗賊ギルドは最初は……!?)



盗賊ギルドが誕生した理由をレナが思い出しかけた時、上空から飛竜と天馬の鳴き声が響き渡り、視線を向けるとそこにはアルトを背中に乗せて大きな袋を抱えたヒリューと、イルミナとルイを乗せた天馬の姿が存在した。



「君達、無事だったか!!」

「怪我はありませんか!?」

「レイナ君、魔石を盛ってきたよ!!」

「シャアアッ!!」



天馬とヒリューが着地すると、すぐにルイ達は駆けつけ、倒れているドリスとシデを見て事情を察したルイは二人に魔力回復薬を渡す。



「ほら、これを飲むんだ。少しは回復は早くなる」

「た、助かりますわ……ありがとうございます」

「俺はいい……あんたらが使ってくれ、どうせ飲んだところで何も役に立てないんだ」



ドリスは有難くルイから魔力回復薬を受け取るが、シデはそれを拒み、もう自分では役に立てない事を彼は自覚していた。残念ながらこの状況ではシデの力ではケルベロスにも対抗できず、サブに復讐する事も出来ない。


状況が状況なために何が起きるのか分からず、シデのために用意した魔力回復薬をルイは代わりにレナに手渡す。レナもこれまでの戦闘で魔力を消耗しており、有難く受け取るとルイとイルミナはケルベロスの様子を伺う。



「なるほど、三つ首の狼……ケルベロスにそっくりだな」

「ええ、それに魔力が徐々に強まっています。このまま放置するのは危険過ぎます」

「御二人は聖属性の魔法は扱えますか!?奴に対抗できるのは聖属性の魔法だけだと先生が申してましたが……」

「……残念だが僕の場合は力になれそうにない。回復魔法は扱えるが、治癒魔導士と比べたらお粗末な物だ」

「私も聖属性の魔法は……」



マドウほどではないが、ルイもイルミナも優れた魔術師なので彼女達ならば聖属性の魔法も扱えるのではないかとアルトは期待を抱いたが、二人は首を振る。残念ながらどちらもケルベロスに対抗するだけの聖属性の魔法は覚えていなかった。


ルイとイルミナでも対抗できないと知ると、レナは自分の魔法拳と魔鉄槍にかけるしかないと判断し、先に魔石の確認を行う。袋の中身を確認すると20個近くの魔石が入っている事を知り、アルトによると現時点で運び出せるだけの魔石を運んできたらしい。

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