第634話 ケルベロスを倒す手段

「聖属性の魔法が友好だとしても、残念だが儂でもどうしようも出来ん。やはり、ここは儂の最上級魔法で仕留めるしかあるまい」

「なっ!?ですが先生、あの魔法は危険過ぎます!!それに先生の身体にも大きな負担が……」

「分かっておる!!だが、他に方法が……」

「……あるかもしれません」

「何っ!?」



マドウとアルトの会話を聞いていたレナは闘拳に視線を向け、二人にケルベロスを倒す手段を思いついた事を告げる。レナの言葉に二人は驚くが、この状況で彼が何の根拠もなくそんな言葉を告げる人間ではない事は知っていた。



「レナ君、何か方法を思いついたのか?」

「一か八かの賭けになるけど……俺の魔法拳なら対抗できるかもしれない」

「魔法拳……そうか、聖属性の魔石を破壊して聖属性の魔力を取り込み、奴を倒すつもりか!?」



レナの言葉にマドウはどうしてその考えにもっと早く思いつかなかったのかと思い、この状況でそんな方法を思いついたレナにマドウは衝撃を受ける。




――魔石を破壊する事で本来なら自分が扱えない属性の魔力を取り込み、攻撃に利用する魔法拳の性質を利用すれば理論上はレイナは聖属性の魔法攻撃を行える。この方法ならば本来ならば攻撃機能を持ち合わせていない聖属性の魔法で攻撃を行う事に等しい。




問題があるとすればレナの魔法拳だけでケルベロスを倒せるかどうかであり、そもそも聖属性の魔石を確保する必要があった。そして今回の遠征のために飛行船フライングシャーク号の積み荷の中には聖属性の魔石が保管された積み荷があるはずだった。



「聖属性の魔石ならば飛行船の積み荷の中にあるはずじゃ!!同行する治癒魔導士のために用意した代物だが、十分な量はあったはず!!アルトよ、お主が持ってくるのだ!!ここは儂らが抑える!!」

「えっ!?しかし……」

「この状況下でお主が残っても何もない!!つべこべ言わず、早くドッグに向かえ!!」

「は、はい!!」



マドウの言葉にアルトは彼を近くの建物の屋根の上に下すと、自分はヒリューに乗って飛行船が保管されているドッグへと向かう。その様子を確認したマドウはケルベロスに視線を向けると、未だにコネコを追って建物を破壊している姿を確認する。



「ひいいっ!?もう無理、足が……うわぁっ!?」

『オオオオッ!!』



ここまで走り続けていたコネコの体力も限界が近く、彼女はどうにかバトルブーツを利用して逃げ続けてきたが、最悪なタイミングで風属性の魔石の効果が切れてしまう。


風の力を利用できなくなったコネコは建物の屋根の上に転んでしまい、それを見たレナは咄嗟に彼女を助けようとスケボを操作して向かわせようとしたとき、レナの上空を大きな影が横切る。



「掴まれ、小娘!!」

「うぇっ!?」

『オオオオッ!!』



声を掛けられたコネコは視線を向けると、そこには飛竜に乗り込んだ「カイン」の姿を捉え、彼女は反射的に腕を伸ばす。そしてコネコの腕を掴んだカインは飛竜を上昇させると、先ほどまで彼女が倒れていた場所にケルベロスの頭の一つが喰らいつく。


どうにか窮地を脱したコネコだが、そのまま彼女を抱えたカインはレナとマドウが存在する場所に向かい、ある程度まで近づくとコネコを手放す。慌ててレナは両手で彼女を受け止める。



「コネコ!!」

「うわぁっ!?きゅ……急に離すなよおっさん!?」

「大魔導士、いったい何が起きている!!あれはなんだ!?」



コネコは自分を手放したカインに怒鳴りつけるが、それを無視してカインはマドウは現在の状況を問い質す。カインの言葉にマドウはケルベロスに視線を向け、手短に話す。



「儂にもあの怪物の正体は分からん。だが、奴が王城を目指している事は確かじゃ。このままだと王城に存在する国王陛下と民衆の命が危ない」

「王城だと……!?」

「カイン大将軍、この場に竜騎士を全員集めよ。なんとしても奴の進行を阻止しなければならん。だが、あくまでも食い止める事に集中するのだ。理由は不明だが、奴に飛竜は近づく事は出来ん」

「ああ、それは承知している。俺の飛竜でさえも奴に近付く事を嫌がっている」

「シャアアッ……!!」



ヒリュウはケルベロスの姿を見て怯えた様にカインに擦り寄り、長年共に様々な戦場を駆け巡ってきたが、飛竜が怯える姿などカインは初めて見た。この様子ではケルベロスに近付いて攻撃を仕掛ける事も難しく、足止めさえも難しい。


しかし、ここでケルベロスを食い止めなければならず、もう既に邪魔者を振り払ったケルベロスは工場区から抜け出して中央街へと入ろうとしていた。このままでは王城へ辿り着くのも時間の問題であり、それだけは何としても食い止めるためにカインは「竜笛」と呼ばれる魔道具を取り出し、王都内に竜騎士をここへ呼び集めた。

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